番外編TIPS:第六試練:ラドゥーン
世界開拓の最前線に出現した魔物。分類としては竜種だが、一匹狩るのに平均的な熟練冒険者200人が半数以上の損耗を出しながら何とか狩れる程度と竜種としては比較的弱いものである。
ただ、同種と群れる竜種で、竜種としては非常に繁殖能力が高く、ねずみ算式に増えていく事が発見以降、神より「早く討伐しつくさないと大変な事になるぞ~」と面白半分に警告された事で冒険者ギルドは早期対応のための精鋭討伐隊を組織する事を余儀なくされる事となった。
ラドゥーンが十二試練の六つめとして用意された事と、政府から要請された事でアルゴ隊も参加する事となり、総長であるイアソンは冒険者ギルドに進発前の会議に呼び出されたのだが、そこで元嫁のメーデイアと出くわす事となった。
「げっ」
「げって何よ。私がゲーッ! と吐きたくなるわ!」
「お前が酔った時に吐くゲロすごいからな……体面を気にして、慌てて視覚操作の魔術使うから、虹色の……いたいいたい! ほっぺつねるな!」
二人はひとしきり喧嘩した後、会議に参加していった。
メーデイアは国家有数の腕利き女魔術師――魔女の一人として讃えられる者で、バッカス建国当初から政府に深く関わり、魔物の死体活用で結果を残している。
魔物油の幅広い活用方法を提案した事が最たる成果だが、都市郊外での冒険者稼業を通じて現在も国の発展に寄与。
新種の魔物研究も精力的に行っており、政府の調査隊に所属しながら自分で魔物をブチ殺し、実地で血まみれになりながらゴリゴリと魔物を解体し、サンプル採取と「骨までしゃぶり尽くす」と豪語しながら骨をノコギリで切り活用方法を検討する姿は女傑と呼ぶにふさわしいほど逞しく、多くの冒険者の尊敬と、「徹底しすぎてて引く……」という畏敬を集めている。
新種の竜種であるラドゥーンはメーデイアが仕切る調査隊が発見したものであり、現地で討伐してきた一匹を殺し解体して生物学的見地から討伐対象の情報を提供しつつ、討伐隊にも参加する事になった。
本人はイアソンも参加する事で、非常に嫌そうにしていたが、そこは仕事と割り切って嫌々、仕方なく、不機嫌さを表に出して職務を遂行していった。
「今からアンタら外してもらえるよう、上告して来ようかしら」
「ふざけんな。こっちも討伐参加しないといけない事情があるんだよバーカ! 痛いッ! やぁぁぁ~ん! お尻の穴ほじくるのはやめてぇっ❤❤❤」
「あの巨人のため? そういえばこの間、アンタを元気づけたいって好きなもの聞きに私のとこ来たわ。あんな小さい……年齢的には小さい子に心配されないよう、シャキッとしときなさいよ、このダメ人間」
「うるさいなぁ、そんな口うるさいからお前モテないんだぞ、美人なのに」
「うるさいわねぇ! 私がモテないのはアンタが金絡みの問題を持ってきまくってた事も関係あるのよ!! 別にモテたいとは思わないけどアンタの所為だと思うと無茶苦茶ムカついてくるわタコ! カス! クズ! チビ!」
「チビ言うな! この仕事人間! 性悪委員長! いてて暴力反対ぃぃぃ!?」
会議後、ギャアギャア騒いで喧嘩するいい年こいた二人は生暖かい目で見られつつ、会議室に取り残されたが、ひとしきり喧嘩した後は真面目な話をしていった。
「最近、ホントに新種のヤバイ魔物が多くて困るわ」
「ぼくらが突きつけられてる十二試練の関係じゃないよなー。それより前から何かおかしい……。計画課の課長にも言ったけどさ、いま水面下で何が起きてんだ?」
「アンタには……まあ、言ってもいいだろうから言うけど、最近出てる新種の魔物は九割以上、元は同種よ。アンタのとこの巨人の子が狩った獅子も含めて、ね」
「は? 同じ竜種って事じゃなくて……別の意味で同じって事か?」
「同じ遺伝子を持ってるのよ。姿形は異なってるけど……多種多様な竜種を産む……あるいは生成している親玉がいるのかもしれないわ。神以外にね」
魔女は淡々と、十二試練以前から一連の「事変」が起きているとイアソンに告げた。根底には未だ姿が確認されていない悪意が存在している、と。
「その親玉が何者か突き止めて殺さない限り、現状が続くわ。いえ、続くどころか悪化の一途を辿っている。……世界開拓を進めるどころじゃないぐらいにね」