夢とか
「語君。話は変わるが、部隊編成についてだ。前校での戦時ステータスは資料として拝見させてもらった」
定食の味噌汁を引き受けたナツミがクイと一口すすり、お椀を置くと切り出してきた。
戦時ステータスとは、射撃能力、格闘能力、耐久力などを、校内テストや実戦でのデータを基に外部判定で数値化したモノだ。
「校長からも恐らく話は聞いていると思うが、有事の際、君には後方支援を主に担当してもらう。前線には出すつもりはない」
入学前、簡潔に伝えられた事だった。
この星に謎の敵が現れる様になってから、子供達は銃を持つことを強制された。
『世界全校武装令』──。
人類は当初、敵に蹂躙されるがままだった。
デカイ爆弾も銃撃もほとんど通用せず、敵が放つ正体不明の攻撃に沢山の人間達が殺されていった。
そんなもんで、やがて兵隊の数も足りなくなった。そこで駆り出されたのが子供達ってわけだ。
身体的、精神的な問題などで一部例外もあるが、ほぼ全ての子供がその対象になる。
学校では義務教育として軍事教官から銃器の扱いを叩き込まれ、十歳にもなれば当たり前の様に最前線に放り出される。適正により、中には六歳、七歳くらいで戦場に立たされる子供も珍しくはなかった。
盾がわり、と言っても過言ではない扱いを受けてきた少年少女達。軍の激しすぎる爆撃に巻き込まれ死んでゆく事もザラだった。満足な訓練も受けられないまま敵の前にさらされ、生きて帰れる者だって、そう多くなかった。
誰にだって得手不得手はある。だがそんな事言ってられる程、人類にはもう余裕なんかなかったんだよ。
大して役に立たないアサルトライフルや拳銃を手に、本当に沢山の子供達が、時代に殺されていったんだ。
西暦なんてものが終わって、今や十数年。地球という名のもとで皆さんがやっと一つになれた統合暦の始まりからしばらくは、こんな残酷な世界だったのさ。
──いや。残酷な運命は今だって何も変わっちゃいない。
ならば今、何が変わったのか。
「カタリさん。戦闘はわたくし達が引き受けます」
シズカはクリームコロッケをゆっくり味わい、飲み込むと箸を置き、俺に顔は向けないまま穏やかに言う。
「今までよく生き延びてきた。カタリ」
サリオもコロッケを堪能した後に紙パックの牛乳を手にすると、別にコチラを向かない。
「語君。君がこの世界の未来に居場所を探し出せる様、私達も力は惜しまないよ。だから君も自分の出来る事を精一杯、やってみて」
ナツミは俺に笑みを向けながら言うと、タコさんウインナーをひとかじり。
「はい」
俺は少しうつむき加減で答え、カレーを食べ終えた。
ふと、ワルディーと目が合う。
食堂のおばちゃんが作ってくれた酢メシをごはん茶碗でちゃかちゃかとかきこみ、モグモグと幸せそうな笑顔。そして俺の目を見ながら「うん」と一度だけ頷いた。
「──カタリさん。将来なりたいモノなど、夢は、ありますか?」
シズカはきつねうどんに取り掛かりながら、にこり、訊いてきた。
──もう、失くした。とは言わなかった。
「まだ……無いかな」
俺はコップの水を手に、微笑んで返しといた。
俺は……何になったんだろう……。




