8. 悪役令嬢は遺伝……かも?
ヴィヴィさん視点です。
「ヴィヴィエットお嬢様。本当に宜しいのですか?」
馬車の中で侍女のキエラに尋ねられました。
「ええ、大丈夫。お父様とは昨日の内にお話ししてあるわ。それに、もたもたしていたら厄介事が出て来そうですものね。早めに手を打った方が良いと思うの」
昨日の婚約破棄騒動から一夜明けて、只今王宮へ向かって馬車を走らせています。
まあまあ居心地の良かった伯爵家次男の婿入り婚約が、アイツの不貞のお陰で破棄になりそうです。
いいえ、そうではなくて破棄決定ですわね。
昨日、エレンツィード殿下に屋敷まで送って頂いた時に、
『もし、君のお父上であるレベンデール公爵が婚約破棄に反対であるならば、僕が説明するよ? 決して君に責がある訳でなく、ジョイルの不貞のせいだからな』
と言っていたのよね。でもね、殿下が余計なおせっかいをしなければ、私とジョイル様は今でも婚約者同士だったはず。幾ら、ジョイル様がアリアーヌ様と婚姻を結びたいからと婚約破棄を申し入れても、絶対に無理ですもの。
だって、我家は公爵家でジョイル様は伯爵家でしょう? 格下から上位には幾ら何でも難しいわよね? これが逆だったらスムーズに出来たかもしれないけど。
でも、ジョイル様だけだったら普通に、真っ当な方法で婚約破棄を願い入れたかもしれませんけど、問題は彼女、アリアーヌ様でしたわ。
あのアリアーヌ様っていうのは、可愛らしい見た目とは違って随分にスゴ腕だものね。優柔不断で、真っ正直で、疑う事をしないジョイル様に、あること無い事吹き込んでいたじゃないの。
昨日のあの場面でなければ、もっと別なシーンを用意されたかもしれないわ。派手に、皆の同情を引ける自分というエサに喰いつく大物を狙ってね。
マア、コワイ!
とにかく、エレン殿下の申し入れは丁重にお断りして、帰ってすぐにお父様とお母様に報告しましたわよ? 私がジョイル様に何をされたか、どんなことを言われたかをね。
「何という事だ!! ヴィヴィを辱めるなどと許せん! 婚約などこちらから破棄してやるっ!!」
烈火のごとく怒り狂うお父様は、机をダンダンッと拳で叩いて怒ったわ。まあ、そうよね。お父様的には結構ジョイルの事を気に入っていたし、彼もお父様を尊敬していたようですもの。傍から見れば、気の合う義理の父と息子よね。
壊したのは、ジョイルですけど。
「レベンデール公爵家に対する裏切りだ! ヴィヴィ、辛かったろう? 済まなかった。父が付いていながらお前に辛い思いをさせてしまった」
目に薄っすらと涙を貯めて、お父様が私を抱き締める。お母様も私の頭を優しく撫でてくれたわ。
「ヴィヴィ、可愛そうに。でも、気に病んでは駄目よ? とにかくお父様にお任せして、こちらから婚約破棄をしましょう。貴方、ダント家にはそれ相応の責任を取って頂きましょう? 公爵家の跡取り娘との婚約を、男爵令嬢との火遊びで反故にするのですものね」
実は、お父様よりもお母様の方が怖い。
私の髪や瞳の色は、お父様のレベンデール公爵家のモノです。眩い金髪のサラサラストレートも、アメジストの紫色の瞳はお父様とよく似ています。でも、顔の造りや性格はお母様似ですわ。
美男美女と誉れ高かった両親の良い所を、貰って生まれて来たと言われていますけど、人間そんなに良い所だけじゃありませんのよ?
だって、私にしか見えないお母様の表情は……はっきり言って黒いです。ええ、真っ黒な暗黒女神の微笑みですもの。
「貴方、明日の朝一でダント家に行って下さいな。アチラに我が屋敷の敷居を跨がせるなんてしませんわよ。宜しいですわね?」
お母様の凍れる微笑は、お父様でさえ震え上がらせるのです。
「ところで、ヴィヴィ。貴女どなたに送って頂いたの?」
ああ、やっぱり気が付いていらしたのですね。さすがお母様ですわ。
エレン殿下の馬車は、王家の馬車にしては見た目は簡素な普通の馬車でしたのに。なんでも、毎日通学で定時に使う馬車なので防犯上の事も考え、一目で王家の馬車とは分からない様にしているとか。外装は普通でも、その代わり内装は大層立派でしたわ。乗り心地だって最高です。
「それは、一部始終をご覧になっていたクラスメイトが心配してくれて……ショックだろうから送って下さると言ってくれたのですわ」
まだ内緒です。エレン殿下に送って頂いた事も、ましてや婚約をして欲しいと言われた事も。
「……そう。クラスメイトね。判りました。その方に、お伝えして頂戴な。『大変お世話になりました。お心遣い感謝致します』 と」
ニンマリと目を細めて私を見詰めるお母様。コレは、誰に送って貰ったかご存じっぽいですわ。玄関横づけにしなかったのに。
まあ、そんな感じで両親とダント家とジョイル様へのモロモロ、イロイロな対応を考えて、結構夜遅くに寝ついたのですけど……
明け方近く、キエラに起こされました。
「ヴィヴィエット様、起きて下さい。お嬢様」
今日はお休みよ? まだ起きる時間には、随分早いはずですけど。
「う……うん……キエラ? どうしたの?」
何かあったのかと身体を起こすと、キエラからサッとメモを渡されました。書かれている文字の色は青。ということは、ポルテス男爵家に潜り込んでいる諜報員からですわ。
「こんな時間に来るなんて、何かあったのね?」
受け取ったメモに目を走らせます。思わず眉間に皺が寄ってしまいましたわ。
ああ、何てことかしら。
「どうされました?」
キエラが私の表情に気が付いて、小さな声で聞いてきました。
「アリアーヌ様が家出したみたい。ポルテス男爵家は、大騒ぎになっているようよ」」
今私に届いたという事は、恐らく夜の内に家を出たのでしょう。
「まさか、ジョイル様と駆け落ち!? そんな事は無いわよね? キエラ、ダント家にいる者に確認して頂戴! ジョイル様が一緒なのかどうか!」
私は勢いよくベッドから飛び降りると、キエラに指示を出しました。
まさかとは思いますけど、一応念のためです。
ジョイル様には、そんな大それた事は出来ないはずです。それにアリアーヌ様だって、伯爵家から勘当されそうなジョイル様と手に手を取って家出なんて……彼女にとって利の少ない行動をするかしら?
「もしや、第三の男性がいるという事かしら?」
そして、朝日が昇る頃には幾つかの事が判りましたわ。
一つ目は、アリアーヌ様が第三の男と出奔し、ジョイル様は置いてけぼりを喰ったという事。
二つ目は、それにショックを受けた彼が、アリアーヌ様を追い掛ける為、伯爵家の皆さんを振り切って探しに出てしまった事。
多分今頃は、レベネン商会も大騒ぎでしょうね。アリアーヌ様と一緒にいるのが、レベネン商会ダンデル氏の実の息子なのですから。
さすがにこの情報は、エレン殿下もご存じ無いでしょうね?
「まったく、人騒がせなアリアーヌ様とジョイル様ですわね。折角の休日が台無しになってしまいますわ」
キエラに身支度を手伝って貰いながら、私はあくびを噛み殺します。だって、寝不足ですもの。
「お嬢様、それで、今日のご予定はどうされますか?」
髪を梳いて貰い、鏡越しにキエラと話をします。
「そうね、こうなった事をあの方にも聞いて貰いましょう。おせっかいの始末は、ちゃんとして頂かないとね?」
鏡のキエラに向かって微笑みます。
「エレン殿下にお目通りをしたいと、先ぶれを出すように伝えて頂戴な。朝食を頂いたら、直ぐに出発したいから」
そして、エレン殿下にお会いする為、私はキエラを連れて王宮へ向かっているのです。
ブックマーク、誤字脱字報告
ありがとうございます。
ヴィヴィさんはお母様似です。
コワイですよー!
次話もヴィヴィさん視点です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




