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脆弱性


「さて……そろそろ通信会議の時間だな。何にせよ、よかったよ。他の地域も結局大きな被害は無いし。霧砂も地元の学徒達と連携を取りあって、避難誘導とか後方で頑張ってくれたらしい。時間ずらしてイベントは続行だそうだ」


 ナツミは腕時計に目をやると、ん~、と背伸びしながら言う。


「さすがゼロミ先輩。変なダンスも一層切れ味が増す事でしょう」

「逆境に強いですから零未先輩。これはただの避難訓練教室では終わらなそうです。ちびっこ達の体力が心配です」

 どんな事になりそうなのチビッコ教室。サリオもシズカも二年総司令を褒めてるのか貶してるのかよく判らないが、とりあえず俺の指揮官は攻撃を受けると燃えるタイプという評価みたいだ。


「敵もある程度こちらのエリアに集まってくれたのは幸いっちゃ幸いだ。君には早々、頼りないトコロも見せてしまったが、一応この辺の地域ではうちらの学校が戦力の要として見られているからな。──現れた世界核の総数、200近いらしいよ。語君はその辺も見えてたりしたのか?」

 ちょっとした説明がてら、ナツミが俺に訊いてきた。


「なんとなく……ですが、その辺りかと。ただ確証が無いので、あまりうかつな事は言えませんでした」


「……ふむ。実際、ボスのジャミングを振り切ったのは確かだ。いずれヨソのアナライザーが見抜いただろうが、あのタイミングで君がやってくれたから私も会長も無事で済んだ。戦闘能力的な部分では君の役割はあくまで後方担当だが、これから色々助言を求める事があると思う。君自身、解らない事だらけかもしれないが、それでいい。一緒に、先へ進んでみよう」

 と俺に小さく頷き、まるで同意を得た様な笑み。

 俺もナツミに小さく頷き返しておいた。



「あのバスみたいなボス級も日本だけにとどまらず、世界各地に出現したらしいです。でも、神鵬かみほう学園──少し触れましたよね、わたくし達の学校と親交の深い関東方面の学校なんですが、そこの恐ろしい力を持った学徒達を始め、国を越えて存在する強大な学徒達が各地へと飛び回り、戦力不足の地域の援護に入ってくれました。その辺りの状況はカタリさんも以前の学校で経験されてきたことでしょうが、空院女学院はある程度の打開力を見込まれ、今回の戦闘に至っては援護は後回しとなっていたんですよ。自力で対処できるだろうから他の地域を優先する様、わたくし達から言っていたという事もありますが」

 

 シズカがワルディーを膝の上に座らせながら言う。ワルディーが上質なお人形さんみたいだ。 


「それがアダとなるところだった。──一軍としてはまだまだ力不足よ、あなたたち」

 お、鋭い眼差しでライフが教官らしい事を。


「姫もサリオも単騎では日本有数の学徒兵に数えられる程の戦闘力なんだが、総合力となると、どうにも周囲が足枷となっている事も否めない。それについては申し訳なく思っている。……けほけほ」


「──おっかさん、それは言わない約束だべ?」


 なんだかわざとらしく咳き込む会長へ、机に乗り出し手を差しのべるサリオ。

 そして彼女のミルクティーにグレープグミを一粒突っ込んで「お薬の時間だべ」と優しく介抱した。


「──う! グレープ感がまったく無い!」

「文句言うでねえ!」

 激しい娘は正面から無理やり缶を傾け、母の口へ強引に投薬した。



「私も正直、司令官としての資質を問われるだろう」

 

 結局あの時、会長のもとへ自分が飛び出していってしまった事をナツミは言っているんだろう。

 俺に弱気な感じで微笑むが、俺は慰めもせず、ただじっと彼女を見る。


「それはわたくしだって同じです。ただ他の方よりも少し戦闘に特化した力を有しているだけ。わたくしの様な若輩にどれだけの統率力が持てるのか、正直自分でも疑問に思います」

 

 弱気なトーンを感じ取ったワルディーが、自分の腰に回されたシズカの手に触れ、何度も優しくさすっていた。


「……統合軍は学徒達の結集を恐れ、これから分断の為に様々な手段を講じてくる可能性が高いわ。そしてあなた達がそういった脆弱性を見せるなら、容赦なくそこを突いてくるでしょう」


 冷たい女。だがライフは冷静に現実を教えているだけだ。



「目指す先は同じなハズなのに」

 少し、会長は視線を落とした。



 俺は横目で発言主を追うだけで、その空気に何も言わなかった。




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