おさんぽ
食後のミーティングは甘納豆の最後一粒がジャンケンによってサリオの口に運ばれた事で、お開きのタイミングとなった。
お昼休みはあと三十分ほど残っている。
「うう。わたくしはジャンケンの修行に入ります」
シズカが軽くグッタリ。
「マスター。姫を頼むぞ」
サリオはもぐもぐ。
「ふん。いいだろう。まずはスクワットからだ」
俺は適当にかわした。
「語君。私達はこのあと他校との通信会議の為、司令室に向かう。君はワルディーに学院内を案内してもらうといい。──ワルディー。語君と一緒に、食後のお散歩しておいで」
ナツミはポニーテールを結び直しながら言うと、ワルディーは興奮気味にん、ん、と頷きながら自信満々の笑顔で答えた。
「ん、ん、る、リュシロとちょくごのおちん」がしっ。
言わせなかった。ナツミは間に合った。ワルディーが彼女の右手で軽くピヨピヨ口に締め上げられた。
「──ワルディー。『直後の』とかやめなさい。お・さ・ん・ぽ」
なんの「直後」だというのですか! とかツッコんだら凍りつきそうなので俺は腕を組んで堪えた。
もうツッコミという言葉すら危険な領域に突入している今、うかつな言動は避けるべきだろう。
「男子の前なんだから、女の子が簡単に変な言葉使ったらダメなの。ね?」
ナツミが少し赤くなりながら言い聞かせた。
ワルディーはピヨ口のままコクコク頷いているが、まったく状況が解っていないだろう。
「落ち着いてならちゃんと言えるね? お・さ・ん・ぽ」
とか言いつつナツミの手はいつでも不測の事態に備え、ピヨグチは続行だ。
「おにゃぽ」
唯一俺だけが状況の悪化を感じ取った。
なんらかの、素材にこだわった遊具的なモノが近いのではないか……?
ワルディーの初撃により、シズカとサリオは顔を赤くして俺から顔を背けたままだ。
何とかしなくては……。
なんか何言ってもアレな感じに、唸って首を傾げるナツミ。まったく関係ないが、その赤くなって困る姿は素敵だった。もう少し見ていたい気もする。
──上級者かよ。俺は正気に戻った。
もうこれ以上引き伸ばせない。この戦いを終わらせるんだ。
「先輩。コチラが圧倒的に不利です。俺が何とかしますんで、拘束の解除を」
俺はナツミに願い出た。勝算は、ある。
「この会話に拘らなければ全て解決だと思うが、やれるのか、カタリ」
赤面のサリオに俺はゆっくり頷いた。
モチロン、俺はぎゅるっ! と高速で向き直り、その動きにビクッとしたシズカの事もガン見する。
「──え? あ、その、早めに終わらせていただければ……」
赤面のシズカが、俺の気持ち悪い視線から目を逸らしつつ言う。……よい。
よし。思い残す事は無い。
俺はナツミに、勇ましいが気持ち悪い視線を送った。
「危険なミッションだぞ語君。だが任せよう」
こくり、と赤面のナツミは俺に頷き、ワルディーのほっぺをムニュっと掴んでいた拘束が、恐る恐る解かれた。
ワンショット・ワンキル。一撃必殺。できなければ、こちらがヤられるまでだ。
──くらえ、ワルディー。




