魔物討伐一体目 5
かくして、人里についてすぐに巻き込まれた事件は一応の終息を見せた。
魔物の討伐後も、町中の人間が酒気に酔わされたことにより回復までの間若干の混乱は続いていたが、そちらについても時間とともに人々が回復したことで事なきを得た。
最終的な結果として、都市一つ巻き込む【災厄級】と呼ばれる魔物でありながら死者数はゼロ。
家畜については馬が一頭被害に遭ったほか、酔った人々が倒れるなどした拍子に負傷する、あるいは急性アルコール中毒で寝込むなどの被害は出ていたが、死者は出さずに済むというこの規模の魔物の襲来としては異例ともいえる軽い被害で収まった。
と、ここまでであれば万事うまくとはいかないまでも、十分にハッピーエンドと言える状況となったわけだが、現実には看過できない問題が全くなかったわけではない。
例えばそう、魔物の襲来という事態の中、どさくさに紛れて姿をくらました、直前までトーリヤ達に追い詰められていた誘拐グループの存在などは。
ヴィデアン王国西部というのは、元々いくつもの港を抱えて異国との交易も盛んな土地柄だった。
それが変わったのがおよそ九十二年前。この辺りの近海の海にいつのころからか魔物が住みつくようになり、訪れていた交易船や漁船の多くが沈められてこの近辺の海は軒並み使い物にならなくなってしまった。
以降、問題の魔物の討伐が何度か試みられたものの、そのたびに船や人員を失うだけで情報収集すらままならぬまま全滅し、いつしか国や領主すらもその討伐をあきらめてしまっていたのだが、一方でそうして魔物に支配された海であっても船の行き来がまったくなくなっていたわけではない。
いかなる理由なのか、この海を牛耳る魔物は陸地付近には近づいてこないため、漁などでもそれほど沖に出なければ船は使えるし、さらにそれほど沖に出ずに陸伝いに船を進めるなら船の航行も一応ではあるが可能だった。
あまりに陸の近くを通るため座礁の危険もあり、正規の交易船などではとても使えない、密輸・密航者御用達のような航路ではあったが。
「ちッ、まったくもってついてない日だったぜ。変なガキどもの殴り込みに、街そのものが魔物被害に遭うたぁな……」
そんな航路上で、それを使うほぼ唯一といっていい密航船の上で、船長である男が言葉とは裏腹にほっとした様子でそう独り言ちる。
否、この男は単に船長というだけではない。より実態に即した呼称でいうならば、この男はトーリヤ達をさらった、あの誘拐グループの頭目とでも呼ぶべき男だった。
すでに夜を迎えようとしているが、この日頭目とそれが率いる誘拐グループを襲った災難は様々な意味で予想もつかないものだった。
もともと密輸しようとしていた商品に加えて、積み込める荷物に余裕があるからと攫わせた子供の一人がまさかの反逆。
さらにそれに呼応するようにやけに強い子供二人が正面からカチコミをかけてきて、しかもそんな二人にこちらの組織の構成員はもちろんのこと、それなりに腕が立つはずの戦闘員の二人までもがあっさりと倒されてしまう始末。
この時点で、頭目たるその男はまともに戦うのは悪手と真の意味でのアジトであるこの船への撤退を決めていたわけだが、結果的にはその判断がその後起こる事態の中で組織全体の逃走を後押しすることとなった。
魔物の襲来という予想外の事態。町の誰もが倒れ伏す中で行動不能に陥っていたのは誘拐グループの者たちも同じだったが、事態の収束と共に大急ぎで船への撤退を決めたことで、自分たちに追手が差し向けられる前に組織の者たちは逃げ伸びることに成功していたのだ。
正直に言って子どもの集団に負かされて逃げ伸びることに全くプライドを傷つけられなかったわけではないが、そもそもこの世界において常識はずれに強い人間が、それも子供の時分から強力な魔法を操る者が稀に存在していることなどそれなりの立場であれば知られている事実だ。
今回もそんな、ある種魔物と同じような災難に遭遇したのだろうとそう判断して、頭目たる男は倒れた配下達をかき集めて自分たちだけが知る秘密の航路へと真のアジトたる船を操り逃げ込んでいた。
(やれやれ、積み荷は少し寂しいが、まあ向こうで売って金になるものはそれなりにそろっているだろう)
現在誘拐グループが向かっているのは港のあった場所からさらに北にある帝国の領内だ。
町の裏では誘拐グループとして知られている男たちだが、その実態は禁制の品や関税を逃れる密輸品など全般を運ぶ運び屋で、誘拐による人身売買はあくまでも船の積載量に余裕があるときの副業だ。
というよりも、魔物による海の封鎖というきっかけから発展したあの街の裏家業の中で、運び屋をやっていた男たちが運ぶ商品の調達にまで手を広げた結果ともいえる。
故に取り返しはつく。
手下は何人もぶちのめされたものの、あの化け物染みた子供の集団は明らかに殺さないよう手加減していたうえ、途中で魔物の襲撃が割り込んだどさくさで逃げられたため捕まったものは一人もいない。
使っていたアジトも、あれはあくまで陸の拠点として使っていたものの一つで、この誘拐グループにとって最も重要なアジトはこの船だ。
故に今回の事態は不運ではあったが致命的ではなかったとそう結論付けて、むしろこれで船を座礁させるなどの余計な面倒ごとにならないようそちらに注意を払おうと気を引き締めて――。
「――よぉ、おひさ。昼間ぶり」
甲板にいた手下たちにも聞こえるその声が、マストに腰掛ける奇妙な少女が、逃がさぬとばかりに誘拐グループの一団の襟首をつかんできた。
「――おまえ、あの時の毒蛇のガキ……!!」
一斉に頭上を見上げた男たちの中で、地下の監禁部屋で倒された男二人のうちの片方がそう声を上げる。
実際、男の他にもその少女の存在を覚えている者は何人もいた。
身なりは良くなかったが、見目はよく妙に品があり、端的に言えば高く売れそうに見えた覚えのある少女。
唯一違う点があるとすれば、二日前に見た時はみすぼらしくも独特の服装をしていたその少女は、今は何か爬虫類の皮から作ったかのような、全身を覆う体に密着するような、輪をかけて奇妙な格好で男たちの前に姿を見せているということか。
「――は、はは……。取り逃がした獲物が自分から船にまで飛び込んできてくれるとは、これまたずいぶんと気前がいいじゃないか……。それになんだ、その恰好は……? そういうのはもう少し大人になってからの方が男に受けるぞ……」
「――はッ、ぴっちりスーツを大人のコスプレ扱いとは、ずいぶんセンスがいいじゃねぇか……。これで素行が良ければもっと良かったんだがな。
あと悪いな。この体は【模倣分身】だから、俺自身がここに来てるってのとはちょっと違うんだわ」
「――あ? なに言ってやがる……?」
もとより理解させる気のない少女の言葉に眉を顰めながら、船長たる男は手下たちに手の動きだけで指示を出し、ひとまず現れた少女を座るマストごと取り囲む形に配置する。
時間稼ぎのために軽口のような形で話しかけてはみたが、実際のところ男自身はこの不気味な娘を舐めてはいないのだ。
先の襲撃の際、外で暴れていた二人の子供の力量が突出していたためそちらの印象の方が強かったが、こちらもこちらで大人二人をあっさりと倒しているし、その際にどこに隠し持っていたのかもわからない毒蛇をけしかけるというよくわからない戦い方をしていたという話も聞く。
確かに捕らえられればいい売り物になりそうな相手ではあるが、同時に得体のしれない危険な相手であることは疑いようがない。
「――それで? わざわざ俺達みたいなのを相手に、一人で船に乗り込んできた要件はなんだ? ああ、それとも、この間のお仲間までこんな船の上まで連れてきてるのか? あんま沖には出られないとはいえ、それでもここは海の上だぞ?」
「ああ、安心しろよ。他の子供らは今日は連れてきてねぇ。んで用件――、用件は――」
暗に手下に伏兵に警戒しろと伝えながらの問いに律儀に答え、けれど少女は用件の部分で不可解な逡巡を見せる。
「――さて、どうすっかなぁ……」
「――あぁ? なんだぁ、ふざけてんのかぁッ!?」
漏らした反応に下から怒号が上がるのを聞きながら、それでもトーリヤは本体と同一の外見の分身体で思い悩む。
目のまえにいる男たちをどうするか、その問題は男たちを追ってここに来るまでトーリヤが頭を悩ませていた最大の懸案事項だった。
分身を用いた調査で分かったことだが、この世界において捕らえられた犯罪者のたどる末路はそのほとんどが死刑であるらしい。
これはトーリヤ自身も気づいていた事情だが、魔法という超常の力をほぼすべての人間が扱えるこの世界において、人間を長期間逮捕・拘束しておくことは非常に難しい。
一応、設備の整った監獄であれば不可能という訳ではないし、人間の魔法能力を制限する拘束具のようなものも存在はしているらしいのだが、そうした大掛かりな設備や道具はどこであっても用意できるようなものではなく、必然的にそうしたものまで使って収監される犯罪者というのはごく一部に限られる。
早い話が、目の前の男たちを拘束してこの近辺の警察機関に引き渡した場合、ここにいる者たちはそのほとんどが処刑されてしまう確率が高いのだ。
そうなってくると、死ぬとわかっているのに拘束して引き渡すというのは直接的ではないだけでトーリヤ自身がこの男たちを殺すのと変わりなく、そして厄介なことに、転生してから九年が経過した今でも、トーリヤは前世の、日本における良識というものを捨てきれていなかった。
(――この世界の実情を考えると、甘い考えだってのはわかってるけど――)
はっきり言って、殺生への割り切りや死生観という意味では、前世の良識を引きずっているトーリヤよりも子供たち三人の方がよっぽど割り切っているくらいだ。
四年間の訓練の中でトーリヤが求めたことも相まって、三人とも軽々しく人殺しに手を染めないスタンスとそのための非殺傷性の手札を備えるに至っているが、そもそも殺生との距離が近い、この世界の生まれである三人は、それが必要になる局面をトーリヤなどよりよっぽど身近に感じて当たり前のものとして認識している。
ともあれ、だ。
この世界で生きていくうえでいずれ殺人を避けられなくなることを覚悟しているトーリヤではあるものの、だからと言って避けられるにもかかわらず積極的に人殺しに手を染めるべきではないと思っているし、それをやってしまったら人殺しを避けるよう教えた三人に顔向けできなくなるとすら思っている。
(――けど、かといって、こいつらを野放しにする選択肢も、ない)
その罪状のすべてを調べ上げたとは思っていないが、ここに来るまでの間に分身たちを用いて同時並行で調べ上げただけでも、この男たちが行っていた所業はなかなかのものだった。
違法な品の密輸など、小動物の分身を船内に放ったことで新たに発覚した罪状もあるが、特に子供を狙った誘拐と人身売買などはトーリヤとしても到底容認できないものと言っていい。
唯一殺人などの罪状が出てこなかったのが救いといえば救いだが、それとて一日にも満たない調査期間、相手が明らかな裏家業であるとなればどこまで信用出来たモノかわからないものだ。
なにより、この連中の野放しにすれば新たな被害者が出るだろうことは明らかなのだ。
いかにトーリヤに殺人への忌避感があったとしても、それを理由に見逃して新たに攫われる子供が出るなど到底看過できるものではない。
(――まあ、だから。最初からどうするかは決まってるんだよな)
ここに来る前決めておいた結論に回帰して、けれどその実行の前に一つだけ問うておくことにする。
「――最後にいちおう聞いておこうか。足を洗って罪を償う気はあるか?」
マストの上に腰掛けたまま、トーリヤはこちらを見上げる男たちに向けてそんな問いを投げかける。
「転職しろ、おっさん共。経験者として語るが世界が変わるぞ。それこそ死んで異世界に転生するよりよっぽどお手軽だ」
「はっ、気味の悪いガキの割に言うことが甘ちゃんだな」
そんなトーリヤの問いかけに対して、しかし案の定というべきか頭目らしき男が見せたのは、不気味で危険な相手とみなしていたトーリヤの、その正体を見て安堵したかのような反応だった。
「ちょっと他人より強い力を持ったからって調子に乗ったガキがぁ……。お前らァッ、世の中舐めてこんなとこまで来たことを後悔させてやれェッ!!」
頭目の男の呼びかけに答えるように、周囲の配下達が一斉に武器を構え、同時に魔法を行使する。
次の瞬間には一斉に攻撃が放たれる、そんな予兆を感じながらトーリヤが思うのはただ一つ。
「――そうか。まあ、そうだろうとは思ってたよ」
直後、男たちの攻撃に先んずるように、船全体に何かが激突したような強烈な衝撃が駆け抜ける。
「なっ――!?」
「ぅぉわ――!!」
「なにが、起きたァッ!!」
船上の男たちが騒ぐ中、マストに腰掛けてしっかりとつかまっていたトーリヤは、いよいよ腹をくくって己の決断を実行に移すこととする。
「船から放り出された奴は――、いないようだな。運がいい。海に落ちてたらそこにいる奴に一口でペロリといかれるところだった」
言った瞬間、傾く船のすぐそばの海面が爆ぜて、そこから前世のサメ映画よろしく、あまりにも巨大なメガロドンがその歯並びを見せつけるように姿を現し、先ほど同様に船体に体当たりして船全体を揺るがせる。
「――な、ぁ――、魔物……!!」
「まさか――、こんなところまで沖のあいつはこないはず――」
「お察しの通り、そいつはこの近海を封鎖してる海竜とは別物だ。けどまあ、海中で戦って勝てる相手とは思わない方がいいぞ。なにせ船の近くにいるのはそいつ一匹だけじゃない」
言葉と同時に、メガロドンのその背後でバシロサウルスにモササウルスと、古代の海の頂点捕食者として有名だった生物たちが次々と飛び出し、その姿を開陳させる。
トーリヤにしてみれば、こんなものは脅しも兼ねた分身による古代生物ショーでしかないわけだが、案の定足元の男たちの反応は劇的なものだった。
ほぼ全員が船体のどこかにしがみ付いたまま、この世のものとは思えぬ巨大で凶悪な生物たちの襲来に顔を青くして呆然としている。
「ちょっと前にそれなりに調べたことがあるから知ってるんだが、この近辺の海にはちょっとしたサイズの島がいくつかあるんだ。誰も住んでいない、野生動物ばかりの無人島。けどまあ、漂流者が流れ着いても頑張ればそれなりに生きていけそうな島ではある」
海流の関係なのか、そうした島にはトーリヤ達がいた島のように船の墓場や漂着者たちが暮らしていたような痕跡は見られなかったが、それならそれで今回に関しては都合がいい。
まさか子供らと暮らしたあの島にこんな男たちを住まわせる気はさらさらないが、まあ、近海に住まわせて時折様子を見に行ってやるくらいのことならしてもいいだろう。
あるいは、彼らにその気があるなら過去にさらった子供たちを売り飛ばしたというその相手について聞きだして、攫われた子供らの行方を探ることもできるかもしれない。
トーリヤ個人の、独善的な私刑に近い結論にはなってしまうが。それでも死刑にしてしまうよりは、生かしておけばできることとて確かにあるのだから。
「お前らは殺さない。生かしておいてやるから頑張って生きろ。誰にも迷惑のかからない島の中で、奪った人生の分だけ不自由に」
「――まったく、我ながらエゴだよなぁ……」
「……? どうしたの?」
「ああ、いや、別に」
目のまえの料理をフォークでつつきながら呟いて、それを聞いたシルファに問いかけられてトーリヤは思わずそう返答する。
ようやく人里にたどり着いたと思ったら犯罪組織に誘拐され、その誘拐グループの退治に向かったら途中で魔物が乱入して来て、その魔物を討伐した後は被害に遭った人々の救護活動やら後始末やらに奔走させられ、ようやく夜を迎えての夕食の席である。
しかもそれだけ忙しくてもまだ後処理が終わっていないというのだから頭が痛い。
特に魔物の出現とその討伐というのはこの世界においては結構な一大事として扱われるらしく、トーリヤ達四人の存在がこの街中で着々と噂となって広まっているほか、明日にはこの辺りを収める領主だかの有力者が訪れて、魔物の討伐についての確認が行われるとの話だった。
幸いだったのは、魔物の存在は下手をすると町の一つや二つ滅ぼしかねない脅威であるがゆえに、その討伐に莫大な懸賞金が掛けられているらしいということか。
無論大金が絡むとなれば討伐の証明はそれなり以上に厳格に行われるだろうが、倒した魔物の死骸は町の人々が見える場所において監視しているし、レイフト達が魔物を両断するところは多数の人間に目撃されていて証明自体は難しくない。
(――しいて懸念があるとすれば、俺たちの存在が完全に子供だけの四人組として認知されつつあるってことだが……)
町に入るときには大人の分身であるゼンセーを引率役として付けていたトーリヤだったが、誘拐グループやら魔物やらとの戦いの中で消してしまったり、戦闘後の情報収集を始めとした活動に分身たちを割り当ててしまったため、結局トーリヤ達は引率役の大人の存在を周知することができないままここまで来てしまった。
噂が『子供ばかりの四人組』として広まっているため、今からでも『実は大人の付き添いがいました』と後付けで打ち明けるべきか、それともこのまま子供だけの四人組で行くべきかはトーリヤとしても悩ましいところである。
(大人がいた方が不自然さは減らせるけど、子供だけの方が話の種にはなるんだよな……)
一年後の魔王襲来に向けて準備を進めたいトーリヤだが、その準備のためにぜひとも達成しておきたい目標が、できるだけ大きな権力者とのつながりを作ることによる人類社会らの支援を受けることだ。
いまだどのような存在かわからない魔王ではあるが、経済面や物資の面、情報収集や移動など、この世界の人類社会の支援が受けられることはそれなり以上に意味があると言っていいだろう。
さすがにこんな出自も定かではない子供四人とあっては、一度魔物を討伐したくらいでは重用されることはないかもしれないが、この世界において日本の台風並みの頻度で発生するらしい魔物を立て続けに討伐できれば、あるいはそうした権力者の目に留まって今後の活動の支援を受けることもできるかもしれない。
(これから一年の時間の中で、できるだけ各地を回って名を上げて、いざ魔王襲来ってなったときに売り込む――、いや、それだと子供らを魔王との戦いに巻き込んじまうか……)
自身が引き受けた仕事である魔王の討伐に子供らを巻き込むつもりのないトーリヤとしては、四人一組で名前が売れてしまう事態はあまり好ましいものではないが、これについては全くやりようがないという訳でもない。
ルールを決めての試合形式では後れを取りつつあるトーリヤではあるが、有する魔法の性能、そのインパクトの大きさでは分があるのだ。
むしろ子供らについても、ある程度実力者であることを示して売り込んでおけば、トーリヤが魔王の討伐に向かう際に重要な防衛戦力として国などの支援を受ける立場に据えられるかもしれない。
(なんにせよ、全てはこれからの売り込み方次第、か……)
そう考えて、あとで他の三人とも今後の方針を共有しておこうとそう考えていたその時。
「ねぇ~、トーさぁん。トーさんにも聞きたいんらけどぉ」
「――エルセ?」
ふと妙にフワついた声で話しかけられ、その声の主のただならぬ様子にトーリヤは思わず目をむくことになった。
見れば、レイフトと二人、実際に魔物を仕留めた二人組の片割れとして、宿の一介の酒場で男たちに囲まれていたはずのエルセが、明らかに顔を赤くしてフラフラとした足取りでこちらに向かってきていた。
「ねートーさん、シルファもぉ……。今日わたしぃ……、結構活躍できてたと思うけどどう思ったぁ……?」
「――いや、活躍は確かに、レイと一緒に大活躍だったとは思うけど――」
「レイと一緒ぉ、じゃぁなくてぇ……!! わたしとレイ、どっちがすごかったかって聞ぃてんのォ……!!」
らしくもなくエルセの姿に、トーリヤは一瞬唖然として言葉を失う。
いつも感情を表に出さない冷静さの持ち主、ポーカーフェイスの概念を教えたらなおのことその傾向に拍車がかかっていたこの少女が、今はある意味で年齢以上に幼い言動となって地団太を踏んでいる。
「――っていうかこれ、誰だ未成年に酒を飲ませた奴は……!! レイ、お前これ、どうなってる……!!」
「いや、こいつだけあの酒気? の中でも酔わなかったって話をしたら、酒に強いのかとかいろいろ聞かれて、そこから話の流れでそこのおっさんたちが――」
「おう悪いなお嬢ちゃん、姉ちゃんちょっとからかったらムキになっちまってよ」
「ふざっけんなおっさん共ッ!! レイもこんなになる前に止めろよ……!! いや、まさかこの世界、未成年の飲酒を規制するって発想すらないのか……!?」
島にいる間に背は伸びたはずなのに、それでもやはり生前よりもはるかに小さい八歳の少女の体をもどかしく思いながら、トーリヤはそう言っていきりたち、酒を飲んで笑っている男たちのもとへと詰め寄り叫ぶ。
「ねぇぇ、今日のわたしィ、珍しくレイよりすごかったれしょぉ……。情報収集ちゃんとれきたし、みんな倒れる中わたしだけ無事れウィスキーだしてってぇ――」
「わかったわかった。今日のMVPは間違いなくお前だから――、って力強い強い。折れる折れるッ――、脆弱な幼女ボディにそのパワーは分が悪い……!!」
すでにお眠になったのか、テーブルに突っ伏して寝入るシルファをよそに、珍しく抱き着いてきたエルセに危機感を覚えながらトーリヤがもがき、そんな二人に慌てた様子でレイフトが駆け付ける。
この時ばかりは、やっぱり保護者役の分身は必要だったと心底思った。
トーリヤは知らない。
この段階ではまだ、自分たちが何を敵に回し、なにを味方と勘違いしているのかを。
自分たちが、正確には一行の最年長たるレイフトが、すでに勇者と呼ばれて話が広まっていることも、この国や周辺諸国の内情も、まだ何も。
知らぬまま、一年後を見据え、知っていくべくトーリヤ達は旅に出る。
自らが育てた子供らと、あるいは最初で最後になるかもしれない家族での旅に。




