覚醒
「覚悟〜!」
叫びながら近づいてくる女の人。
そう、麻美はめっちゃ笑顔で戦闘体制に入った。
「おれは何も手を出さないよ」
とか言って亮は距離を置いたが、それは麻美の戦いの性格と武器を知っているからだろう。
麻美の武器はトンファー。
何回か訓練を見たことがあるが、かなりの威力がある。
それに加えて麻美のあの性格だ。
武器と使用者は最適で最悪な組み合わせだ。
トンファーはその代わりに間合いはかなり狭い。
こっちはそこらの刀とは違い、長刀という槍並の間合いを持っている。
要は麻美の間合いに入らなければこちらは攻撃し放題…な筈なんだが…
「うらうらうら!」
めっちゃ早い!
何が早いってスピードは負けないんだが、腕の動きが早すぎる。
本当に防御の“ぼ”の字すら無いぐらいめちゃめちゃに攻撃を仕掛けてくる。
お陰でさっきとは打って変わって防戦一方だ。
何回か危ない時があった。
おれは攻撃を受け止めるより避けることばかりしている。
こっちは長刀、相手はトンファー。
いちいち刀で受け止めていたらそれこそ相手の思う壺だ。
しばらく逃げ回っていると再びベルが鳴った。
攻撃していると短いが、逃げ回るだけだとかなり長く感じた。
しかも次は三人になる。
亮が攻撃に参加しないって言っているから実質二人だけど、あの二人相手にどこまで出来るか…
刀一本で二人の相手は無謀じゃないのか。
そうだ、一本でキツイなら二本にすればいいのか。
そうだよ。
おれは空いている手に新たな刀を出す。
銀色に輝く小太刀。
凛がおれを現世に戻した刀の対となるものだ。
刀身は全体的に太く真っ直ぐで、先の方にいっても太さが変わらない。つまり、刺すことには向いていない完全に防御目的の刀だ。
「そいつか。凛が苦戦する程の奴と一対一にならないと出さない小太刀の片割れは」
どうやら凛は何回が出したことがあるらしい。
凛の小太刀はおれのとは違い、刀身の両側に刃がある諸刃の刀だ。
それこそ攻めるための刀。
何故か知らないがおれら二人はそれぞれ一本ずつ出せる。
「夏屶がそれを出したなら本気でいかないとな」
そう言って惇は刀を出した。
惇のものは始めから刀身が太く長さもある。
いわゆる大剣だ。
それを軽々と操れるからこそ四大聖天使の一角を担っている。
大剣とトンファー、こっちは長刀と小太刀。
当て方を間違えると命取りになるな。
先手必勝、防戦一方になるのを防ぐ為にも第一手は自分からいきたい。
当てるならまず惇からだな。
軽く地面を蹴り、あえて正面から斬りかかる。
もちろん簡単に止められ、さらに直ぐに後ろからトンファーが遅いかかってくる。
おれはそれを小太刀で止めようとしたがあまりにも簡単に弾かれた。
(やはりトンファーを受け止めるのは無理があるな)
惇から距離を置くとそれを見計らったように麻美のトンファーが来る。
それを紙一重でかわすと、振り向き座間に大剣を止める。
近づいてくる麻美を長刀を横に振って距離を置かせ、そのまま惇に斬りかかる。
小太刀から大剣が離れ、今度は長刀を止める。
大剣ながら早い動きだ。
間隔を空けずに自由になった小太刀を下から振り上げ相手の脇を狙う。
相手、惇はそれを後ろに跳ぶように退いて避けた。
おれは即座に長刀を地面に突き刺し、それを使って棒高跳びのように跳躍する。
跳躍した瞬間、背後でトンファーが風を切る音が聞こえた。
ギリギリだったな。
おれは下に惇の姿を見据えて、小太刀を思い切り振り被り、身体を縦回転させながら力一杯振り下ろす。
惇は力を入れて刀を横にし、身構えて受け止める状態を作っていた。
だが、おれの狙いは違うんだな。
刀と刀が当たる寸前で腕を退いてわざと小太刀を空振らせる。
もちろん身体もそれに釣られて回転運動を続けようとする。
その回転力と刀の長さによる遠心力を利用するために、地面に突き刺していた長刀を引き抜き、そのまま回転に合わせるようにしながら、出来るだけ大きな力が加わるように振り下ろした。
「ぐっ…」
一度タイミングを外しているために惇は力を入れきれず、更にはあれだけ大振りで当てたのだから耐えきれる筈もない。
おれの力が勝り、大剣を勢いよく地面に叩き付けた。
刀の先が当たったらしく、惇の服も破れている。
そして、そのまま次の相手に向かおうとした時…
「げっ!?」
何故かトンファーではなく二本の刀が。
辛うじて二本とも小太刀で止めた。が…
「亮!攻撃は参加しないって言ってたのは何処のどいつだ!」
「さあ?」
正直ムカつく…
気まぐれ過ぎるし、反則にはならないから尚たちが悪い。
その時背後から殺気を感じた。
「―っ!」
「私たちの勝ちね」
しまった――
亮に気を取られ過ぎて麻美の存在を一瞬忘れてしまっていた。
気付いた時には背後、ほとんど背中にくっつくいている位置でトンファーを回していた。
「わかった。わかったから回すの止めてくれ」
「実戦なら夏屶は粉々だね」
笑顔でそんなグロイことを言うよ。
「しかし、二大聖天使は流石の強さだな」
惇から褒め言葉が貰えるなんて。
まあ、おれ自身こんなに出来たことに驚いているが。
これが、おれの本来の力…
いや、過去より更に強くなった力。
「ああ、相手してくれてありがとう」
おれは三人に笑みを見せた。
惇「あそこまで強いとはな」
夏「正直、小太刀と長刀を同時に出せるとは思ってなかったよ」
麻「実はマグレ?」
亮「あり得る」
夏「う、うるさいぞ!これがおれの実力だ」
亮「ふ〜ん」
麻「まっ、マグレにせよ実力にせよ負けたんだしね」
夏「ぐっ…(この二人…)」
凛「こらぁぁぁぁ!僕を差し置いてぬぁぁにをしてるんだよ!」
夏「恐いって…言葉も途中おかしいから」
凛「夏屶ぁぁぁ!部屋に来い!」
夏「…(嫌だな…)」
凛「来・て・ね♪」
夏「はい…」
麻「凛ちゃん恐〜い」
亮「寂しさの裏返しだな」
麻「なるほど、つまり部屋に呼び出した後は…」
亮「二人の世界へ…」
麻「きゃぁぁ〜♪」
夏「二人ともうるさい!本当に邪魔だ」
亮「夏屶…」
夏「いや、言い過ぎた」
亮「男を見せてこい」
夏「やっぱ本気でうるさい!」




