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番外編TIPS:騒乱者編:カタキラウワ



「何故、罪もない人々を巻き込む」


「んー、理由? ……うーん、確固たるものはないブヒねぇ……?」


 制圧された騒乱者のネストにて、二人の男が言葉を交わしていた。


 騒乱者の名をカタキラウワ。種族はエルフ。しかしエルフと言い切るにはあまりにも醜い豚面の彼はブヒブヒと鳴きつつ、笑いながら問いに答えていた。


 その額には汗で濡れ、まだ無事な手で押さえた脇腹は内臓がこぼれ落ち、満身創痍の状態だった。この窮地から脱するための魔力は既に略奪コール吸収ブランドされており、既に抵抗を諦めていた。


 しかし別段命乞いをするわけでもなく、これといって媚びる事もなく自分を捕まえにきた調係バッカスに対し、飾ることのない本心を告げていた。


「お兄さん、あれブヒか? 悪事を犯す以上、それ相応の――例えば金に困ってたとか、悲しい過去があったとか、そういうのを求める人ブヒか?」


「…………」


「申し訳ないけど、ボクはそういうのは無いブヒねぇ」


 ああいやもちろん、悲劇そういうのを作る方には大いに加担したよと豚面は笑った。痛みでひきつった笑みだったが、笑った。問いかけた男は無表情だった。


「フツーの家に生まれて、いまとは違ったフツーの顔で生まれて、フツーに生きて、フツーに恋をして、フツーに欲情して好きな子を強姦したらお尋ね者になったから、あらら、じゃあこっからは騒乱者として生きようとしただけだよ」


 豚面は肩をすくめ、「フツーの加害者でしょ?」と言ってのけた。


「あとはまあ……純粋な好奇心かな? 一度騒乱者になってしまった以上、いっそのこと異端の生業プレイスタイルで人生楽しんでみようと思ったわけで。それが向いてて、色々きもちいー想いさせてもらって❤ うん、実際楽しめたブヒねぇ」


「……この後もまだ『楽しかった』と言えるか」


「あー、ぜったい泣き叫びます。痛いの怖いし、わんわん泣いて許しを請うと思うブヒよ? ボク、根っからの異常者じゃないし。少し邪悪だっただけ❤」


「…………」


「捕まった後で後悔するのは目に見えている。けど……捕まるか捕まらないかの狭間に立つのは楽しかったし……悪逆たねづけ非道レイプが楽しくてたまらなかったのは、拷問されても変わることのない過去じじつブヒよぉ❤」


 調係オークは溜息をついて首を振り、騒乱者の拘束を開始した。彼の傍には無数の人影があった。だが彼は一人だった。


「あー、待って待って。そっちの質問に答えた代わりに一つ教えて。ボク、どこで足がついちゃった? 元・黒髪巨乳エルフのアリアちゃんと元・銀髪巨乳エルフのイリアちゃんのところに立ち寄ったのが不味かったかなぁ、と思うんだけど」


 調係は答えなかった。


 騒乱者は鼻息を出しつつ、「まあいいか」と考えていた。自分の子供達は――騒乱者達は大半が捕まったか死亡していたが、それでもまだ潜伏させている者もいて、そういう者達が自分の仇討ちをしてくれるだろうと思っていた。


 期待はしていない。だが、誰かに影響さえさえれなければ父親の意志を継ぐように教育せんのうしたからこそ、騒乱者は単なる事実を淡々と想った。


 復讐よりも自身の起こす騒乱の行く末を案じた。


 彼の最後の仕事――バッカス王国内にエキドナ・アーセナルに対する不安を扇動する仕事は殆どの行程を完了していた。


 国民の不安を煽り募らせ、国民の声で都市の防衛をさらに厳重にするように抗議させる。これにより各都市の防衛を必要がないところまで固めさせ、バッカス政府がエキドナに向けたい戦力を分散させる狙いで動いていた。


 空を飛ぶアーセナルが首都ではなく、ヴァルポリチェッラの神意不可侵領域を狙っているのであれば「一般国民じぶんたちには関係ない」と信じた国民が将来の事より目先の事に目を向け、彼と神の目論見通りとなりつつあった。


「ああ、それと、そろそろお伝えしておいていいかな? 政府きみたちが討伐しようとしているサーベラスって魔物、元は人間だから。バッカスだとヘラクレスっていう、立派な名前をもらってた子なんだけど――」


 騒乱者はとっておきの秘密を明かすように嫌らしい笑みを浮かべた。


 それはもうすっかり、邪神カミが浮かべるそれに似通ったものだった。


「サーベラスは本来は人間だった。けど、母親の胎内にいるうちに人体改造を施し、魔物の身体に人の心を持ち合わせる存在として作った。ただ、いつまでも理性を保てるわけではなくてね?」


 一度、本格的に魔物化が進むと――サーベラスとして覚醒すると歯止めが効かなくなる。もはや、人間に戻る事は不可能になる。


「その刻限がもうそろそろだ。さて、どうなるかな」


「貴様ら騒乱者なら止められるのではないのか」


「無理だよ。ボクらは手綱を離した。最終的に暴れまわってくれるだけでも十分オモシロそうだったからね。便利な抗体ワクチンなんて用意してない」


 騒乱者は嘲笑った。


 最後の最後まで嗤った。


魔獣アレはもう、バッカスの技術では救えない」


 騒乱者は嘘をつかなかった。


 事実、その通りだった。


 騒乱者かれがそう告げたその時、サーベラスは完全な獣と化した。


 少年かれが大事にしていた理性こころは溶け、魔物の本能に飲まれた。


 それはもう、バッカスの総力を尽くしてもどうしようもない事だった。


 バッカス王国には、どうしようも出来ない結果に至った。



 だが、それでも、


 少年ヘラクレスは諦めなかった。




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