類は友を呼ぶ
ミュゲは壁の花になって、ただ行きかう人々を見ていた。
あちらにビュッフェが用意されているが、そちらに行くためにはぎっちりとは言わないがそれなりに込み合った人波をくぐらねばならない。
それが少々面倒だった。
窓の外を見れば、歩哨に立っているらしい警備兵の姿が見えた。
先ほどまで突っかかっていた女性達も何も言い返してこないミュゲに飽きたのか、早々に立ち去ってしまった。
後はこの退屈な時間をどうつぶすかだ。
人いきれと香水の匂い。それにあちらから立ち上ってくる食べ物と、お酒とタバコ。食べ物以外はミュゲの好きなものではない。
うんざりといった顔で、ミュゲはただ目の前の光景を見ていた。
ふいに視界を遮られる。ミュゲの眼の前にあるのはちょっと高級そうなジャケットの布地だ。
どうやら相手はずいぶん背が高いらしい。
背が低くそれを補うためにヒールつきの靴などはいていないミュゲは相手を見上げなければならなかった。
「これはこれはお嬢さん」
相手はなんだか胡散臭い笑みを浮かべていた。
ミュゲは半目で相手を見据えた。
「何か?」
胡散臭い笑みを浮かべたままその男は許しもなくミュゲの手をとった。
ジャックは窓際で二人の様子をうかがっていた。
書記官総長のどら息子はにやけた顔でミュゲの手をとっている。
窓に張り付いていると、二人の会話がかろうじてだが聞き取れた。
「寂しくはないですか」
にやけた顔でミュゲにささやきかける。
ミュゲの表情はジャックのいる方角からはいまいち見えない。
「ご存じでしょう貴女のご主人が今頃何をしているか」
どうやら姿が見えなくなったのはどこか別の場所で女としけこんだかららしい。そのついでにこのどら息子をミュゲにけしかけたというわけだ。
「貴女のような人を放っておくなんて信じられませんが。彼はそういう人だ。でも私は違う」
どこが違うかと言えば、相手は一応仕事では実績があるが、どら息子のほうは何もないという点が違う。
「私ならあなたを愛せる。別にかまわないでしょう、あちらはあちらで楽しんでいるんだ、貴女だってそうしてもいい」
あんた相手に楽しめるとどうして思えるんだ。
ジャックはそう毒ついた。
「それはどういうことでしょうか」
ミュゲの声がした。
「私はあなたを孤独にはしない、そばにいると言っているんだ」
熱烈にかき口説いているつもりだろうが、さっきのミュゲの熱のない声からすれば思いっきり空回りしているらしい。
「つまり、私の夫が不貞行為をしているから、私も不貞な行いをしていいとおっしゃっているのかしら」
思わず歓喜のため息をどら息子がついた。
信じられない能天気さだ。明らかにミュゲの声は怒っている。
「私は結婚をしています。そして、夫が不貞をしているからと言って私がそれに合わせるつもりはありません」
「我慢しなくていいんです。あちらもわかってのことなのですから」
我慢してない、明らかにお前は嫌われている。
「私にも誇りがございます。何故私があの程度の男と同列に並ばねばならないのですか」
その言葉にどら息子どころかジャックすら呆れかえった。そして傑作だった。
ミュゲのほうこそサンダース大佐程度と見下していたのだ。
「そして、あの程度の男と信義を結ぶ程度の男の手を私が取るとでも」
そして握られた手を忌々しげに振り払った。
完璧だ。完璧に振られたことをさすがにそのどら息子も自覚しただろう。
「彼の望みなのですよ、私の相手をすることはね」
先ほどまでの似非紳士ぶりを振り棄てて言い放つ。
「相手をしてもらいましょうかさもないとあなたのご家族がどうなるか」
そう言って振り払われたミュゲの腕を再びつかんだ。




