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男の娘 第二十四部 第五章

「こちらに順調に追い立てられてますね」


 ヨハンが冷静に呟いた。


 それでこちらにいる修羅が一斉に毒矢の準備をし出した。


「いや、捕まえるんじゃないのか? 」


 ギースが突っ込んできた。


「いや、予想外にこちらに来るスピードが落ちてません。毒が効きにくいのは、古代種のオーガで経験しましたが、こいつも同じタイプかも」


 それでヨハン達が矢じりに毒をたっぷりと塗りだす。


「いやいや、良いの? 」


「どうだろう。ここ戦闘に関しては彼らの経験から来る予測って間違っていることが少ないし、やり過ぎて困る部分はあるけど、これで部下が死にまくっても仕方がない。思うとおりにさせようと思う。もし、こちらに追われている奴の話が聞けるなら聞こうと思うけど、無理しない方が良いかもしれない」


 などと姉の言葉に姉の身体で答えた。


 最終的には神殿行くのだ。


 ここで凄腕の修羅が減りまくる方が困る。


「わかりました。我々の迎撃は徹底的で構わないそうだ」


 ヨハンが修羅達に命令した。


 そしたら、全員が矢を変えた。


 矢じりを深く差し込んでいるのを確認してから毒を塗っているようだ。


 ええええと……。


「あれは矢じりが刺さったら相手の身体に残るようにしてある矢なのか? 」


 などとギースが感付いた。


 凄い呆れた顔をしている。

  

 ぶっちゃけ、矢を引き抜いても毒のある矢じりはそのまま身体に残るようにしているわけだ。


「私さぁ。あんたの作った修羅だけとは戦いたくないわ」


 姉があきれ果てたように言い捨てた。


 いや、まあ、俺も実はそうだけど。


 やる事をえげつなくしてでも勝つことに集中させたのだけど、うーむ。


「出たぞ? 」


「出てきた! 」


 そう修羅達が叫ぶと同時にまさかの毒矢の連続発射である。


 だが、木々の間に潜みながら向ってくる相手を見て、気が変わった。


「甲冑を着ている」


 グリュンクルドが信じられない事を言った。


 グリュンクルドは相手の心に感応できる部分もあって、それも使いながら木々に隠れながら向ってくる邪神を見て、察したらしい。


 俺の索敵でも異様に強く感じるのは、そのせいか。


 しかし、甲冑だと? 


 これで完全に目的を持って邪神を作っていたことが分かる。


 邪神が使えるような甲冑など、普通は作られるはずがない。


「おい、引いた方が良いぞ」


 そうギースが言うと姉が即座に騎馬に乗って移動を始めた。


 それに合わせて、ギースがグリュンクルドを咥えると、急いで逃げ始める。


「ヨハン! 駄目だ! こっちまで来る! 完全に姉さん狙いだ! 俺達は移動するから、そちらは狙われてないので、散開してくれ! 」


「だから!  騎馬になって移動している時に私の身体を使うなっ! 」


 姉が叫んだ。


 騎馬のコントロールが微妙になって揺れる。


「道理で毒矢が効かないはずだ。甲冑が大半の毒矢を弾いている。鉄で出来ているのかも。相当重いはずなのに、それでも移動速度が凄い」


 ヨハンが俺の命令で相手の強さを判断して呻きながら即座に散開した。


 狙いは完全に俺と姉だけだ。


 だから、俺達が逃げる事と修羅が散開した事で、被害は出ないはず。


 だけど、尋常でないスピードだ。


「人間型だけど、ちょっと異常に速くない? 」


「一気に追いつく気でいやがる」


 グリュンクルドとギースが真面目に焦っていると言う事は索敵の通りなんだと思う。


 あの五柱の邪神より強いようだ。


 厄介な事になった。

 

「ああ、まずいね」


 そう姉が異様な騎馬の操り方で、ギースから離れた。


 信じられない事に二足歩行なのにギースより速いのだ。


 グリュンクルドを咥えていることで息が出来ない部分があるとしてもだ。


 だから、ギースが攻撃を受けるのを避けるために別のルートに姉は騎馬で走り出した。


 そして、それを追ってくる邪神。 


 木々が多いので、全体像は見えないが、邪神は毛むくじゃらだが3メートル近い人間型のようだ。


 やはりギースは眼中に無いらしい。


 あっさりと、そちらは無視してこちらに向ってくる。


 でも、それは姉の狙い通りだった。


 ギースは咥えてたグリュンクルドを吐き出すと同時に俺達を追う邪神に炎を全開で浴びせた。


 しかも、延々と渾身の力を持って。


 ギースは姉の狙いを分かっていた。


 金属製……恐らく鉄製だと思われるが、その甲冑は矢を弾くものの、高熱は鉄製の甲冑を熱くするのだ。


 連続的に吐く炎で、その邪神の武器とする甲冑を熱くて着れなくするだけでなく全身やけどをさせると言う意図だ。


 姉がギースの延々と続く邪神に対する業火を見て、馬首を巡らせた。


 その邪神が高熱になった甲冑を脱ぎ捨てるのを狙って一撃必殺で殺すつもりだったようだ。


 だが、それは間違いだった。


 邪神は迷いもなく姉の前に来た。


 そして、その邪神は全身が焼けただれるのを構わずに姉に向けて剣で必殺の一撃を加えて来た。

 

 剣まで持っているのか。


 それはあまりにも大きい剣だった。

  

 その剣で姉の斬りつけてくる剣ごと斬るつもりだったらしい。


 姉も凄かった。


 即座に馬の前蹴りをやらせて、突き飛ばす感じで蹴らせる。


 もし、少しでも遅れていたら姉が斬られていたと思うが、馬の前蹴りがギースの炎で赤くなった胴の下の下半身あたりを蹴る。


 それで斬りつけられなくてすんだようだ。


 どうも、乗り物の馬で攻撃してくるのは相手にとって想定外だったらしくて、それでもろに食らってしまったようだ。


 そのまま相手の体勢が崩れたところで、姉が攻撃するのかと思えば、あっさりと姉は騎馬で逃げ出した。


「やばいな、あれ。本気でやばい。中身は人間だね。古い古い剣術だ。馬で攻撃するなんて無い時代のだから、想定してなかったから何とかなったけど、膂力が違い過ぎる。これは厳しいなぁ」


 そう姉が呟く。


 相当焦っているのがわかる。


 どんなに武術を習って強くても、身体能力が強化されていても人間がゴリラには勝てないのだ。


 しかも、相手は古代の剣術自体は習っている分、ますます分が悪い。


 ギースが何度も邪神の後ろから回りながら炎を浴びせる。


 全身に大やけどを負わせるつもりだろう。


 でも、相手がここまで自分の肉体に無頓着だと、どうしょうも無い。


「か……ら……せ! 」


 何か叫んでいる。


 あれ? 


 そう言えば、言葉の喋り方はややゆっくりだったが、エーオストレイル様の記憶の初代皇帝の言葉からすると、あまり変わっていないのか。


 それで叫び出した。

 

「か……ら……だ……」


 何を言ってんだ?


「多分だけどね。必殺の一撃を私にあの邪神が加えてこなかったから助かったんだよ」


 姉が信じられない事をいきなり話す。


 どういう事? 


「あいつ、私の武器だけ潰す気だったんだ……だから助かった。正面切って殺す気なら多分、私は死んでた」


 信じられないことを言われた。


 邪神は姉を殺す気が無いのか? 


「返せって言っているよ! そいつ! 身体を返せって! 」


 グリュンクルドが遠くから叫んだ。


 身体を返せ? 


 え? 


 まさか、姉さんも何かの憑代予定だったのか?


 誰かの魂の……。


 そう考えて気が付いた。


 ああ、それなら勝ちだ。

 

 「は? 」


 姉さんが異様に驚いた感じで呟いた。


 いやだって、姉さんの身体がいるから殺せないって事だろ? 

  

 それなら、身体を破壊されるような攻撃をされない。


 などと頭の中で俺が思ったので姉に伝わったら、深く深く呆れた息を吐いた。


「信じられんわ、あんたの神経」


 そう姉が俺に吐き捨てたが、だって現実だもの。


 

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