それぞれの思い
模擬試合が終わった後、おれは疲れた身体を引きずるようにして部屋に向かった。
さすがにあれだけ激しく動くと疲れる。
部屋に戻ったらすぐに寝たかった。
しかし、部屋の扉を開けるとそれは無理だと覚悟した。
扉を開けても電気は付いていない為に中は薄暗い。
その中に一つの影を見つけた。
「凛?」
ああ、忘れていた。
部屋に来いって自分のじゃなくておれの部屋かよ。
毎回毎回勝手に入りやがって。
今日こそは強く言ってやる。
まぁ、意味はないと思うが…
「おい、凛!」
暗闇にいる少女は無言で立ち上がり、そのままこっちに向かってくる。
おれはそこで何やら様子がおかしいことに気づいた。
「凛?」
呼んでも返事が無い。
少女がやっと言葉を発したのはおれの横まで来た時だった。
「…もう貴方とは一緒に居たくない…迷惑だから…」
「――っ!?おい!」
少女は振り向きはせずにただ立ち止まった。
「なに?浅原くん…僕はもう一緒にいたくないんだよ」
暗くて表情は分かりにくくても、突然訳の分からないことを言われても…おれは見逃さなかった。
「…なら何で泣いている」
「――!な、泣いてなんか…」
おれは見逃さない。
凛の頬を伝う涙を…
そして、何が理由なのかはわからないが、今のが本心でないことは分かる。
「お前はおれと居ちゃいけない理由なんて無いだろ」
出来るだけ優しく、包み込む様に言葉を掛ける。
「うるさい!僕たちはダメなんだよ!僕たちは――」
「おい!凛!」
最後に言葉を残して部屋を飛び出して行ってしまった。
追いかけようとしたが、扉の外に別の人の姿を見つけそれを諦めた。
正確には諦めさせられた。
「何か用か?美沙」
「話がしたいんだけど…部屋…入っていい?」
どいつもこいつも表情と声が暗い。
真剣な頼みを断る訳にもいかず、おれは電気を付け、美沙を招き入れた。
「で、話って何だ?」
「夏屶はさ、私が第三手の副隊長になったの知ってる?」
そうだったのか。美沙もそんなに強くなっていたのか。
「いや、初めて聞いた。美沙も強くなったな」
「そっか…じゃあさ、一稀が第二手の副隊長になったのは?」
一稀もそんなになっていたとは。
色んなことがありすぎて何も知らなかったな。
おれは何も知らなかった後ろめたさから返す言葉が見つからなかった。
「夏屶…」
「ん?――!?お、おい…」
名前を呼ばれてうつ向いていた顔を上げると、急に胸に美沙の身体が飛び込んできた。
「夏屶は私たちのこと何も知らないね…夏屶が何だか遠い存在になったみたい…」
「……っ」
あながち間違ってない。
そのことがおれの口を閉ざさせた。
美沙は言葉を震えさせながら続ける。
「夏屶、ずっと凛さんと一緒に居る…私恐いの…夏屶が遠くなって、居なくなりそうで…」
美沙は懸命に涙を堪えて話していた。
その姿を見るのは耐えがたくて、でもどこを見つめるでもなく、ただ抱きしめられるままに立っていた。
「私…私、夏屶が好きなの!夏屶とずっと一緒に居たいの…ねぇ、お願い…一緒に私たちの世界に帰ろうよ…」
帰る…
そうだ…おれは忘れていた。
いつからだ?
いつからこっちの世界に居座ろうとし始めた?
でも今のおれはこっちの記憶を思いだした。
こっちの世界を知りすぎた…
こんな矛盾があるか…
こんな皮肉があるか…
おれはこっちの世界に居るのが当たり前と思っていた。
帰る…
本来とるべき当たり前の行動…
おれはいつから当たり前の気持ちを無くしていたのだろうか。
「…夏屶?」
いつまでも返事が来ない美沙が不安の声を出す。
「ごめん、ちょっと一人にさせてくれないか?」
一人になって考えたかった。
今の自分は何を考えているのかを確認したかった。
「わかった…じゃあね」
そう言い残すと美沙は部屋を静かに出ていった。
おれはベットに倒れこんだ。
帰るか…
さっきの凛の姿が思い出される。
そうか、そうだよな…
ふっと一人で失笑した。
凛があんな態度をとるのも当たり前か。
一緒に居ればおれが現世に戻りにくくなる…
おれはどうしたいんだ?
いや、今更問いかけるのもおかしな話だ。
もう心は決まっている。
おれは―――
麻「は〜い。今回は、皆さんシリアスモードになっちゃってるから私が喋っちゃいま〜す」
惇「また勝手だな」
美「はいはい、惇は出てこないの!」
惇「うぐっ……」
麻「掃除完了♪」
惇「(この野郎……)」
麻「いやぁ、凛が居ないと楽だねぇ」
亮「だな」
麻「あっ、亮じゃん♪」
惇「(何故に亮はいいんだ…)」
麻「さてさて、夏屶は現世に帰っちゃうんでしょうか、それともそれとも…」
亮「気になりますね〜」
麻「次回!夏屶の決断によっては最終回に!」
亮「うわっ!曖昧だな」
麻「ぶっちゃけ最終回なんだけどね」
亮「おい…」