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番外編TIPS:第十一試練:サーベラス


 ティターン士族の都合あくいで作られ、神の都合もうしゅうで人の世に送り出された魔獣。人に寄り添い生きたかった者。


 その真の姿は体長5メートル、真紅の毛皮を持つ四足歩行の獣。二股に分かれた伸縮自在の尾は先端に鋭い大刃を持ち、敵を甲冑ごと容易く斬り裂く。本人の意志とは無関係に。


 エキドナを守る騒乱者こども達の切り札として戦場に投入された彼の体は薬物により狂える魔獣と化していたが、意識にはまだ人らしい理性が残っていた。


 だが、魔物の体はその理性を受け付けず暴れ回る事を選んだ。巨人の少年であった者は自分の身体が自分ニンゲンの意志に逆らい、バッカス王国の冒険者を、士族戦士を打ち倒す事を見送り、声なき悲鳴をあげるしかなかった。


『7/w……』


「なかなか骨のある魔物ヤツが来ッ」


「おいおいおいおい! 何だこの硬さ!」


「前に出た獅子竜種ネメアーに似てるな……! 同種かァッ!?」


 立ちふさがってきたカンピドリオ士族の人狼達は踏み潰され、尾刃に真っ二つにされ、打ち倒された。それでも戦士達は心底楽しそうな笑い声をあげ、真紅の獣に対し立ち向かっていった。


 人狼達はバッカス王国にとっては頼りになる戦闘狂だが、百を超える数に囲まれたサーベラスにとっては真反対の存在であった。


『b0e9&! b0e9&<b#e9&……!』


 少年であった者にとって、人狼達は恐怖しか抱けない対象であった。


 だが、殺すべきではないと認識していたが――暴走する身体から振るわれる爪牙は次々とカンピドリオ士族を血祭りにあげた。


 狼達はしぶとかった。潰されてもぐちゃぐちゃの身体でサーベラスの前足に組み付き、真っ二つになった身体を自力でくっつけ走り回り、頭だけになろうが哄笑と共に獣の身体へと食らいついていた。


『7q@9&<7q@9&Z!』


 だが、彼らでさえも魔獣は止められなかった。


 魔獣の真紅の毛皮はあらゆる攻撃を防ぎ、魔物の身体は魔物染みた人狼達の遥かに凌ぐ膂力で暴れまわり――そうしたくないのに――狼達の頭を潰していった。


『nyu<buew@%……i:@w%……!』


「チッ……来やがれバケモノ! 観測班には指一本、触らせな、グ――」


 サーベラスはエキドナが使っている転移装甲に類似した転移魔術を使い、短距離転移で拘束から脱し、男も女も老人も若者も構わず殺した。


 一時後退した戦士達は転移による縮地により、一瞬で距離を詰められ、再生不可能な状態まで追い込まれた。魔獣は戦闘を繰り返す事により、人狼であっても頭を潰せば自己再生を封じれると学習してしまっていた。


 治癒や蘇生魔術の使い手も積極的に殺した。そうした方が「楽になる」と少年であった者自身がよく知っていた。バッカスでの生活により、学習していた。


 サーベラスの毛皮を貫く攻撃を繰り出す者はいなかった。


 だが、柔らかい部位めだまへの一撃は通った。


「止まり、やがれ……!」


「そこで……くたばってろッ!!」


『3333333333333! eq@eZ<eq@<eq@EEEEeeeee!』


 手傷を負ったサーベラスはさらに強く暴れた。その暴走は理性しょうねんの手綱から完全に離れたものであった。獣らしくなればなるほど、サーベラスは強く――人間からかけ離れた存在になっていった。


 サーベラスは殺した。多くを殺した。


 戦いながら学習し、戦いながらミシミシと骨と肉を軋ませ巨大化し、魔物らしい強さを縦横無尽に振るい――やがてひとりぼっちになっていた。


『#|……###……####……!』


 真紅の毛皮は血や肉塊で飾り付けられた。


 それが勝利ぎゃくさつ報酬しょうめいとなった。


 死体の山の上で一人――いや、一匹のみが息をしていた。サーベラス作成に携わった者が――たった一人を除き――歓喜する成果を戦場であげていた。



『et<ug'……』


 サーベラスは関節技を仕掛けられ、折れた足を引きずり歩いていたが直ぐに再生し、血溜まりの中を駆けていった。何も見えなくなっていた両眼もまた、突き刺さっていた槍を押し出す形で再生していた。


『c4aょ……そうa)……みんu、k<i6<e……そうちょk、におい……』


 サーベラスに投与された狂化薬。


 魔物らしく暴れるための薬は常人であれば即死するか廃人と化してしまうほどの量が打たれていたが、暴れまわっているうちに、狂化の毒による暴走を乗りこなしてみせていた。


 それは使い魔越しに戦況を観戦していた魔術師メフィストフェレスが「へぇ、デルピュネちゃんより格段に優れた耐性だ。ちゃんと引き継いでるなぁ」と関心するほどのものであった。


『c4a)……そうちょ……!』


 彼にとって、自分の性能はどうでもいいものであった。


 人型であった時よりも発達した嗅覚が「大好きな人達」の匂いを嗅ぎつけるのに「便利」であったぐらいで、他の全てがどうでも良かった。


 サーベラスは駆けた。時折、暴走の手綱を握りそこねて人を殺した。


「ア、がっ……」


『ぁ……ごめ、ux……e』


 それでもサーベラスは駆けた。


 魔獣こんなことになってもなお、「総長そうちょなら助けてくれる」と信じ、殺してしまった者達に謝りながらさらに死体を積み重ね、駆け回った。


『c4a)……!』


 やがて獣の視覚が探し人達を――バッカス最強の冒険者クランを捉えた。


 彼は悲しみの中、それでも嬉しくてたまらなくなって走り、近づいていった。


 その精神こころは、大好きな飼い主のところに駆け寄る子犬のようであった。


 だが、その姿は血化粧と臓物の首飾りをつけた恐ろしい怪物でしかなかった。



『c4a)、ぼくq@よ! cうちょ、たすけ――』


「撃てーーーーッ!!」


 駆け寄ったサーベラスに向け、響いたアルゴ隊・総長の号令こえ


 その声と共に、魔獣は自身の身体がゴッソリとえぐられるのを知覚した。


 都市郊外を流れる屍山血河。


 その中に、魔獣サーベラスの血肉がボトリと落ち、混ざった。



『…………………………………………』



 魔物の身体は即座に再生した。


 魔物の身体は、人語を発する機能が失せてしまっていた。


 しかし、魔物の耳は冒険者達の呪詛と追撃を叫ぶ声は理解していた。


 理解したかったからこそ努力した成果であった。



『uyw@』


「浅いかッ……! クソッ、魔薬追加! 連戦で魔力が持たねえ!」


「薬代もったいねえけど仕方ねえよなぁ……。コイツ次第でトントンまで持っていけるかもだが、どうだよ化物サーベラス、お前の心臓は高く売れるか?」


「金なら、ぼくが全部出す! ころせ! 絶対に逃がすな! 魔物は全部殺して……アイツを助けにいくんだ……!」



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