29. 引き籠り令嬢は類友
本日二話目です。
お間違えの無い様に。
先日の全校生徒集会から、早いもので既に1週間が経ちました。
結局あれから授業中以外は、休み時間も放課後も生徒会の仕事に忙殺されているのです。何て事の無い用事で呼び出されたりと、まあ、何と言うか生徒会役員以外となるべく接点が無い様に仕向けられている様な……そんな感じがしないでもありませんわ。
「ああっ! やっぱり良くお似合いだわ!」
カテシーナ様の声に我に返りました。いけませんわ、折角お茶にご招待して下さったのに。
「本当ですわね。カテシーナ様の描かれたあの妖精の様ですわ。本当にお似合いで、溜息が出てしまいます」
カテシーナ様から親睦を深めましょうと、お茶のお誘いを頂いてハントルーク伯爵家にお邪魔したのは昼に近い午前中の事でした。男性ばかりの生徒会で、今回園遊会の為に選ばれた私達は実はお互い名前と顔は知っていても、一言も言葉を交わしたことはありませんでした。
何故かって? だって私は社交のほとんどをジョイル様にぶん投げていた引き籠りだったし、カテシーナ様も作画活動に夢中で、同じくこちらも引き籠りだったからですわ。
まあ、似たもの同志? 的な所があったのですよ。
で、たった二人しかいない女生徒ですから、交流を持ちましょうという事になった訳ですわ。
だったのですけど……
「じゃあ、ヴィヴィエット様、次はコチラを着てちょうだい! やっぱり貴女には朝靄のような薄紫色が似あうわ! このチュールレースの色の美しいこと!」
そう言ってカテシーナ様が、淡い光を放つ美しい薄紫色の生地のドレスを広げて見せて下さいました。
今、私達が何をしているかですって?
私、今、着せ替え人形になっています!
「ヴィヴィエット様、お疲れになったでしょう? こちらのお茶をどうぞ? ハーブティーですのよ? 疲れも取れますわよ」
若干、いえ、かなりぐったりしてソファに座った私に、カテシーナ様がハーブティーを淹れて下さいました。
「あ、ありがとうございます……」
駄目ですわね。折角お招き頂いたのに。
「ヴィヴィエット様、ごめんなさいね。貴女に会えるとなったら、自分を押えられなくなってしまいましたの。だって、学院きっての美少女で、天使か女神と称される美貌の持ち主に直接会えるのですもの!
ああ!こんな機会滅多に無いでしょう!? ついつい力が入ってしまったのですわ!」
目の前にいるのはカテシーナ様と、彼女お抱えのメゾンの女主人らしい。
興奮冷めやらぬカテシーナ様から、女主人を紹介されると彼女は茶色い大きな瞳を細めて挨拶してくれました。
「ヴィヴィエット様、お初にお目に掛かります。王都でメゾン・ド・カレムという店を商っております、タマラ・カレムと申します」
タマラさんはそう言うと、にっこりと微笑んで腰を落としドレスを摘みました。メゾン・ド・カレムというのは、王国の老舗メゾンではないですか? そんな有名なメゾンの女主人さんとしては、随分お若いようですけど。
「ヴィヴィエット様もメゾン・ド・カレムの事はご存じでしょう? 園遊会のドレスコードを『妖精』にしたけど、実際にドレスにしたらどうなるか心配だったのよね。だから、私の絵の衣装を実物のドレスに起して貰ったの。マダムタマラにね」
はあ、そう言う事ですか。確かに妖精の衣装って、舞台とかでは見ることはあっても、実際の社交の場とかでも見たことはありませんものね。
「そうなのですね。でも、それならば私が着なくてもカテシーナ様が着ても良かったのでは?」
「あらっ! それでは駄目よ。360度眺めるにはモデルに着て貰わないと。それも、イメージに合った方じゃなければね!」
カテシーナ様によると、ポスターにしたいと原画の使用許可を貰いに来たエレン殿下に、ならばドレスコードを妖精にしてくれれば良いと言ったらしいのです。
元々美しいモノや、可愛らしいモノが大好物のカテシーナ様は、あの絵を現実にしたいと夢に見ていたそうですわ。でも、実際にあの幻の花が咲くかも判らなかったので、ご自分の頭の中だけで想像していたのですって。それが、今年になって蕾が確認されて本当に園遊会が開催されるにあたり、現実味を帯びてきたところに殿下からの申し入れがあったそうです。
「で、この際私の要望を叶えてもらおうと、ドレスコードを妖精にして私の絵を実現しようと思ったの。こんな機会はもう二度とないから、エレンツィード殿下のお願いは快諾したってワケ」
興奮気味に話されるカテシーナ様に、マダムタマラがお茶を注ぐと私の斜め前にふんわりと腰を掛けました。
「実は、私もカテシーナ様の絵のファンでありますの。以前からハントルーク伯爵家には贔屓にして頂いておりましたけど、度々訪問させて頂くうちに素晴らしい絵画に目を奪われたのです。それは館内にある美しい少女や妖精の姿が描かれた物です。素敵な衣装に身を包んだ彼女らの美しさに、私は感動してカテシーナ様にお願いしたのですわ。『この絵の衣装を本物のドレスに仕立てたい』と」
うん、うんと頷くカテシーナ様。
「さすがに伯爵家のご令嬢を、デザイナーとして雇い入れるのは出来ません。カテシーナ様には格別のご配慮で、その権利を承諾して頂いておりますの」
うっとりとした表情で、先程試着した薄紫のドレスを撫でながら、マダムタマラが言いました。
「つまり、お二人は持ちつ持たれつの関係ですのね?」
多くの説明をすっ飛ばしてそう尋ねると、お二人は顔を見合わせてにっこりと微笑みました。
「「ええ。私達、美しいモノが大好きな同士ですの」」
声が揃いましたわよ?
「折角ですから、このドレスをショーウィンドウに大々的に飾りますわ。ポスターの妖精の衣装にインスパイアされたこのドレスですから、注文も沢山来るでしょう。さあ、忙しくなってよ。腕が鳴りますわねっ!」
マダムタマラがすくっと立ち上がると、大きなトランクに沢山のドレス達を仕舞い始めました。ああ、あんなに試着したのですわね……
「ヴィヴィエット様のドレスは、ぜひ当店にお任せくださいませ! 既にエレンツィード殿下から特注のご注文を賜っていますから!」
何ですと?
「そうですわ。私の特別デザインですから、ご期待くださいませ」
カテシーナ様が胸を張ってお答えになりましたわ。
……エレン殿下……貴方、何をなさっているのですか……?
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別話に出てくる「メゾン・ド・カレム」
こちらにも登場です。
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そろそろ何かが起きそうな気配がします。
次話エレン目線でお送りします。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




