31. 世界観は統一しないとね
月曜日、学院内の掲示板に学生達は釘付けになった。
学院の正面玄関にある一番大きい掲示板、一番大きい掲示物は先日ハインツとレインが貼った『仮面園遊会』開催のポスターだ。
幻想的で美しい妖精達の姿を写し取った、神秘的な風景のポスター。そのポスターの隣にもう一枚大きなポスターが……
「んまあっ! こ、これってヴィヴィエット様じゃなくって!? 何てお美しいの。まるで本物の妖精じゃなくって?」
「それより、このドレスを見て? あら、このドレスってメゾン・ド・カレムのものよ!衣装協力って、書いてあるわ」
「ああ、じゃあ昨日メゾンにいらっしゃたのは、この光画の撮影の為だったのかしら? エレンツィード殿下がエスコートしてメゾンにいらしたらしいですわ」
女生徒がうっとりと見上げるその先には、メゾン・ド・カレムで制作した数着の『妖精ドレス』を着たヴィヴィエットの姿があった。
窓辺に腰を掛ける姿、花束を小脇に抱えて俯く姿、大理石の階段の途中で振り返る姿、そして緑の蔓草に囲まれた中庭に佇む姿……10種類以上のバリエーションだ。
「どのドレスも素敵ですわねぇ。でも、私はこの花束のドレスが一番好きですわ」
栗色の髪の少女がほうっと溜息を吐きながら言った。
「私はこの階段のドレスが良いですわ。長いドレーンがなんて美しいのかしら」
隣にいた金髪の少女が目を輝かせて指を差した。
「このドレスって、メゾン・ド・カレムに行けば注文できるってことかしら? 衣装協力ってことは作って貰えるってことよね? ああ、もしかして昨日ヴィヴィエット様はご注文されたのかしら?」
そこかしこで女生徒達が騒めく。昨日のエレンツィードとヴィヴィエットのメゾン訪問は、目撃者も多かったらしい。美貌の公爵令嬢と、彼女に肩入れしていると噂の第二王子のカップルは確かに注目度はMaxだった。
「それにしても素敵だわ。私、このドレスを注文するわ! 色や生地が被らない様にしないといけないわね。今日にもメゾンに行かないと」
「私も! 何人も同じドレスを着る事になりそうですわね? アレンジも相談しないといけませんわ」
さすがに先週発表されたばかりのドレスコードに、皆アイデアが纏まっていなかったようだった。それぞれが静かに探りを入れていた状態だったので、このイメージ光画は助かった。イメージがズレて、当日恥をかくことは無くなりそうだと多くの女生徒が胸を撫で下ろした。
『うふふ。そうでしょう、そうでしょうとも! 私の園遊会を完璧にする為には、その他一山のモブさえもイメージを合わせて貰わないと!』
「カテシーナ。ナニ変な顔をしているんだ?」
柱の影から掲示板に群がる生徒達を見ていたカテシーナに、後ろから声が掛けられた。
「あらっ。ハインツ……とエレン殿下、お早うございます」
腕組みをして目の前に立っているのは、従姉弟のハインツだった。そして、そのハインツの後ろにはキラキラしい笑顔のエレンがいた。
カテシーナはギギギと首を捻って顔を向けると、無意識の内にちっと心の中で舌打ちを突きながら挨拶をした。
従姉弟とはいえ、学年も違うため校内でそうそう会う訳では無い。子供の頃はそれでも遊んだこともあったが、ここ数年はカテシーナが引き籠っていたこともあって親しく話した事も無かった。
今回は園遊会の件があって、エレン経由で久し振りにハインツと関わる事になった。
「お早うカテシーナ嬢。さすがだね、(君の)ドレスデザインは皆に好評なようだ」
キラキラしい笑顔のまま、エレンはカテシーナに声を掛ける。メゾン・ド・カレムの妖精ドレスは、カテシーナのデザインではあるが、彼女がデザイナーであることは伏せられている。エレンはそれを知っている数少ない人物だ。因みにハインツは、カテシーナがメゾンとデザイン協力をしていることは知らない。教えると面倒な事になりそうだから、カテシーナもエレンもそこは黙っていた。
「妖精というドレスコードは初めてですから。イメージをし易いように、ヴィヴィエット様にご協力頂きました。何と言っても学院一の美少女であるヴィヴィエット様ですから、光画も映えますわ。このポスターだけではもったいないですねぇ」
最高の被写体に、カテシーナはご満悦だった。当然光画を撮影した光画館にも、ポーズや背景まで指示を出している。ヴィヴィエットには装丁して贈るつもりだったが、許しが貰えれば自分とエレン用にも一冊づつ作りたい。
『エレン殿下とは、何となく趣味が合うような気がするのよね』
カテシーナはエレンの顔を見上げると、ふっと笑みを漏らした。
「カテシーナ嬢?」
エレンが小首を傾げた。でも、その瞳はカテシーナに余計な事を考えていないよね? と念を押すように感じられた。
「ああっ! ヴィヴィエット様がいらっしゃいましたわよ!」「ヴィヴィエット様!」
掲示板に群がっていた女生徒達から、大きな声が響いた。正面玄関から一人の少女が入って来るのが認められたからだ。
きゃあきゃあと賑やかな歓喜の声に、入って来た金髪の少女が一瞬その歩みを止めた様に見えた。そして、掲示板を見上げる様に顔を上げた。さらりと金髪が肩先から流れ、アメジストの瞳がやんわりと細められた。ステンドグラスから差し込む朝日を浴びて、まるでポスターから抜け出た妖精のように輝いている。そこかしこから、溜息が洩れた。
「皆様、お早うございます」
誰もが見惚れる笑顔のヴィヴィエットだった。
ブックマーク、誤字脱字、感想も
いつもありがとうございます。
進みが遅くて、楽しみにして下さっている
読者様には申し訳ありません(泣)
そろそろ何かが起きたいところですけど、
誰に、どんなことが起きるのでしょうか?
楽しんで頂けたら嬉しいです。




