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番外編TIPS:技術・計画編:国営大型巡航島・ハバクク


 バッカス政府が所有する島並みの大きさとなる巨大船舶。吸い上げた海水を凍らせて船体を作っており、平時は全長5キロの形態を取っているがこれより大きくなる事も小さくなる事も可能となっている。


 巡航島はどれも巨大だが時間をかければゲートでの運搬も不可能ではない。船体の氷を廃棄し、艤装と中核部を外して近場の海岸で再構築するという方法が取られる事もある。このような運用方法も可能である事は海水で船体を拡大修復可能という事と同じく、巡航島の売りとなっている。


 巡航島と同様の技術を使っている氷船というものもあるが、巡航島そのものが船舶の一種であるため本質は同じである。ただ、構成可能な最大サイズから巡航島と氷船として分類されている。


 ハバククは現存する巡航島の中でも古株にあたる巡航島だ。


 バッカス王国の海洋進出を大いに助け、単独で外海探索を任を負う事が多く、様々な海戦に参加し、何度も大破――どころから沈没も経験している。


 壊れ、沈むたびに政府研究所が作成に関わった新型艤装で再築されており、中枢コアも数度に渡って改造されている事から最新鋭巡航島と言ってもまったく過言ではない性能である。酷使されているとも言う。


 ハバククに限らず大半の巡航島は大口径砲を乗せ、運用しているが武器は砲だけではなく、氷の船体による突撃ラムアタックも得意としている。


 半端な大きさの魔物は巡航島達に激突され、全身の骨をバキバキと砕かれた上に船体から発せられる氷結魔術で全身氷漬けにされて取り込まれ、船体内に臨時通路を作った調理人達が取り込んだ魔物を解体し、船員達に振る舞っている。


 攻防能力どころか冷凍保存びちくと鬼畜さも合わせ持っているのだ。



 そんなハバククもエキドナとの最後の戦いに参加していた。


 それも本隊として動き、アーセナル体内に乗り込む決死隊を含む中核部隊を乗せ、ヴァルポリチェッラ東の海上への漕ぎ出し、戦いの時を静かに待っていた。


「ほらクレス、これがハバクク名物・塩かき氷だ」


「しょぱい。……船体これ、けずっていーの?」


「ぼくは特別に許可されているんだ」


「ほんと……?」


 クレスはドヤ顔を見せるイアソンを心配そうに見守った。


 正確には、イアソンの後ろに無表情で佇んでいるメーデイアに怒られたりしないかを心配していたが、クレスは怒られなかった。イアソンは船体に取り込まれた。


「重要な局面で良い御身ゴミ分ね」


「反省してま~す……!」


「アンタね――」


「ま、気楽にやろうぜ。力みすぎるより、程々に力抜くぐらいがいいのさ」


 氷の船体から蜜柑型の頭だけ出していたイアソンがふんわりと言った事に対し、メーデイアは「元の調子が戻ってきたようね」と言って微笑みかけたが、慌ててその表情と言葉を押し殺してイアソンのほっぺを引っ張った。


「いひゃぃ、いひゃぃぃ」


「ばーか」


「バカって言った方がバーーーーカ!」


 クレスは「ふたりとも仲いい」と言いかけたが、空気を呼んで口をつぐみ、腐れ縁のゴブリンとエルフが仲良く罵り合う光景をニコニコと微笑んで見守った。


 ただ、直ぐに厳しい顔つきで北の空を睨んだ。


「……きた」


 北方そこにいた。


 大型巡航島すら軽く凌駕する戦闘能力を持つ巨体がいた。


 それは偶然通りがかっただけの渡り鳥に接触し、転移装甲で肉塊と変え、その死も人の死も、自分が生成した魔物達の死も歯牙にもかけずに降り立った。


「戦闘準備――しつつ、衝撃に備えろ……!」


「一時船内に退け。津波で流されかねんぞ」


 降り立ったのは全高1000メートル、全長5000メートルの巨体。


 超高速で飛んでいたわけでは無いものの、その巨体ゆえに海に着水した時の衝撃は――驚くほどに静かであった。破滅的な音は響かなかった。


 少なくとも、着水の瞬間は響かなかった。


 しかし、竜種アーセナルは全身を転移魔術による転移装甲で包み込んでおり、それにより一時だけは海水を吸収。次の瞬間には吸収した反対側の装甲から海水を吹き出し、周囲に撒き散らした。


「ッ……! おぉぉぉ……! ゆ、揺れ……!」


「これ、持つのか!? 巡航島でもさすがに流され――」


「持つ持つ! これぐらいなら、もっと酷い海域もたまにあるから多分持つ」


 流されなかった。対策は講じられていた。


 全ての巡航島が海底まで複数のアンカーを打ち込み、発生する大波を島本体とは別に作っていた仮装船体を砕かせながら受け、時に海中に潜り込みながらも何とかアーセナル全周から放たれた大波の一撃を耐えきった。


 備えてもなお、船内は無茶苦茶に混ぜられ、多数の怪我人が出たが備えていたがゆえに死者は出さずに直ぐに対応を始めていた。


「巡航島の前進に先んじ、アーセナルより出撃してくる竜種の群れに対応する!」


「出撃してくる竜種達はアーセナルの体積なんてお構いなしの量が出てくるぞ。ゼロから新しく生成されてるみたいだからな。おそらく今回も合算すればアーセナル数体分の大きさの竜種が羽虫のように湧いて来るぞ」


「総員、海戦用意。死ぬなよ、海だと装備の回収が面倒だ」


「了解! キッツイ相手だが、それでもアーセナルと取り巻きだけなら――」


 そんな甘い話は無かった。


 作戦前から周辺海域の魔物は討伐されていたとはいえ、全てを倒せたわけでは無かった。巡航島は前方をアーセナル、後方を在野の魔物達から挟撃されていった。


 竜種との戦闘は任せられない別働隊がさらに展開していたものの、大海戦に呼び寄せられた新手の魔物達は周辺防衛網を容易く潜り抜けてきた。


 だが、これだけであればまだバッカス政府の想定通りであった。


 横槍は――海上でも構わず――入れられる事になった。



「神様と豚君は『負けも良し』って態度で挑んでるけどさぁ……。最初から、そんな後ろ向きだと勝てる戦も勝てないよねー? ボクはガチりまーす!」


 悪意を配達しに来たのはアーセナル製造に関わった死霊術師。


 そして、彼女が用意した装備を使用する騒乱者達であった。


「イヴリース隊、竜種を上手く盾にしつつ順次参戦してってね」



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