11 本物の改造屋
地下に降りると、そこは様々な機器や工具が散乱する工房だった。明らかに表の店よりも広く、清潔な雰囲気だ。
キュウは工房の中央にある台座に寝転がされて眠っていた。その横ではヨシマサが、まじまじとキュウの身体を観察している。
「ふぅむ、こんなカラダは初めて見たぜ。無計画にガチャガチャ改造しやがって。部品の種類もメーカーもバラッバラで、クソみたいに安物だな。しかも技術の低い改造屋に依頼したせいで無駄な悪影響が出まくってる」
仮にも改造屋を名乗るだけあって一定の観察眼は持ち合わせているのか、既にキュウの肉体状態を十分に理解しているようだった。
まさか本当に三級という訳でもあるまいが。
「なぁ小僧。この嬢ちゃんは、どれくらい前からこんな状態なんだ?」
「初めて改造に手を染めたのは八年前、身体に限界が来たのは三年ぐらい前からだった」
──そう、八年前のあの時。
当時の俺とキュウは十歳で、ある孤児院でゴミ以下の生活をしてた頃。キュウはまだマトモで、いつも冷静で物静かな奴だった。彼女は同年代の誰より器用で、小銭拾いとスリで小遣いを稼いでいた。
そんなある日、突然キュウは貯めた金を握って誰にも告げずに改造屋に行き、右腕の骨格を金属製に改造した。
それからもキュウは安価な改造を重ねていき、自力で金を稼げるようになると給与の殆どをそれに注ぎ込んだ。激痛で眠れない夜が続いても止めようとはしなかった。
「キュウが寿命を削ってまで強くなろうとする理由は分からない。何度も聞いたけど、教えてくれなかったんだ」
「素朴な疑問なんだが、この嬢ちゃんのメンテナンスは誰に頼んでるんだ? 普通の改造屋じゃ手の施しようもないだろうに」
「俺が独力でやった。八年間、少しずつ複雑になっていくキュウの身体を、少しずつ理解して何とか修理を追い付かせた」
「そうか。じゃあ小僧、これが終わったらお前、俺の弟子になれ」
ヨシマサは清々しい笑顔を浮かべて訳の分からない事を抜かしながら、磨かれたレンチを手に取る。
「……本当にキュウを直せるのか?」
「俺は人生で嘘をついた事がない」
ヨシマサは慣れた手つきでキュウの破損したパーツをバラしていく。しかし肉体に完全に癒着している部分も容赦なく剥がしていくので、ドバドバと派手な出血まで引き起こしていた。
「おいオッサン! それ取り外して大丈夫なのか!?」
「大丈夫なワケねぇだろ! 体内で神経網と絡まってんだぞ! だが外さないと修理は出来ねぇ!」
ブチブチと筋繊維や神経を引きちぎって、乱暴にキュウを解体していくヨシマサ。もはや拷問でもしているかのような光景だ。なのにも関わらずキュウは目を覚まさない。
おかしい、手術中はいつも絶叫しながら涙と血を流して悶絶している筈なのに、今は安らかな顔で眠っている。
「さっきからキュウが目を覚まさないぞ。本当に大丈夫か? まさか死んだんじゃ」
「クスリを打った。対象を眠らせて急速に生命力を回復させるのさ。後遺症も一切無い高級品だぜ?」
「なんでそんな物を……」
「麻酔も回復薬もナシで手術するのは最低のヘタクソ野郎だけだぜ。そんな奴は改造屋とは呼べねぇな」
……麻酔って、凶暴な魔物を鎮静させる為だけの道具じゃなかったのか。俺はそんなカルチャーショックを受けながら、ただキュウの安否を見守ることしか出来ない。
見れば、ヨシマサはキュウの背中側の解体作業に移っていた。脊椎の内部には夥しい数の機械端末が埋め込まれており、外部からも複数の装置が装着されている。
これを後遺症もなく取り外すのは医者でも不可能だろう。
「こりゃまた凄ぇな。どれだけの改造を受けたんだ? 神経網の増設に、反射速度の高速化、五感の鋭敏化、記憶の補強と人格の補填。即時的な快楽装置まであるのか」
「あと、頭にも……」
「うおっ、感情増幅器が二つも付いてやがる。他には低下した思考能力の補助装置と、安物の快楽装置が追加で三つ接続されてるな……。かなり深刻な障害もいくらかあるぜ、視力と聴力の強化に失敗した後遺症で色盲と感音難聴。頭蓋骨を金属で補強した部分が錆びてて手術跡から腐り始めてやがる」
「そこまで分かるのか!?」
目と耳の障害に関しては、俺ですら知らなかったことだ。キュウが隠していたのだろう。
そこでやっと確信した、この男はこれまでの改造屋とは一線を画す腕前を持っていると。
「頼む。キュウを直してやってくれ」
「やっと俺の腕前が分かったか? 任せとけよ小僧、少なくとも一年はメンテ不要にしてやるぜ!」
ヨシマサは自信に満ちた笑顔を浮かべると、凄まじい速度でキュウの身体から着脱不可能なはずの装置を取り外していった。
……俺が呆然とその様子を眺めていると、突然シィが首を前に突き出して、顎をちょこんと俺の肩に乗せてくる。
「ねぇセンパイ? あのオッサンって、嘘を付かないんスよね?」
「そうらしいな。この腕なら三級ってのも本当なんだろう」
「じゃあ、さっき上の階で豪快に取り出してた札束は、私達に対する“当て付け”とかじゃなくて、マジで貰えるってことッスか?」
俺たちの会話を聞いてヨシマサが冷や汗を流す。しかしすぐに覚悟を決めた様子で、声を荒らげて叫んだ。
「持ってけドロボー!」
「いやっほぉぉっ! センパイセンパイ! 私、培養されてない本物の肉が食べてみたいッス! あとあと本物の果物ってヤツも!」
「ははは、シィにはいつか美味しい果物を食べさせてやろうと思ってたんだ。知ってるか? 林檎って言うんだけどな、赤くてドロッとしてるんだよ」
頬を真っ赤にして興奮するシィと共に、俺は大急ぎで地上に放置された札束の元へ向かった。




