7. 悪役令嬢参る!
ヴィヴィさん登場します。
「レベンデール公爵家のヴィヴィエット嬢でございます」
バレンがもう一度そう言った。
「ヴィヴィが?」
「はい。左様でございます」
チラリとバレンの視線が、ハインツとレインに向けられた。この二人がいる所にヴィヴィを通していいのか判断しろという事らしい。
さて、想定外に先手を取って来たヴィヴィは、一体何をしに来たんだ。
ここは、この二人にも同席願おうか。
「バレン。ヴィヴィエット嬢をご案内してくれ。ああ、二人の事は伏せてくれ」
バレンが肩眉を上げてた。本当に宜しいのですか? とその表情は言っている。
「ああ、構わない。丁重にご案内してくれ」
そう頼んで顔を前に向けると、眉間に皺を寄せたハインツと口をへの字に曲げたレインがいた。
「何だ。何か言いたそうだだな」
「殿下。私達は退室させて頂いても良かったのですが。ヴィヴィエット嬢と殿下の事に巻き込まれるのは御免です。想像する限り、厄介な事になり兼ねませんよね?」
「まあ、そう言うな。お前達も付き合ってくれ。ちゃんとヴィヴィと言葉を交わした事なんて無いだろう? ジョイルは学院では、婚約者だった彼女とは距離を置いていたし」
「まあ、そうですね。でもそれは、婚約者の決まらない殿下に遠慮していたからです」
「決まらないじゃない。失敬だな!」
まあ、僕のヴィヴィへの気持ちは二人には判らない。決まらないじゃなくて、寧ろ12年前から決めていたんだから。
トントントントン!
「エレンツィード殿下、ヴィヴィエット・レベンデール嬢をご案内して参りました」
扉を叩くと同時にバレンの声が聞こえた。
「入れ」
ココはやっぱり、王子サマでいこうか?
「……ヴィヴィエット・レベンデールで、ございます。エレンツィード殿下には、ご機嫌麗しく。急な面会の申し入れにお応え頂き、有り難うございます」
部屋に案内されて、僕等三人の姿を見たヴィヴィは目を見開いて立ち竦んだけれど、それは一瞬の事だった。
何故ならヴィヴィは、それはそれは優雅なカーテシーをして、天使の微笑みを浮かべて顔を上げたから。
「やあ、ヴィヴィエット、よく来たね? ああ、堅苦しい挨拶は抜きで行こう。こちらに来て掛けてくれくれ」
僕はさっと立ち上がると、ヴィヴィの手を取ってソファまで促す。ヴィヴィは一瞬躊躇したように僕を見上げたけれど、大人しくソファの所まで来てくれた。
「ヴィヴィ、紹介しよう。君は知っていると思うけど、生徒会役員のハインツとレインベルトだ。話をしたことはあるのかな?」
「ええ。勿論存じておりますわ。余りお話はしたことはありませんけど。ハインツ様、レインベルト様、御機嫌よう。直接ご挨拶をさせて頂くのはお久し振りですわね」
ヴィヴィは春の咲き誇る薔薇の様な笑顔で二人に話しかける。今まで見た事も無い表情だ。
「そうですね。確か学院に入学する時に、紹介された以来かもしれませんね? あの時はジョイルに婚約者と---」
ハインツがしまったと言う顔をした。昔を思い出したら、一番彼女に言ってはいけない名前が出てしまった。少しだけ動揺したハインツが、言葉を濁すように口を開き掛けたが……
「ハインツ様、お心遣いには感謝致します。でも、お気になさらずとも結構ですわよ?」
全く気にして無さそうなヴィヴィの表情と声音に、レインが目だけで僕に何かを訴えている。
だよな? 今までの僕達とヴィヴィを繋ぐのはジョイルの事しかないから、危険ワードというか地雷を踏まずして話を続けるのは難しそうだ。
「まあ、とにかくヴィヴィも座ってくれ。挨拶はここまでにして、君は用事があって会いに来てくれたのだろう? 内容によっては、この二人は席を外して貰うけど……どうする?」
「私はエレンツィード殿下が構わないなら、お二人がいらしても結構ですわ。でも、今日は二つの事をお話しに参りました。一つはご報告と、もう一つは昨日のお返事です」
ヴィヴィはバレンから紅茶のカップを受け取ると、蕩ける様な微笑みを向けて僕の方を見た。
何だ、報告と返事って。昨日の返事って、もしかして婚約してくれっって言った事への返事か? 昨日の返事って言えば、それしかないだろう?
報告の方は、ジョイルとの婚約破棄について正式な結果か?
「出来れば、ご報告はお二人にも聞いて頂いた方が宜しいかと。お返事については、殿下が宜しければ私はどちらでも」
「……」
どうするか。
「……殿下、私達は報告だけで結構です。ヴィヴィエット嬢、昨日のお返事とやらは、殿下とお話し下さい。それで宜しいですね? というか、そうさせて下さい」
巻き込まれたくないハインツと、何故か無の境地に飛んでいるレインベルト。僕とヴィヴィの事には関りたくない感が溢れている。
「判った。じゃあ、ヴィヴィ、報告っていうのを教えてくれるかな?」
姿勢を正して僕達はヴィヴィを見詰める。
「それでは、ご報告しますわ」
ヴィヴィは真っ直ぐな瞳で、僕に微笑みかけている。
ああ、僕はこの瞳に囚われている。のかも、しれない。
「アリアーヌ・ポルテス男爵令嬢が、失踪しましたわ」
思ってもいなかった名前だ。
「アリアーヌ嬢が?」
「ええ。昨日の晩には家を出たようです。今朝にはもう屋敷から姿が消えていたそうですわ」
貴族の令嬢が、夜中に一人で家を出るなんて事は無い。幾ら彼女が狡猾だったとしても、たかが16歳の少女には難しい。誰かに連れ去られたか、それとも手引きをされたのか。
「まさか、ジョイルが一緒なのか? 彼女を連れて家を出たのか?」
僕の情報網にはまだ掛かっていない報告に、信ぴょう性があるのか?
でも、ヴィヴィの情報収集能力は、僕と同じ位かそれ以上にあるかもしれないのを、昨日知ったばかりだった。
でも、ジョイルが? ハインツとレインの話だと昨日の時点で、ジョイルとアリアーヌ嬢が手に手を取って駆け落ちするようには思えないが?
「殿下、ご安心下さいな。ジョイル様では無いと思います。彼は今朝になってから、それを知ったのですもの。それに駆け落ちなんて、あの方には出来ませんでしょう? そう思いませんこと?」
ヴィヴィは、まるで他人事の様にそう言って、フフフッと小さな声を立てて笑った。緩やかに弧を描く珊瑚色の唇が、何とも可愛らしいけれど。
「ジョイルでは無い? じゃあ、誰が? 昨日の婚約破棄劇を知っていて尚、彼女と駆け落ちする男なんているか? それとも借金のカタに連れ攫われたのか?」
フルフルと頭を振って、小首を傾げる。何とも愛らしい姿だけれど、ヴィヴィの事だから油断は出来ない。
「まさか。それはありませんわ。彼女と一緒に行動しているのは、多分ですけど……」
「「「多分ですけど?」」」
僕とハインツ、レインの声がハモッた。
「レベネン商会のダンデル様」
「ダンデル氏!?」
思わず立ち上がってしまった。
「の、3番目の息子、ブランドル・レベネン様です。ご正妻のただお一人のご子息ですわ」
何でそんな事迄知っているんだ。澄ました顔で言い切ったヴィヴィに、ハインツが恐る恐る口を開いた。負けるなよ?
「コホンッ。つまりアリアーヌ嬢は、結婚相手であるダンデル氏の実の息子と駆け落ちしたと? 義理の息子という事ですか……しかし、何でヴィヴィエット嬢はそこまでご存じなのですか?」
ハインツ。お前、完全にヴィヴィのペースに飲まれたぞ? 真正悪役令嬢のヴィヴィに、この男はチョロいかも。
「フフフ。仮にも元婚約者と特別に懇意にしているご令嬢の事ですもの。良く調べもしますわ。もっともアリアーヌ様は隠し事が下手な方でしたから、そんなに苦労はしていませんわ」
花が綻ぶように微笑むヴィヴィに、一瞬だがハインツとレインが目を奪われているのを見た。ヴィヴィが言っている事と、顔の表情が全く一致していない事に二人は気付いているのか?
「ああ、そうですわ。肝心な事を言い忘れる所でした。私としたことが」
ティーカップに口を付けていた彼女が、カチャリとテーブルにカップを置いたけど、思いの外大きな音だったので小さく『失礼しました』 と肩を竦めた。その仕草が愛らしいけどね。
ヴィヴィは思い出して安心したのか、ふわっと明るい表情で口を開いた。
「あのですね、ジョイル様が、アリアーヌ様を探すと言って伯爵家を出てしまいましたの」
「「「はあぁ!? ジョイルが!?」」」
再び三人の声がハモッた。
それって、最高に、マズイだろう!
ブックマーク、誤字脱字報告、ありがとうございます。
感想なども頂けると、頑張るパワーになります。
ロリ巨乳フワゆる美少女アリアーヌちゃんこそが、
真正悪役令嬢ですよねぇ。
さて、次話はヴィヴィちゃん視点で
投稿予定です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




