4-9.追及
満天の星空の下。焚火を挟んで男二人が向かい合っていた。
ダーリオンとワタルである。
「さて……単刀直入に聞くぞ」
「はい、何でしょう?」
「お前の経歴を調べさせて貰った」
焚火の爆ぜる音が、沈黙を縫う。
可能な範囲で調べたが、ワタルはいつの間にかレジスタンスに参加していた。
何時参加したのか、参加する前はどうしていたのか、いくら調べても判らない。
国のスパイかと、レジスタンス内での動向も注視した。
だが、レジスタンスに害する行動は一切ない。
「……それでも分からん」
ダーリオンは、真っ直ぐにワタルを見据えた。
「お前は何者だ?」
ワタルは一瞬だけ視線を逸らし、困ったように笑った。
「やだなぁ、リーダ―。俺はワタル。体制に不満を持つただのレジスタンス隊員ですよ」
「そうだな」
ダーリオンは頷く。
「他に目的があるなら、もっと不審な点が出ていてもおかしくない」
「でしょ?」
「だが、俺が言いたいのはそこじゃない」
エルデの話では、ワタルは何度も窮地を救っている。
しかし――その目撃証言は、辻褄が合わない。
ワタルが長期間アジトを離れた記録はないのだ。
ワタルが行っているのは、どれもレジスタンスの利になる事ばかり。しかしそこに、理屈に合わない目撃証言。
暫く沈黙が続く。
しかし、ワタルがふう、と一息ついた。
「確かに。俺はリーダーに隠していることがあります」
「それはなんだ?」
「それは言えません。ただ、俺はレジスタンスの敵でも別勢力でもなく、味方です。その事に嘘偽りはありません」
ダーリオンは、その目をじっと見つめた。
欺瞞、悪意、計算――
そこにあるのは、どれでもなかった。
「……良いだろう。確かに、お前はこれまでよくやってくれているしな」
全ては分からない。
だが、釘は刺した。
それで十分だと、ダーリオンは判断した。
それに隠していることを明らかにし、その背景に邪な感じはしない。
放置しても問題無いだろう。
「ええ。これからも宜しくお願いします」
「ああ。頼むぞ」
焚火は二人の間で静かに燃え続けていた。
翌日。
旅を再開して程なく、一行は洞窟の前に辿り着いていた。
洞窟の周囲を徘徊するのはジャイアント・マンティスやレッサー・サラマンダーといった一段と手強い魔物。
その事実が、ここに目的の魔道具があるという期待を一行に抱かせた。
「ここにあるんだな?」
「ええ。話に聞いた“対魔法の盾”がここにあるはずです」
「二人でなければ倒せないような魔物を引き寄せているのです。きっとここに強力な魔道具があるのでしょうね」
陣形を組む。
先頭はダーリオンとエルデ。
その後ろにルミリア。左右と後方をワタルとレジスタンスが固める。
洞窟に人の手が入っている様子はない。ダーリオンが中を覗いてみるが、中はかなり広いようだ。
試しに松明を放り入れるが、変な様子もない。
「中は広く、かなり暗い。明かりを絶やさないように注意しろ」
皆が頷き、松明と魔法の光が準備される。
日光にも負けない光が、辺りを照らしている。
洞窟の中まで照らすが、見えている範囲には何も見えなかった。
「中に魔物は居ないのでしょうか?」
ルミリアが不思議そうにつぶやいた。
それに答えたのはエルデが壁を指さした。
「いえ、居ます。ほら、この壁を見てください」
エルデが示した所には苔が生えていたが、傷跡のように剥がれた跡があった。
「これは魔物が通った時、爪か何かが当たって削れて出来たのです。この跡は新しい。きっと最近魔物が通ったんです。他にもありますが、それはまた今度にして……という訳で、進むにあたって備えてください」
「なるほど……勉強になります」
それぞれ片手に剣、片手に松明を持つ。
魔法の明かりを灯しているのは、エルデとルミリアの二人。
「よし、行くぞ!」
影の向こうに魔物の目が見えないか……一行は慎重に歩を進めた。
程なく……魔物が襲い掛かってきた。
予想していた襲撃とはいえ、視界の制限された戦いというのは神経が削られた。
雑魚のはずのゴブリンが影から忍び寄り、ジャイアントバットが一行を取り囲む。
ワーラットが岩陰から強襲を仕掛け、よろけて踏み留まったところがスライムの塊になっており、危うく足を溶かされそうになった。
ただの冒険者であれば、重傷を負って撤退していたに違いない。
しかし彼らはただの冒険者ではなかった。
「どうしたどうした? もっと掛かって来い!」
ダーリオンはジェルドから剣の手解きを受けており、元々鋭かった剣の腕が更に磨きが掛かっていた。
隙の無い剣技に、彼に襲い掛かった魔物は近づくことも出来ずに屍を晒していた。
「やりますね。これは僕もうかうかしていられないな」
エルデも剣技を繰り出すが、それに加えて無詠唱の火の矢を放ち、遠近共に隙が無い。
それらに押されて魔物は下がるが、そこへ襲い掛かったのがルミリアの魔法。
「《リコシェ・ブリッド》」
魔法球が縦横無尽に跳躍し、魔物を弾き飛ばした。
これ以上、魔物が湧いてこない事を確認し、一行は更に奥へと進んだ。
少しだけ広い場所に出る。
「ここは……魔物の巣か?」
そこに、一行の行く手を塞ぐ巨大な影が現れた。
「こいつ……小型だが、双頭の巨人エティンか」
オーガーと比べても頭一つ抜けた巨大な身体。
太い腕に粗雑な棍棒を持っている。
古代、魔物と神が交わった結果の一つと言われている。
「盾を探すためにも、コイツを無視する訳にも行かないな!」
ダーリオンとエルデは剣を持ち直して、エティンに立ち向かった。




