番外編TIPS:冒険者の道具編:流砂罠
バッカス王国で使われている罠の名称。用途としては魔物拘束用だが敷設規模次第では、この罠だけでも窒息死を狙う事も可能である。
流砂とは水気の多い脆い地盤の事。流砂罠は「底無し沼」を作るものである。
底無しとはあくまで比喩だが、踏み込むとズブズブと沈み込み、暴れれば暴れるほど沈んでしまう流砂地帯を作ってしまうのが流砂罠である。
一般的な作り方としては、流砂罠作成用のスライムを地面に垂らし、術者がスライムを操って地中に広げつつ同時に水を流しこんで水分を多く含み、保持する土壌に改善していくというものである。
腕利きのスライム使いでなければ敷設に時間がかかるものの、敷設しさえすれば飛行能力を持たない魔物を拘束し、殺すのにはそれなりに有用な手段である。
流砂罠に囲まれた場所に陣地を築き、集合香や音響で周辺の魔物を誘き寄せ、流砂罠にかかった魔物を「えいえいっ!」「怒った?」「怒ってないよ」と突くなり、矢を射掛けるなりして殺す狩猟方法も存在する。
流砂罠で改善された土壌に大量の魔物が取り込まれると罠として機能しなくなるが、くくり罠のように引きちぎって壊されるという事は無いので、対魔物の有効手段として広く使われている。
都市によっては都市防衛用に広範囲の流砂罠を設置している。流砂罠注意の看板を立てかけているのにうっかり流砂地帯に踏み入り、沈み込んで死んでいく――主に異世界人の――冒険者の被害報告が上がってくる事もあるが、その辺は気をつければいいだけなので有効な手段として使われ続けている。
カルヴァドスの森へやってきたグレンデル開拓社は開拓街周辺に流砂罠を敷設した後、本格的に都市開拓を開始。
アルゴ隊は警備協力の代わりにその開拓街を野営地として利用する事になり、毒で少しだけ弱っている巨人の少年をそこで休ませ、既に倒されている第四試練の魔物を探し、森へと向かっていった。
少年は開拓街の寝床で眠りつつ、夢を見ていた。
それはかつてあった事。彼が生まれて間もない頃の記憶。
その頃はまだ子供でも抱っこ出来る大きさの少年は、安らぎの時の中にあった。小さな彼を抱き上げ、あやしてくれる者の存在があったのだ。
だがその安らぎはしばしば、中断された。悲しみの最中にありながらも、慈しみの心を持って赤児を抱いていた人物の肩に手をかける者達がいたためだった。
「e7……m4<3k6hrlf<e7……!」
「4.xe>gxjig)v:yfue>0;owEq|ydc@hkd(ht@yをqZper.q/kedr@5iu;.bsを<-bli6m4t@ee」
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簡易の寝台に置かれた赤児の少年は、自分を抱っこしていた人物が泣きながら、何者か達に群がられている光景をただただ見守るしかなかった。
「…………まぁま」
「目が覚めた?」
「ゥ……」
額を撫でられる感触で目を開いた少年は、涙に滲む視界で自分を撫でている人物を母親――と思いかけたが、心中で頭を振って否定した。
彼を撫でていたのはグレンデル開拓社の女性巨人で、床に伏せっている巨人の少年の看病をしてくれているだけの人物であった。けして、彼の母親ではない。
そうではなくとも、優しくしてくれる母性を感じる存在は、不穏な夢を見た少年の心を少しだけ癒やしてくれるのであった。
「もういっそ、ウチの子になっちゃう?」
「ゥー……」
少年は相手が何を言っているか、半分ぐらいは理解したものの、恥ずかしげに寝転がって受け答えを拒否した。女性巨人は優しく微笑みつつ、少年の頭を撫でて「何かあったら言ってね」とその場を去っていった。
優しく、母を感じさせる存在。
だが、実母とは違う存在。
少年はおぼろげな過去の記憶を夢を通して思い出しつつ、自分の母親について思い出していた。自分の母親はけっして、巨人種ではなかった。
大きかったのは、夢の中の女性を泣かしていた者達であった。その中には大きくない者や、骨のような者もいたが、少年はその事は直ぐに忘れてしまった。
まぶたをつむれば、時折見る泥沼の如き不穏と、慈しみの安寧が同居する夢。
そこに映る女性にとって、この記憶は心安らかなものではなかったであろう事を、少年は理解しつつあった。
何をされていたのかは、理解出来なかった。