元咎人の公爵令嬢は、屋敷を吹き飛ばすレベルの神気を持って生まれたみたいです。
「何を食べたらこうなるのよ!ルナ、あなた――」
前回、ルナは家庭教師のアクアに測定器を使って神脈の太さ、神気の量、なんの神術を使えるのかを測定してもらいました。
第9話楽しんでってください!
アクアが新しいおもちゃを見つけた子供のような、キラキラした目で測定器を見ている。
「何を食べたらこうなるのよ!ルナ、あなた――」
その顔は……悪いわけでは無さそうだ。ホッとした。
「なんでしょうか…?」
「……神脈太すぎ!神気も多いじゃん!一般的な神術師の三倍くらい?」
「すごいのかな?」
「すごいなんてものじゃないわよ!神脈も神気も増えるものじゃないんだから!」
私の独り言に、アクアが前のめりになって言った。
そんなにすごいものなんだな。
「そうなのですね…?」
「それだけじゃないわよ!あなた、治癒の神術が使えちゃうのね?!」
「え?治癒、ですか?」
「ええ、治癒よ!氷術、水術も扱えるのに、治癒もできちゃうのよ?!」
アクアがルナの肩をガシッと掴んた。
「こうなったら、とことん鍛え上げましょうね!」
これでもかと前のめりに圧をかけてくる。
「……は、はい!」
私は引きつった笑みを浮かべながら、必死にコクコクと首を振った。
アクアはウキウキしながら鞄をガソゴソして測定器をしまっている。
それにしても、治癒、か。
傷口が一気に塞がったりする、あの治癒?
――治癒を使えるなら。
相手を限界まで氷術や水術で痛めつけても、
死ぬ直前、あるいは証拠が残る前にこの「治癒」を使えばどうなる?
――そう、ほぼノーリスクで、無限に「教育」をループできる。
「ふふっ、楽しみですわ」
思わず口から漏れ出た。
「やる気があるのね!いいことよ!」
が、アクアはやる気があると受け取ったようだ。
いやぁ、危ない、危ない。
「じゃあ早速、神気のコントロールから始めましょう! あなたの神脈は太すぎて、普通に魔法を使おうとすると、この屋敷が消し飛ぶかもしれないから!」
「え?」
今なんて?このバカ広い屋敷が、……消し飛ぶ?
「いい? 体の中を流れる神気を――」
私の困惑が目に見えていないのか、アクアは話を続ける。
「ルナー!!!今、神術の稽古をしている聞いたから、見に来たよ!!!」
アクアの熱量に負けないほどの勢いで、お兄様がやってきた。
「ルナ! 頑張っているかい? いや、頑張る必要なんてないんだよ! 神術が使えなくても良いんだぞ?僕がいくらでも守ってやるから!」
安定のシスコン発言である。このお兄様、私の稽古を見守るためにわざわざ自分の稽古を放り出してきたのだろうか。
「いえ、アクア先生がとても熱心に教えてくださるので、私も少し興味が湧いてきましたの」
アクアがにやりと微笑んだ。
「ルナ、嬉しいこと言ってくれるじゃない!でも、アストル様に、ルナの使える神術をお伝えしなくて良いのー?」
ああ、そうだ。忘れていた。これでもルナの兄だし伝えよう。
「ルナが使える神術かぁ。僕と同じ氷術とか使えたらなぁ」
お兄様が私の言葉をワクワクして待っている。
お兄様に尻尾がついていたのなら、きっとちぎれているだろう。
それくらいに、ワクワクしてこちらを見ている。
「お兄様、私は治癒を中心に、氷術、水術が使えるそうです」
お兄様が目を見開いた。
「治癒?……え?ルナ、治癒術を扱えるのかい?」
「そのようです」
「お母様と同じじゃないか!ああ、でもお母様は水術が一番得意だとおっしゃられていたな〜。三つの神術を使えるだなんて、ルナは、僕の自慢の妹だよ!」
お兄様は誇らしそうな顔をしている。
まだ神術は使えていないのに。
それなのにアクアも被せるように、
「そうよ、ルナはすごいのよ!自信をもってね!」
と言った。そんなにすごいことなのだろうか。
「まあ、とりあえず、神気をコントロール出来るようにならないとね!」
とアクアが言った。
そうだな。と、お兄様も頷いた。
「体の中を流れる神気を、細い一本の糸にするイメージよ。」
「細い一本の糸……」
さっきの測定器のおかげで、神気のイメージは掴めた。
目を瞑ると光って見える、気がする。
それを細い一本の糸に――。
「そう、そうよ、その調子」
「頑張れ……!」
――数十分後。
「……よし、コントロールできてるみたいね」
始めは目を瞑っていた。
でも、今は目を開けた状態でコントロール出来るようになった。
「うん、飲み込みが早いわ!もう十分コントロールできてるわね」
「すごいよ、ルナ。僕でさえ、かなり時間がかかったのに……」
「そしたら次ね」
アクアはそう言って、先ほど鞄から取り出していた小さなガラス瓶を、私の目の前にことりと置いた。
中には、水が半分ほど満たされている。
「神気のコントロールができるようになったら、次はそれを外に出す練習よ。まずは基本の『水術』からね。その瓶の中の水に、あなたの神気を細い糸のまま、そっと浸透させてみて」
「浸透、ですか?」
「そう。水を無理に動かそうとするんじゃないわよ? 自分の体の中を流れる神気の糸を、そのまま水の中に伸ばして、水に溶け込ませるイメージよ」
私はガラス瓶にそっと手をかざした。
目を瞑らなくても、体の中を流れる光の糸がはっきりと知覚できる。
その先端を、手のひらから、ガラスの向こうの水へと、慎重に、細く伸ばしていく。
水に神気の糸が触れた瞬間、奇妙な感覚が脳裏に走った。
ひんやりとしていて、けれど驚くほど柔らかい。
まるで、自分の指先がそのまま水の中に溶け込んで、ボトルの底まで伸びていったかのような錯覚。
耳の奥で、かすかに水が波打つような音が響く。
視界が、まるで水面を透かして見たときのように、わずかに揺らめいた。
「わ……っ、水が、光って……?」
ガラス瓶の中の水が、私の神気と同調して淡く青白い光を帯びていた。
水そのものが、私の意志を待つ生き物のようにじっと脈打っている。
「完璧よ、ルナ! 驚いたわ、初めてなのに、こんなにも簡単に……。じゃあ、その感覚を保ったまま、今度はそのまま、ギュッと凝縮して、限界まで冷やしてみて。そう、次は『氷術』よ!」
アクア先生の興奮した声が響く。
熱を吸い上げて、凝縮するように……。
そうやって想像した刹那。
鼓膜を刺すような、高くて鋭利な音が響いた。
同時に、冬の朝のようなツンとした冷たい空気の匂いが駆け抜ける。
ガラス瓶の中の水が、中心から放射状に、一瞬で真っ白なし結晶を咲かせ、完全に凍りついた。
みしり、とガラスの容器が悲鳴を上げるほどの、硬質な氷塊。
「……できた、でしょうか?」
手のひらを離すと、自分の指先がわずかにひんやりとしていた。
けれど、「屋敷が消し飛ぶ」ような暴走感は一切ない。完全にコントロールできているはずだ。
「すごい……! なんて綺麗な氷術なんだ! さすが僕のルナだ!」
お兄様が我がことのように大はしゃぎして、今にも抱きついてきそうな勢いで顔を輝かせている。
「本当に……信じられないわ。神気の制御を覚えたその日に、水術から氷術も扱えるなんて。ねえ、ルナ、あなた本当に十歳よね?」
アクア先生が、もはや恐れを抱くような目で私を見つめていた。
「……まあ、そしたら、次は治癒術ね――。」
第9話をお読みいただき、ありがとうございました!
治癒術が使えると判明したルナ、一体この先どんなことが起きるのでしょうか。
少しでも
「おもしろい!」
「主人公の神術チートじゃない?」
と思っていただけたら、
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ぜひ、ルナのこれからを見届けてあげてください!
追記:期末テストが近いため、更新は11/10以降になりそうです。




