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32. パートナー

「ヴィヴィエット嬢、大分疲れているように見えるが……」


 放課後の生徒会室。エレンツィードは、学院長室まで呼ばれているのでこの場にはいない。

 大きな会議用のテーブルを囲んで、ヴィヴィの真正面に座っているハインツが声を掛けて来た。


「……そんな事はありませんけど、ハインツ様にはそう見えまして?」


 いけない、いけない。ヴィヴィは頬に手を当てると小首を傾げて答えた。普段ならば完璧に隠せるはずが、二日続けて着せ替え人形になったのは、さすがに堪えたようだった。若干、腰だの肩だのがだるい様な気がしているのは、致し方ないと思われる。


『試着って意外と疲れるのよね。それに光画館での撮影なんて、聞いていませんでしたもの!』


 思い出してフッと溜息が出た。やっぱり、隠しきれていないようだ。


「ああ、今朝になって君の妖精ドレスのポスターが出来ていたので、随分タイトなスケジュールで準備したのだろうと思ったのだが?」


 生徒会室の壁にも、開催告知のポスターとヴィヴィのポスターが貼りだされている。正直言って、演技? した自分のこんな姿の光画を見るのは大変恥ずかしい。恥ずかしいが協力すると言った手前、断る事も出来無かった。


「そう……ですわね。土日の二日間を使いましたので。素敵なドレスを沢山着る事が出来ましたけど、まさかあんなポスターになるなんて思いませんでしたわ」


 内心のゲンナリ感を押し殺して、ヴィヴィはそう言って微笑んだ。


「でも、あのポスターは凄く好評だよ? 特に女子はドレスデザインの参考になるって、ノートにデザインを写したりしていたね。きっと今頃は王都中のメゾンに駆け込んでいるんじゃないかな?」


 書記のディレクがお茶用のワゴンを押してきながら、ポスターの前で立ち止まった。今日のお茶当番はディレクのようだ。


「衣装協力がメゾン・ド・カレムだったけど、きっと凄い事になってるんじゃないのかな? 女生徒のほとんどが詰めかけてたりしてね」


 再びワゴンを動かすと、レインが手伝って皆にお茶を配った。良い香りが部屋の中に漂って、皆の表情がふわりと緩んだように見えた。


「で? ()()もカテシーナのアイデアなんだろう?」


 ヴィヴィの隣で、大人しくお茶を飲んでいるカテシーナにハインツは声を掛けた。


「まあね。女子の間で、ドレス選びに困っているという声が聞こえたから。ヴィヴィエット様に()()()()、ご協力頂いたの。エレン殿下がヴィヴィエット様にドレスを贈りたいとも言っていたし、コンセプトの統一の為にも光画で見せれば手っ取り早いと思ったの。でもね、このポスターを譲って欲しいという声が多くて困ってしまうわ」


 隣のヴィヴィがカテシーナに目を向けると、ぱちりとウインクされた。全てカテシーナとエレンの思惑通りに進んでいるらしい。


『あれが、()()()()とは。なんとまあ、息の合った連携ですわねぇ』


 カテシーナとエレンの協力体制に、何時そんな相談をしているのかと思わないでも無い。


「因みに、ヴィヴィエット嬢はどのドレスにするのですか?」


 会計のマーリンが、ポスターを指差している。ポスターには10着程度の光画がレイアウトされているが、どれもこれも凝ったデザインのドレスだ。


「ヴィヴィエット嬢なら、どれもお似合いだと思いますけどね。僕としては、この壁に寄り掛かる光画のドレスが一番お似合いだと思います。シャンパンゴールドのこのドレープが美しいですね」


 どうやらマーリンの好みは、少し大人っぽいマーメイドラインのドレスのようだ。


「うふふ。皆様、残念でした! ヴィヴィエット様のドレスは、エレン殿下のプレゼントですわよ? ポスターには無い特別なデザインで、オンリーワンのオートクチュールですわ!」


 カテシーナが自慢そうに答えると、ヴィヴィに向かって相槌を求める様に顔を向けた。


「お陰様で。メゾン・ド・カレムの()()デザイナーさんのお陰で、素敵なドレスをご提案頂きましたわ」


 ヴィヴィの脳裏には、沢山のドレスの山が浮かんだ。メゾンのマヌカンですら、あんなに沢山のドレスを着倒すことは無いだろう。すこーしだけ気が遠くなったのを思い出したのだった。












「しかし、殿下は遅いな。そろそろいらしても良いと思うが」


 さすがにこれ以上、無駄話をしているワケにはいかない。ハインツが作業を始めるため文箱から書類を取り出した。


「ハインツ様、それは?」


 ヴィヴィがテーブルに身を乗り出すように聞いて来た。


「ああ、今日は招待客リストの見直しと、招待状の発送をしたいのです。そろそろ送らないとお客様にも失礼でしよう。ドレスコードも特別ですから、衣装の準備も間に合わなくなります」


 招待客リストをペラペラと捲りながら、幾つかの山に分けている。

 ハインツから半分を受け取って、ヴィヴィが目を通しながら仕分けるのを手伝う。


「これは高等学部の生徒と家族宛て。こちらは王族の皆様で、こちらはそれ以外の貴族。国内の名士や芸術家ですか。あら、国外にも出すのですね?」


「ああ。何しろ10年振りな上に、エレン殿下が生徒会長に当たっているからです。それに、花の蕾がかつてない多さで、きっと今までにない咲きようになるらしいから、いつも以上に盛り上がるんじゃないかな」


 確かに王族が在学中の園遊会は、大層にぎわうと噂では聞いていた。夕方から開催される園遊会に合わせて、街中が色とりどりのランタンで飾られる。

 普段学院の敷地の中に平民は入ることは出来ないが、この日だけは特別に限られた時間だけ温室が解放される。但し、運良く温室への入場券が当たった者のみだが、それでも10年に一度の運試しとして抽選会は大盛り上がりになるのだった。

 ランタンの光に照らされた街には、幻の花を模した造花や花をモチーフにしたアクセサリー、様々な小物等の屋台が沢山できる。勿論、串焼き肉や揚げ物、綺麗な飴細工の屋台なども沢山出るので、街中がお祭りの景色に様変わりする。



 流れ作業で、ハインツとマーリンがリストの名前と印刷されて届いたばかりの封筒を照らし合わせてチェックをしていく。招待状を封筒に入れるのは、カテシーナとヴィヴィ。学院生徒会の封蝋を押すのはレインとディレクが行った。皆無言で作業に没頭していたのだが、ふとヴィヴィが口を開いた。


「そう言えば、皆様はパートナーがお決まりなのですか? 殿下は生徒会役員もパートナーのエスコートが必要だとおっしゃっていましたけど……」


 カテシーナがヴィヴィの手元を見ると、一枚の封筒があった。


『ああ、ダント伯爵家……』


 手の影になって見えにくいが、封筒の宛名には確かにダント伯爵家と書かれている様だ。元婚約者の実家宛てだと気付いて、疑問に思ったのだろう。




「……まだだ」


 ハインツが無表情で答えた。


「私もですわ」


 カテシーナはそれが何か問題でも? というように答えた。


「私は一つ下に妹がいるので、妹をエスコートする事になるでしょうね」


 ディレクは少しお道化た表情で、肩を竦めて答えた。


「私は、婚約者はいるのですがまだ12歳なので……」


 マーリンは頬づえをついて溜息を吐きながら答えた。まだ決まっていないらしい。


「レイン様は如何ですの?」


 ヴィヴィがレインに目を向けると、彼は作業の手を止めずに答えた。









「……誘いたい令嬢はいる……」


 そこにいた全員の視線がレインに注がれた。一見武骨な騎士風に見えるし、表情もそんなに豊かでは無い。それこそ、女性に関する事など今まで一度も話題に上った事が無かったはずだ。


「ええっ!? レイン! そうなのか?」


 ハインツが驚いて目を丸くして尋ねると、マーリンもディレクも誰だ? とか、どこのご令嬢だ? とかワイワイと騒ぎ始めた。かく言うヴィヴィも、そう言った事に興味を持つとは思わなかったレインの告白に驚いていた。


「そうですの? でも、レイン様からお申し込みを頂いたら、女性は皆お受けするでしょうね。それで、申し込まれたのですか?」


 やんやと騒ぐマーリンとディレクを目で制すると、ヴィヴィはやんわりとレインに尋ねた。


「……いや、それが……まだなんだが」


 歯切れが悪いのは照れているのか。薄っすらとレインの耳が赤くなっている所を見ると、慣れない状況と言ってしまったタイミングに少し後悔している様だった。気の毒になったヴィヴィは、カテシーナに女子意見を求めるために顔を向けた。


「そうですねぇ。レイン様と言えば、上級生にもファンクラブがある位ですから。当たって砕ける位の気持ちで行けば、きっと大丈夫ですわよ?」


 励ましているのか、貶めているのか判らない発言だった。カテシーナはそう言うと、ニマニマとした笑顔でヴィヴィを見返して来た。残念ながら、カテシーナにとってレインの恋愛事情は興味の無いことだったらしい。


「とにかく、それならば出来るだけ早くお誘いしたほうが良いと思います。その方にはパートナーがいらっしゃるのですか?」


 気を取り直してヴィヴィが尋ねると、レインははっきりと顔を上げて答えた。


「いいや。パートナーはいない。そう聞いている」


「でしたら、お早い方が宜しいですわ。ねえ、カテシーナ様?」


「そうですねぇ。はっきりしたほうが良いですね。レイン様に申し込まれて断る令嬢はいないでしょうけど、早い方が良いと思いますわねぇ。うかうかしていると、決まってしまうかもしれませんしねぇ」


 お茶のお替りを注ぐため、ワゴンに近寄ったカテシーナがポットに手を伸ばした時だった。











「それならば、カテシーナ嬢。私のパートナーになって下さい」







 カテシーナの前に跪き、片手を胸に当ててレインが言った。





「「「「 えっ!?」」」」



 ヴィヴィ、ハインツ、マーリン、ディレクの4人が、口を開けたまま向かい合う2人を見詰めた。

 

 








 バンッと、


 生徒会室の扉が、大きく開いた。





「えっ? 何だ? 何固まっているんだ? 皆どうしたんだい?」






 エレンが微妙な部屋の空気に気付いた。





『何でこのタイミングですの?』



 ヴィヴィはレインを更に気の毒に思った。









 

 


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なんと、カテシーナ嬢にパートナーの

申し込みです。


全く方向違いのカテシーナと

レインですけど、意外に良いかもしれません。


楽しんで頂けたら嬉しいです。



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