あんたそれでも人間か
各国の使節を招いた舞踏会。いわゆるきらきらの派手派手だ。
ジャックはその舞踏会会場の裏側出口付近にいた。
舞踏会を楽しんでいるのは上官だけで、ほかのメンバーは全員警備などの仕事についている。
基本仕事は二人体制なので、いつも通りボルト准尉と組んでいた。
窓から中をのぞくと、サンダース大佐とミュゲが寄り添って立っていた。
「おい、ちょっとあれ」
ミュゲの正体をまったく知らなかったボルト准尉はミュゲの顔を見て表情をこわばらせた。
あれからミュゲは三日間アルバイトを続けていた。そしてお昼の休憩時間にはジャックとボルト准尉の三人で昼食をとる日課だった。
黒い礼装用の軍服姿のサンダース大佐と淡い白とピンクを基調としたドレスを着たミュゲは中睦まじく寄り添っているように見えた。
数人の女性達が二人に話しかけ、サンダース大佐はにこやかに、ミュゲは控えめに言葉少なに応答しているようだった。
「あれ、あの子だよな、あれが噂のサンダース夫人だったてのか?」
ボルト准尉は軽くジャックの軍服の襟をつかんで聞いた。
「その、頼まれたんだ、黙っててくれって」
だから言わなかったとそう気まり悪げにジャックはそう言った。
二人寄り添う姿は初めて見たので少しへこみまくっていたのもある。
しかし二人でいるときはミュゲの表情はきわめてかたい。
やっぱり相当嫌われているようだ。
そして複数のきらびやかな女性が二人の前に現れる。アレクサンダー大佐はあっさりとミュゲを放り出してその女性について行ってしまう。
一人取り残されたミュゲをまた別の女性達がくすくすと嘲笑う。
ミュゲは表情を殺してその場に立ち尽くしていた。
数人の女性がミュゲに話しかけている。その表情からあまり好意的なことを言っているようではない。あるいはサンダース大佐との愛人関係をほのめかしているのかもしれない。
ミュゲの反応がないので、つまらなくなったのかその場にミュゲを置き去りにする。
胸が悪くなるような光景だった。
舞踏会の会場はジャックが入ることを許されていない。ミュゲがそこに立ち尽くす限りジャックはミュゲに近づけない。
力づけることもできない。
これ以上見ていたくなくて、窓から離れた。
そして見たのはいつの間にか舞踏会会場から抜け出してきた男。
罪もない少女をあんな針の筵に置き去りにして、のうのうと女性をはべらしているのかと思いきや、一緒にいるのは男性だった。
金髪のどこかにやけた印象のその顔はどこかで見た。
顔立ち事態は整っているのに、軽薄なその顔をどこで見たのか思い出そうとしてようやく思い出した。
書記官総長として軍事卿の側近を務めている人物の息子だ。
典型的などら息子で、評判はお世辞にもいいとは言えない。
遊び人枠で、サンダース大佐とも交流がある。たぶん友達ではないだろう。
ボルト准尉が何となく嫌そうに眉をしかめている。
「まったくお前も物好きだな」
そう呟くサンダース大佐の声。
「何を言ってるんだ。あの美しさ、あんな花嫁をもらえるなんてうらやましい」
「見てくれだけのつまらん女だ、父に押し付けられただけのな」
しかし相手は熱っぽくミュゲのことを褒め称えている。
「じゃあ、貸してやるよ」
言われた言葉が、一瞬理解できなかった。
眼を瞬かせ、ボルト准尉とジャックは顔を見合わせている。
「ただし、口説いて振られたらあきらめろよ、さすがに無理強いはかわいそうだからな」
「いいのかい」
声に異様な熱がこもる。
「初物は面倒くさいんだ、適当に馴らしておいてくれればありがたい、子供の一人も生まれれば父もまあ納得するだろう。それからでも飽きてなければ付き合えば」
女性蔑視を隠しもしない言動だ。
「こりゃ、カーター少尉に報告懸案だな」
ボルト准尉が呟いた。




