旧校舎に行こう
「誰か連れて来い、ですか」
「ああ。戦力を充実させたいって。何か上手い事企画してくれだとさ」
俺とシズカは学院の裏手にある森の遊歩道をてくてくと並んで歩いていた。
程よくキレイに整備されてる道の横には点々と古びた外灯が立っていて、もう少し日が落ちたらちゃんと点灯し始めるとの事だ。
そして前方には妖しくそびえる時計台。
歩みと共に、吸血鬼でも住んでそうな洋風建物が視界の中で次第に大きくなってくる。
とりあえず今日のところは俺の気持ち悪さに免じて、タイガー理事長が解放してくれた。
シズカに、俺のひとまずの寝床となる旧校舎まで案内するよう命じると、シッシッ! と野良猫でも追い払う様に、タイガーは気持ち悪い俺達を理事長室から追い出した。
理事長の正体について、俺は口にする気はない。
あのタイミングでシズカに席を外させたからには、シズカにも伏せている事なのだろう。
色んな生命が──生まれたからには色々、抱えている。それだけだよ。
「──なるほど。では『クィーン・カフェ』のマスターはカタリさんにお任せするみたいですね」
ふむ、と片手を口元に添えながら思案顔のシズカ。
「カフェの……マスター? なんだそれ」
俺は横目でそれを見ながら眉をしかめた。
「この学院の学徒兵調査・登用部門の事です。戦乱の中、地域の防衛を担う人材の発掘、登用などを旨として数年前に発足した学徒委員会の別称なんです。──チョット重厚な感じの会なので、カワイイ名前を付けてみようといった先輩方の発案です。謎の組織です」
「なんてミステリアスなんだ……」
俺は一応固唾を飲む感じで乗ってやると、シズカがフフンと調子乗った感じでドヤ顔の猫グチ。はしたない!
「戦士達の集う酒場……有名なゲームに出てくる傭兵斡旋所をモチーフに、まあ学校ですので戦士達の集うカフェ的なノリですね。──『クィーン・カフェ』。それは、キミと出会った放課後の楽園。絆を探す、夕焼けの第二視聴覚室。コーヒー一杯三十円」
コーヒーお得ね。紙コップ自販機のコーヒーとか、もしくはレンタルのコーヒーマシンみたいなやつでも持ち込んでるのかしら。
何にせよホントどうでもいい。
「放課後に視聴覚室で活動してる部活みたいなもんか?」
片眉をちょい上げながら俺は尋ねると、姫はニコリと返してきた。
「そう思っていただいても構いませんよ。わたくし、零未先輩、那津美先輩の学年総司令を始め、心強い乙女達が集っては人材不足を嘆いたりボヤいたりお芋焼いたり、聖域です」
「芋焼くんじゃないよ。ストーブか。ストーブの上でか。ストーブ出しっぱなしなのか」
「お芋はストーブ出してる冬場だけですよ。春は駄菓子とか、夏はカキ氷とか、秋はコンロでサンマを焼いたりとか」
「春の投げやり感が。そして秋に視聴覚室でサンマ焼くんじゃないよ」
「冷えてくると、やはり焼きに入りますよね~」
焼くよね~って言うかバカ。なんの集まりだよ。シズカは食材を思い浮かべてか、うっとりと幸せそうだ。
「──そんな感じで、あちこちから委員を名乗る参加者が情報を持ち寄ってはそれを肴に、炭酸でも一杯やりながらグータラマッタリしてしまうのです」
「つまり女子会じゃねーか。俺の出る幕じゃないな。パスだ」
俺は目を光らせキッパリと、マスターだかなんだか知らないがお断りしておいた。
「いえ……だからこそカタリさんの出番、なのでは?」
足を止めたシズカも目を光らせ、なんだか対抗してきた。
俺もなんだか足を止めておく。
「わたくし達だけではどう足掻いても謎の力が働き、女子会になってしまう。これは最早、致し方のない事。……けれど、もしそこに、男子がいたとしたら……はたして、どうでしょう? ──そう。今やっと、長き魔力を打開する力を……わたくし達は手にしたのかも知れません」
──いや、どうでしょうって。まず、あきらめちゃダメよ。
シズカの白に輝く長い髪が風になびく。
夕日見んな姫。
「さっきダメだったじゃん」
俺の言葉に彼女は動かず、答えない。
……髪、かき上げんな。




