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番外編TIPS:魔物編:ヴリコラカス


 バッカス王国と魔物の大規模戦闘には高頻度で出現する魔物。


 アンデッドの一種で、戦場に流れた血を人魔問わずに収集し、総身を血で形作る。血液で出来た不定形の魔物で、形は人型や大蛇と様々なものになる。


 流れた血が多ければ多いほど巨大になるという特性を持ち、ヴァルポリチェッラ東の海上では海を赤く染めていた血流が集まり、大竜となっていた。


 ただ、バッカスが討伐目標としていたアーセナルの周辺は静かなものだった。


 既に戦線は崩壊し、竜種の群れに押された巡航島は次々と追撃から脱落していき、決死隊が乗っていたハバククは何匹もの魔物を巻き込み、巨大な氷山となっていた。その氷山が小さくみえるほどの巨体を持つアーセナルは未だ健在であった。


 8隻の巡航島は全て敗れた。


 だが、バッカス王国はまだ敗けたわけではない。


 勝利を望み、人気ひとけの絶えたヴァルポリチェッラの地下に居続ける者もいた。


「例の新種イヴリースの排除、騎士が本体を捕捉した。とはいえ捕まえる事が出来たのは全体の九割だ。残りは逃げられた」


「そうですか。それは重畳」


「無能な政府め、と罵らないのか?」


「それは一応、自分に返ってくる言葉ですよ政務官長。それにたとえ全て討つ事に成功していようと、あんなものが作成出来ていたという事実は覆りようがない。もちろん、あえて逃して足取りを掴もうとしている者もいるのでしょう」


「ああ。……上手く親玉を捕まえて、可能であればあの技術も手に入れたい」


「確かにあれは有用だ」


「それと……そろそろ貴様も退避しろ、と魔王様からの勅命だ」


「そうですか。いざとなれば保険で退避しますよ」


 開けっ放しの牢獄内でくつろいでいた討伐計画課課長は――カンピドリオ士族の前士族長ハンニバル政務官長ロクスレイに対し、微笑みながらそう返した。


 政務官長はその台詞に「そうか」と短く言っただけで無理やりでも他都市に送るわけでもなく、牢獄内でくつろぎはじめた。


「勝てると思うか、此度の戦」


「さあ、どうでしょうな。確かなのはまだ勝ちの目が消えたわけではないという事です。精鋭での包囲は最終的に物量で押し返されたとはいえ、こちらの侵入という目標も達成している。今のところは痛み分け、としか言いようがありません」


「そうか」


「アルゴ隊の……イアソンの秘蔵っ子がアーセナル内部に侵入を成功させているわけですし、それらに賭けるしかありますまい。予定通りの苦しい状況ですよ」


 実際、静かになったアーセナル周辺と比べ、内部は荒れていた。


 最悪の状況である「体内に転移装甲が張られる」という事こそ無かったものの、内部では新たに生成された竜種達がバッカスの兵相手に暴れまわっていた。



「ッ……! こいつら、親の体内だって言うのに遠慮無しね!」


「赤ちゃんがママのお腹蹴る感覚なんすかね~」


「んなもんと同列に語るな!!」


 アルゴ隊のアタランテは後輩冒険者相手に叫びつつ、襲いかかってくる魔物へと魔矢を放った。その傍にいたヘラクレスはその背を守り、奮戦した。


 だが、倒しても倒しても魔物は現れた。


 乱戦の中、何人もの戦士が命を散らし、時に魔物の巨体に分断されていき――ヘラクレスは自分を突き飛ばしながら負傷し、殿についた冒険者に叫んだ。


「ぽるっくす! かすとる!」


「ぐ……構うな! 行け! ここは引き受けた!」


「後で追いつく……と言うと死にそうだな。気にせず先に行け! クレス!」


 双子の元騒乱者は入れ代わり立ち代わりに大立ち回りを繰り広げ、心配そうに見つけるヘラクレスが「ごめん!」と謝りながら行った後も戦い続けた。


 だが、二人だけでは抗しきれず、やがて押しつぶされて肉塊となった。


「エキドナのいる中枢は!?」


「まだ上だ! 時間も少ない! このまま真っ直、ぐぁ……!」


「このっ……!」


「また新手っすかぁ!?」


 横合いからやってきた大型の魔物に複数人が押しつぶされる中、アタランテはそれを助けつつ応戦した。だが、彼女はこれを直ぐ倒せないと判断した。


 判断し、一人先行して無事だったヘラクレスへと指示を飛ばした。


「クレス! 先行って!」


「えっ、えっ……でもっ」


「でもとか言ってる間に行っ――」


 閉鎖空間内で竜種のブレスが放たれた。


 それはヘラクレスを除いた一行に対し、ほぼ直撃の回避不能の一撃だった。


「…………! ぅ、ウゥゥゥ……!」


 ヘラクレスは走った。


 感情こころは生死不明の仲間の方へ向かいたかったが、理性が逆方向へと向かわせていた。一人、アーセナルの「敵」が待つ場所へと辿り着いた。


「よう」


 そこにあったのは大広間だった。


 そこにいたのは全身真っ黒の、顔に口しかついていない人型かみだった。


 その傍らには黒と灰色の機甲人形ハイエンドの姿もあった。


「一人でお疲れ様、化物君」


「………」


 大広間の入り口が閉まっていく中、少年は武器を構えた。


 視線の先に立ち塞がる天魔てきを打ち倒すために。


「この、後ろが終着点だ」


「…………」


「だが、この先に行くにはコイツを……天魔アレースを倒さないといけない」


「…………」


「アーセナル内部に来たお仲間は全滅したよ。さて、一人で勝てるかなぁ?」


 神が嫌らしい笑みを浮かべる中、両者が動いた。


 巨人と天魔がぶつかり合う、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。



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