ハーレム・ランチ2
「……うう。コロッケが。わたくしのクリームバーストが」
シズカは俺の左隣の席でしょんぼり、きつねうどんを前に肩を落としていた。
「ん、ん、とろけるお~」
コロッケをサクリと噛んで恍惚の表情で声を漏らすワルディー。
「酢メシとコロッケで、もう最強だねワルディー」
ナツミはまたワルディーのほっぺについたゴハン粒をつまみながら楽しげだ。
俺とワルディーはジャンケン二回戦目で二人とも勝ってしまい、めでたくバーストGETとなっていた。
「残念でしたねシズカ姫。また次の機会を待ちましょう」
ミックスサンドプレートを手に、風紀委員長がやってきた。
彼女は俺の右隣の席にゆっくり腰を下ろすと、横目で見ている俺に視線を合わせ、微笑む。
「一年ラストウルフ組の地鏡 沙理緒。風紀委員長をやらせてもらっている。ヨロシク、カタリ」
沈着冷静なトーン。椅子の座り方とか笑い方とか、ちょっとした仕草にやや大人の色気すら感じる。
「エロいぜサリオ」なんて事言ったら首筋にビシッと来そうなので、俺も「よろしく委員長」とだけ言ってカレーを食べ進めた。
ラストウルフ、最後の狼か。なんか凄そうだ。てかどんな学校だよ。
「……やーいやーい。沙理緒、コロッケな~い」
シズカが空元気にサリオをいじる。目が死んでる。
「言いだしっぺですから。今回は辞退で。次は参加します」
サリオは何でもない様にサラリと答え、レタスサンドを口に運ぶ。ぐったりしてる姫を放置の構えだ。
やれやれだな姫様。のびるぞ、うどん。
「……ワルディーに付き合って参加したけど、実際こんなに食えねーよ」
俺の前にはまだ半分以上残ってるカレーの山と、手付かずのコロッケ定食ががっつりと待ち構えている。
「なんだ。男子ならそれくらい余裕じゃないのか?」
ナツミが挑発的な笑みを向けてくるが、無理無理と、俺は顔を横に振る。
「カレーだけで限界だ。姫さん、よかったらこのコロッ」
「そんないけませんカタリン!」
言い終わってない内からシズカは俺にズイっと顔を寄せ、悲しげに顔を歪める。
……なんて儚げな瞳なんだ。
俺はシズカの眼差しを受け止める。その光はまるで未知の宝石。
遥か古の時代に封印された、忘れられし神々の神殿。
その最奥の間で悠久の時を眠る、孤独なダイアモンド。
その輝きはただ静かに、宇宙へ還りたがっているのか。
──認めよう。お前は、美しい。
俺とシズカの間に誰も立ち入れない。超越者と人の子が紡ぐ熱は、今こそ燃え盛るデスティニー。
なんかコロッケ動いてる。
非常にゆっくりだが、俺の視界の片隅でコロッケ定食のオボンが動いてる。シズカの方に行っちゃってる。
俺がその動きにチラチラ視線を向けると、姫は遮る様に顔を出してくる。
あ、あ、きつねうどんコッチ来る。ゆっくり来てる。どう見てもシズカの手の動きがおかしい。
「そんな、いけません……」
なんてつぶやきの中、ゆっくり、だが着実に、コロッケはシズカ方面に引き寄せられている。
「いやうどんイイから。そんなに食えないから」
「いけませんよ……」
互いに笑いを堪えながら、そんなやりとりが少し続いた。




