番外編TIPS:バッカス街歩き編:バッカス国立学院・学院食堂
学院に通う生徒達の昼食は大別すると「持参」「学院食堂」「食堂以外からの校内店舗からの購入」の三種類が存在する。
持参は家族なり恋人が作った弁当や校外の店舗で買ったものだが、学院内にも学院運営ではない店舗がいくつか出店されており、バッカス全土から学生が集まる学院ゆえにかなり大規模なフードコートが存在する。
校外から出店する場合は国の許可を取り付け、なおかつ出店料を支払う必要がある。この出店料は学院の運営費に回されているのだが、少々高めである。ただ、若者をターゲットにした店は宣伝のために多少無理をしてでも出店枠を勝ち取ろうとしており、数多の商会が水面下で駆け引きをしている。
だが、生徒が大勢いる事からお昼時のフードコートは非常に混雑している。この混雑は学院食堂が始まった当時からある問題で、対策として事前注文制度が整備されている。
国立学院の事前注文制度は朝のうちに注文票を提出しておく事で、食堂も店舗も敷居をまたいで一括注文出来る制度で、店舗によっては校内の調理場だけでは間に合わず、校外からも応援で出前を行っている。
生徒の大半がこの制度を利用しているのだが、これがあってなお昼時のフードコートは非常に混雑している。だが、この混雑を制する生徒は冒険者として大成すると専らの噂である。ほぼまったく根拠はない。
学院食堂のメニューは10種類の定食のみで、出店店舗と比べると華が無いのだが味は悪くない。服が弾け飛ぶほど美味ではないが、生徒は毎日定食2つまで無料という事から「定食+店舗の揚げ物やデザート」を頼む者が多い。
アルゴ隊の総長の奥さん――もとい元嫁である魔女・メーデイアを捕獲……もとい、「借金取りではない」という誤解を解いた巨人の少年は落ち着きを取り戻したメーデイアに連れられ、お詫びもかねて食堂で奢って貰える事になった。
「お嬢様達も好きなもの頼んでくださいね」
「私、おなかへってないです……」
「あんにゃもへってないから、控えめにカツカレー定食×10にすりゅ」
「あたま馬鹿スです」
幼女達がワーワーと食事しているのを尻目に、メーデイアと少年を見つめた。
メーデイアは離婚した元夫に何度か連帯保証人にされ、痛い目を見た経験からコネを使って関係者以外は入りづらい学院内に居を構えていたのだが、借金関係以外で元夫に関しての話を聞きに来る者がいる事に少し物珍しさを覚えつつ、エルフの長耳をいじりながら少年の話を聞き始めた。
「はぁ……あのド屑の好きなものねぇ……」
「そ……そうちょは、クズちが……や、やさしい、もん……」
「あのね? 悪いことは言わないからアイツとつるむのは止めなさい。金に汚い守銭奴よ。一応、私が保証人になっても完全に立て替えさせられた事はないけど、平気で支払い滞らせて相手方や保証人困らせるようないい加減な男なんだから。やる時はやるけど、私生活もズボラ過ぎるし、直ぐ浮気するし……!」
メーデイアは政府関係者である事もあって、「都市郊外で保護された謎の少年」の話は小耳に挟んでおり、神絡みの案件かもしれないと警戒していたのだが……ちょっと困った様子でイアソンの事を擁護する少年を見ているうちに、警戒から同情へと心が移ろいつつあった。
「そうちょ、やさしい。ぼくのおかね、ふやしてくれる……らしい!」
「それ勝手に投機されてるだけよ。直ぐ返ってこない事あるでしょ?」
「ゥ…………」
「まあ、最終的には借金してでも返してるでしょうけど……何というかホント、お金関係はホント駄目人間だから、付き合ってると疲れるわよ。大体あなた、まだ未成年でしょう? イアソンにいいように使われるんじゃなくて、もうちょっと子供らしい普通の生活を――」
少年はイアソンの好きなものを聞くために来ていたが、メーデイアがあまりにもイアソンを悪く――事実に基づいて悪く言うので、次第に怒る……というか半泣きになって「もういいっ」と癇癪を起こしてめそめそ泣きながら帰ってしまった。
「ゥー……」
「もぐもぐあにゃぁぁぁ……泣いちゃめーだよ? めめめっ。もぐもぐ」
「食べるか慰めるかどっちかに……あ」
少年を送っていた幼女のうち、金髪幼女の方が学院の建物の方から飛んできたものを見つけ、ぴょんと飛び跳ねて掴んでいた。
飛んできたのは紙飛行機であり、そこには綺麗で読みやすい字と簡単な図解付きでイアソンの好きな飲み物とその作り方が記されていた。
少年がそれを見て喜び、幼女達に「良かったですね」「あにゃおなかすいた」と言われている光景を遠くから眺めていた魔女は、溜息一つついて自室に帰り、ここ最近続いている魔物の異常発生に関する情報をまとめる仕事へと戻っていった。




