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青い蝶  作者: Yasu
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第一話 探偵事務所

ルナ・コアを巡る巨悪の事件が収束し、公安の追跡班が解散した後、悠也は医療用ナノマシンの研究者として、アヤメは大学生として、平穏な日常に戻るはずだった。

しかし、アヤメの心には、まだ世界に残るナノマシンの闇と、背後で囁く邪悪な神々の使者、ニャルラトホテプの影が、影が付き纏っていた。

そして今、アヤメは自身の能力と公安で培った経験を活かし、青いブルーバタフライ探偵事務所を開設する。研究に没頭していた悠也は、命を共有する相棒に強引に巻き込まれる形で、再び裏の世界へと足を踏み入れることになる。

如月テクノロジーズの巨悪が公に裁かれてから、さらに二年が経過した。

七瀬悠也とアヤメが所属していた警察庁のオルフェウス追跡班は、その使命を終えて極秘裏に解散した。

悠也は、私設の研究所で医療用ナノマシンの研究を続けていた。

彼の研究は、生命を共有するアヤメのナノマシン技術を応用した、革新的なものとして注目を集めていたが、同時にその進展は遅々としていた。


ある晴れた午後。悠也が研究室で、ナノマシンのシミュレーションに集中していたとき、ドアのチャイムが賑やかに鳴った。

「悠也さん、ただいま!」

元気な声と共に、アヤメが入ってきた。彼女は大学の講義を終えたばかりで、以前の制服姿とは違う、現代的な服装をしていたが、その瞳の奥には変わらない透き通るような強さが宿っている。

彼女の肩には、以前にはなかった大きなビジネスバッグがかけられていた。

「おかえり、アヤメ。今日は早く終わったな。疲れてないか?僕の方のナノマシンは静かだが……」

悠也が気遣うように尋ねると、アヤメは快活に笑った。

「ええ、問題ないわ。それに、疲れてる暇なんてないの。今日は、あなたにビッグニュースがあるわ」

アヤメは、研究室の隣にある、空き部屋を指さした。その部屋のドアには、つい昨日まで何も貼られていなかったはずだが、今日は新しいプレートが取り付けられていた。


プレートには、流麗な文字でこう書かれている。

『青いブルーバタフライ探偵事務所』

そして、その下には小さな文字で代表:アヤメと記されている。

悠也は、コーヒーカップを落としそうになった。

「探偵……事務所?アヤメ、君、一体何を始めたんだ!?」

アヤメは、胸を張って言った。

「見ての通りよ!大学の授業だけじゃ、刺激が足りなくて。それに、私たちにしかできない人探しや情報収集の仕事は、世の中にたくさんあるわ」

彼女が言う「私たちにしかできない仕事」とは、もちろん、二人の体内に宿るナノマシンによる生命の共有と、公安時代に培った特殊な追跡技術を指している。

命を共有しているアヤメは、悠也の能力の範囲や体調を正確に把握し、その力を最大限に引き出すことができる。

「でも、探偵なんて……公安を辞めて、研究に専念しようって決めたはずだぞ。それに、僕のナノマシンの研究は、まだ博士の最終目標には程遠いんだ」

悠也が困惑すると、アヤメは楽しげに言った。

「研究は大切よ。だからこそ、研究がひと段落した今が、チャンスなの」

アヤメは、悠也の顔を覗き込んだ。その瞳は、何か企んでいるように輝いていた。

「この探偵事務所、私だけじゃ無理よ。裏でデータ解析と、物理的なサポートをしてくれる相棒が必要なの」

そして、彼女は悠也の腕を掴み、隣の事務所のドアへと引き寄せた。

「さあ、巻き込まれたなんて言わないで。私たち二人の運命共同体の能力は、まだ世界を救うために使われるべきよ。それに……」


アヤメは、声をひそめた。

「ニャルラトホテプが、まだどこかで僕たちを監視している気がするの。探偵として表に出れば、奴も、きっと面白い『事件』を持ってきてくれるわ」

悠也は、ナノマシンによる微かな興奮と、彼女の言葉が持つ抗いがたい魅力に押し流された。公安を離れても、彼らの戦いは終わらない。


悠也は、諦めたようにため息をついた。

「はぁ……わかったよ、アヤメ。僕の研究室の半分を占領しないでくれよ」

彼は、新しい事務所のドアに書かれた『青い蝶』の文字を見つめた。

そして、ふと思い出したように、悠也はアヤメに顔を向けた。

「ところでアヤメ……君、探偵家業って、まさか昨日見ていた、あの『熱血美人探偵アスカ』っていうドラマに影響されたわけじゃないよね?」

アヤメは、きょとんとした表情を浮かべた後、すぐに悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「ふふ。どうかしら?運命共同体の私たちなら、私がそのドラマに影響を受けているかどうか、あなたにはナノマシンを通じてわかっているんじゃない?」

悠也は、即座にアヤメの体内のナノマシンの状態を意識にフィードバックさせた。彼の体内に流れるナノマシンは、彼女の心拍数や微細な感情の揺れを確かに伝えてくる。そのデータは、彼女が今、非常に楽しんでいることだけを示していた。

「……ずるいぞ、アヤメ」

「さあ、相棒。早く準備して。私たちが解決すべき、最初の事件がもうすぐ舞い込んでくるわ!」


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