破壊するモノを破壊し──ワレ、空に立つ
目を見開いたワルディーがグチャグチャの紳士にワインボトルで殴られ続けながら、ゆっくりと立ち上がった。
そして彼女はコートの下の腰に差した金属製シースから、刃渡り二十センチほどのナイフをスルリと抜く。
ワルディーにダメージはほとんど通っていない。
バレーボールで頭をぼんぼん叩かれてるくらいにしか衝撃が伝わってなかった。
「おいおい君ぃ。この選ばれた私に何をする気なんだ。──この奴隷め! 低所得層め! お前のかわりなどいくらでもいるんだ! 早く服を脱げ!」
尚もノイズが走るワインボトルで無抵抗の少女を無慈悲に殴り続ける世界核。
が、ボトルが振り上がったその時、ワルディーがソレの心臓部分へ、下方向から突き上げる様にナイフで刺した。
片手で握られる、装飾がキレイなナイフの刃先がヌルリ、やつの身体に入っていった。
「──やめなさい! 脱ぎなさい!」
叱るな。
──ダメージ10。残1880。
刺さっているがそれを痛みと認めていない。精神構造が中々タフに出来てる紳士だ。
「……結局、いくら欲しいんだね君ぃ」
「うううああああああああ!!」
叫ぶワルディーの頭から刹那、まるで激怒した鹿といった風な激しいプラズマの角が空間に伸び、心臓に刺したナイフがそのままでかい凶器へと変貌した。
凶悪な立て看板。最初に会ったとき握ってたアレだ。
ダメージ、608。
紳士の心臓部から背部へスラリと伸び、そして股にかけてざっくり突き破る極悪な刃。
「…………よしよし、話し合おうじゃないか。富を持つ者は、争い事が嫌いでね。ありがたく思うんだぞ? じゃあ、武器を収めなさい。──出来るね?」
しかし、次が違った。派生が、ジャンボジェットの羽ではない。
柄が凶悪に伸びると、刃が、幅三メートルくらいの円形鉄柱へと急激に進化した。
交渉に出た紳士は心臓部から四方八方にバラバラとなって弾け飛んだ。
紳士だった破片が、まるで熱いフライパンの上にのせたバターの様に、空へ融け消えてゆく。
残耐久値0。完全にオーバーキル。
凶器は瞬時にナイフへと姿を戻し、それをシースにしまいながらワルディーは飛び込み種目みたいに凄いスピードで頭から空を落ちていった。
空間を蹴りつけながら位置を補正し、気を失いながら落下していく親衛隊隊長を捉えるワルディー。その顔にあせりの色などは無かった。
猛禽が小鳥をかっさらう様に、追い抜きざま彼女をがっしり抱きしめ、ぐるんと体勢を変えながらUM緩衝を激しくぶち破っていく。
ブレーキをかけながら女子をしっかり抱きしめ、住宅街の地上スレスレで、ワルディーはしっかりと停止した。
「状況は?!」
シズカがインカムから聞こえてくる歓声に疑問で眉をしかめ、すぐさまオペレータに問いただした。
〈会長も、飛び出していった司令も無事です! ワルディーも敵を撃破! 親衛隊も全員無事です! カタリンが! カタリンが!〉
「カタリさん──?」
姫はすばやくマガジンを交換しながら、驚きを隠せない表情で遥か下の学院に目を向けた。




