番外編TIPS:冒険者関連情報編:ソーテルヌ島
首都サングリアの遙か北――ヴィントナー大陸よりもさらに北の海上に存在している島。かつて栄え、忘れ去られた島。
ヴィントナーにおける天魔戦線後に本格的な開拓が行われる予定だったが、ほぼ一年中、濃霧に覆われた島で視界が利かないうえに強力な魔物が出やすいという開拓困難な場所であった。
それだけならまだやりようはあったが、調査の結果、レイラインの要所から外れていたため都市間転移ゲートを敷設する事が出来ない孤島である事が発覚。衛星都市を築いても維持が難しい事もあって結局、都市開拓は行われなかった。
しかし、ソーテルヌ島内には様々な希少資源が存在しており、「大海原の真中にある」「霧で視界が悪く魔物も強い」「ゲートが設置できない」という問題を差し引いてもなお利益を出せる場所だった。
そういった資源事情から力ある士族が各々野営地を築き、資源採取・採掘で一時は栄えたものの、資源も限界があるためやがて採算があわなくなり、現在は全ての野営地が撤収した「忘れ去られた島」である。
島の野営地が閉鎖された後も、政府が騎士や調査団を派遣して「何かしらの異変が起きていないか?」の調査は定期的に行われているが、それでもなお「いまは誰も住んでいない無人島」と目されていた。
そんなソーテルヌ島にイアソン率いるアルゴ隊は降り立っていた。
この島に、自分達が拾った巨人の少年に関わりのある「集落」があると聞いて。
「しかし総長、まーじでこんな島にティターン士族の隠れ里があるんすか?」
「その隠れ里にいたかもしれない本人が、まだちっこいうちに海をジャバジャバと渡ったなんてあり得るのかしら? 当時の記憶が曖昧とはいえ……」
「わかんねー。けど、神様はここだって言うんだよなぁ」
海上からは巨大な積乱雲があるように見えるほど、深く大きな霧に包まれた島の中、イアソンは「ソーテルヌ島に行け」と言った神の意図を測りかねていた。
ここに来て新しい情報を教えてくれた事に関する疑問もあるが、そもそも巨人の少年の「母親はどこにいるか?」について神に問い、「教えてほしければ十二の試練を突破してみせろ」と言われていたのが彼らである。
イアソンは、仮に母親の居場所――ティターン士族の集落に関して教えられるとしたら、十二試練が終わってからだと考えていた。しかし、そうでは無かった。
「そういやそもそも、例の十二試練って途中で失敗扱いじゃないんですか?」
「いや、まだ続いている。ぼくが首都で蘇生された日、神様がソーテルヌ島にティターン士族の集落があるって情報を持ってきて……その時、残り四つの試練……第九から第十二試練も引き続き頑張れって言ってきてさ」
「第九と第十は、プロメテウスとアレースですよね?」
「そうだ。つまり、最終的にはアイツらも倒さなきゃならない」
「逆に言えば、今回向かうティターンの隠れ里に……アイツの母親はいない、って事ですよね? この島内で残り四つを頑張って突破しろ~、と言われない限り」
「多分、そういう事だなー」
少年の母親は島にいない――かもしれない。
そうであっても、ティターン士族の集落に向かう事は価値ある事であった。少年がティターンの巨人の血を引いている検査結果が出ているうえに、このタイミングで神が今回の情報をもたらしたがために。
「まあ、ソーテルヌ島に来たのは別にいいんだけどさぁ……」
「「「「いいんだけどさぁ?」」」」
「何で、メーもついてきてるわけ?」
イアソンの問いに対し、少し離れた場所に立って観測魔術を使っていたメーデイアは鼻を鳴らし、大層不機嫌そうに「仕事よ」と答えていた。
「バッカス政府もティターン士族の状況を確認しておきたいのよ。だからこそ私が政府側の調査隊を率い、交渉役として政務官の子もやってきたの。わかった?」
「いや、それはわかるんだけどさぁ、メー以外でも良かったんじゃない……っすかね……あっ、うそです、そんな睨まないで……」
「私は派遣された身よ。まったく、アンタと仕事しないといけないのは最低最悪の気分だわ。竜種討伐明けに休暇を楽しむ予定だったのに」
「あっれぇ? メーデイア様、自分を調査隊に加えろって直談判してまし」
不用意な発言をした若い政務官は尻から虹色の糞が出る状態にされ泣いたが、アルゴ隊の若手冒険者達は「カッケー!」とはしゃいだ。
かくして、アルゴ隊と政府調査隊は神からもたらされた情報をもとに、改めてソーテルヌ島での調査を開始していくのだった。
人があまり訪れないとはいえ、今まで何度も調査していた以上、巨人の集落を見逃す事など有り得ない――そう思われていた。だが、その判断は覆された。
「なるほど……入り口が丁寧に偽装されてたって、事か……」
一行は魔物を倒しつつ、霧の中を進み、島内の森の一角に辿り着いていた。
そこは一見、降り積もった落ち葉が折り重なっているだけのように見えた。だが、特殊な魔術的手法を交えながら落ち葉を退けていく事で、一枚の「巨大な扉」が地面に転がっている状況を発見する事が出来た。
「扉があっても、その下……地下空間には何もないみたいっすけど?」
「地下にはなー。だけど、ここを開くとあら不思議」
扉の先は別次元へと繋がっていた。
「あぁ……ダンジョンに入るための扉です、か」
「別次元をまともに作れるのは神だけだ。つーことは、ティターン士族がここに隠れ潜んでいたってのは、最初から神の差配って事だなー。さて、ひとまずぼくが斥候として見てくるから、皆待ってて……おーい、メー、人の話を聞いてる? ちょっと、ぼくより先に入って進むのやめようぜ、ねぇ……聞いてる」
「聞いてない」
「ですよねー。くそっ、じゃじゃ馬め、アッ! お腹の中が……魔術で……かき混ぜられて、うんこが虹色になっていく感じが……アッ、アッ……!」