17 私の特技は
──部屋の床にはボロ雑巾のようになった俺が転がっている。その周りを、息を切らした仲間達が囲んでいた。
「はぁ、はぁ……馬鹿な奴だ、この人数を相手にして勝てるわけねぇだろうが」
「意外とタフだったッスね。まさかこの車椅子に搭載された電気ショック機能を使う羽目になるとは」
「イチ君ったら、避けるの上手くてビックリしたよぉ」
痺れて動けなくなった俺の身体を、キュウがひょいと持ち上げてガクガクと揺らした。ひどい。死体に鞭打つ行為だ。
「キュウちゃんは相手を殺すのは得意でも、程々に負傷させて拘束するのは苦手みたいッスね」
シィが呑気な態度で恐ろしい事を言っている。その横では何やら真面目くさった顔をしたヨシマサが腕を組んで考え事をしていた。
「ふむ……しかし実の所、ハキリは小僧に何を頼みたかったんだ? まさか本当にプロポーズって事もないだろう」
「え、違うんスか?」
「こいつは口下手でヌケてる所があるからな……現に今も、小僧が俺たちにボロクズのようにされるのを見てても平然としてるだろ」
「あー、またヤバいタイプの女ッスか。最近会う人こんなのばっかりッス」
俺をボコった事で冷静さを取り戻した一同は改めてハキリの方に向き直り、彼女の話を聞く事にしたようだ。
「……私は、イチと一緒になりたい。イチと全く同じ人間になれば、私は父さんの弟子になれると思った」
「なるほど、そういう事だったか。しかしハキリ、お前には才能が無いんだ。例え小僧と一緒の生活をした所で弟子にはできねぇぞ」
「じゃあ私はどうすれば良い? 私は父さんのような人になりたい」
「あー、そうだな……いや、無理だと思うぜ。なにせ俺は天才で、お前はその才能をこれっぽちも受け継いでないからな」
ヨシマサは冷淡に、実の娘を酷評して突き放す。
流石に可哀想じゃないか? 父親に憧れを持った娘が、その父によって夢を諦めさせられるなんて。
「待てよ、誰にだって得意な事はある筈だろ? あんたがそれに気付いてないだけじゃないか?」
「小僧、もう復活したのか? そこまで言うならお前がハキリの得意分野を見つけてみろ。言っておくが職人の気質は無いぞ、手先が不器用で仕方がない奴だ。他の分野で探すと良い」
「いや、本人が改造屋になりたいって言ってるんだから他なんて……」
「何事も人生経験だろうが。俺だって最初っからこの仕事をしようと思ってた訳じゃねぇ。お前だって今は掃除屋だが将来は改造屋だ」
「人の将来を勝手に決めるなよ」
──とはいえ、ヨシマサの言う事にも一理ある。もし父親を超えられる特技が見付かればハキリも満足するかもしれない。
「じゃあ、俺と一緒に職業体験……って事でも良いか?」
「うん。私は父さんのようになりたいけど、貴方のようにもなりたい。貴方の仕事を教えて」
ハキリが強引に俺と手を重ねる。こうして、俺たちの新しい日課が始まった。
──まず初めにやったのはハキリの基礎能力の精査だった。
ハキリを清掃会の支部に連れて行き、そこの訓練施設で各種武器の扱いと、精神的強度を試したのだが……結果は散々だった。
「これは酷いな。不器用すぎて剣も手斧も扱えないし、そもそも基礎体力が足りない。生まれつき身体が弱いのか? 視力も低いな。これじゃ狙撃手にもなれない」
「まず虫を怖がる人間に掃除屋は無理ッスよ。しかもハキリちゃん綺麗好きで、泥や砂で汚れるのすら嫌がるッス」
「そうね。泥も虫も、私は嫌い」
俺たちに何を言われてもハキリは至って冷静な様子だ。だが彼女が落ち着きのある性格かと言うと、そういう訳でも無かった。
例えば弓を使わせた時のことだ。ハキリは平然とした面構えをしていたが、指には余計な力が入って震えていて、すぐにあたふたと矢を取り落とした。そして素面の顔のまま矢を拾おうとするも慌ててバランスを崩してすっ転んだ。
つまりは表情に出ないだけで根は慌て者なのだ。しかも度を越した不器用でもある。それを理解した事が、この検査の唯一の収穫だった。
次に俺たちは彼女の身体機能を測定した。これは主にキュウの得意分野である。
心拍数、基礎代謝、筋肉の付き方や骨格の形状、その他の身体的特徴などを、キュウの敏感な五感と経験で判別するのだ。
「で、結果はどうだ? キュウ」
「うーんとね、これは多分ね、虚弱体質って奴だよ。胃腸の形がいびつで、いっぱい食べられない身体みたい。疲労も感じやすいと思う。あと心臓が弱くて肺活量も低いから、戦闘屋になるには色々改造しなきゃだね」
「肉体労働系は無理か……なら、アイツに頼ってみるか」
俺の頭にはある人物の顔が浮かんでいた。恐らく今回の件で、最後の砦となるであろう人間だ。
「何かアテがあるッスか?」
「ほら、アイツだよ。お前も会った事あるだろ」
「え? それってまさか」
不安そうな顔をするシィの車椅子を押して、俺は急ぎ足でその人物の自宅へと向かった。




