27. 準備は周到にしないとね
短めです。
特大の園遊会開催ポスターが掲示されると、放課後はその話題一色になった。授業を終えた学生達が、掲示板の前に何層にも群がっている。
「ドレスコードが妖精って、普通の夜会用のドレスでは駄目ってことなのかしら?」
「それより問題なのは、必ずパートナーを伴うって処でしょ?」
ワイワイガヤガヤと賑やかな声の中、やはり話題になっているのは
『ドレスコードは妖精。必ずパートナーを伴って参加をすること』と、美しい飾り文字で書かれているこの一文についてだ。
園遊会は、花の開花状況によって正確な日程が決まるが、現在では多分二ヶ月後……位になるだろうという予想しかない。因みに十年前は、蕾の存在が確認されてから丁度二ヶ月後に開花した。気候の状況からもそうそう今回も外れる事は無さそうだ。
本格的な社交シーズンの前で、比較的落ち着いた時期に思いも寄らなかったイベントが発生したのだ。それも今までに無かったドレスコードに、女生徒達は一気にテンションが上がった様だった。幻想的で神秘的なポスターに描かれている美しい妖精達の姿に、自らの姿を重ね合わせたのかもしれない。
「早速ドレスを新調しなければいけませんわ! 早くしなければ間に合いませんわよね?」
「そうですわね。私は婚約者にエスコートして貰えばいいけど、衣装は相談しないといけませんわね? 反対属性の妖精になったら、縁起が悪いですもの」
頷き合う女生徒達の姿の向こうでは、腕組みをした男子生徒達が思案している。
「フリーの女子に早く申し込まないと、あぶれてしまうぞ?」
「これをきっかけに告白して、婚約迄持ち込みたいものだ」
盛り上がる女子達とは反対に、男子達はひそひそと相談している。そして、意中の女生徒が近くにいないか素早く周囲を見回していた。このチャンスをものにしない訳が無いのだから。
「殿下、掲示板の前は人だかりで一杯です。既に園遊会の話題で持ち切りですよ!」
校舎中の掲示板にポスターを貼っていた、ディレクとマーリンが生徒会室に戻って来た。ハインツとレインの組とは別に手分けをしていたが、生徒の反応を確認する為に暫く掲示板近くに控えていたのだ。
「そうか。それなら良かった。どんな感じだった?」
「そうですね、女子はドレスの事なんかを話していましたよ。妖精というキーワードにワクワクしていましたね。男子はやっぱりパートナーの心配でしょうかね。一部の男子には悲壮感さえ感じられましたから……他人事ではありませんけど」
会計係のマーリンが肩を竦める様にそう言うと、書記のディレクが目を丸くして彼を突っついた。
「マーリンには婚約者がいるだろう? パートナーの心配なんか不要だろう?」
「……僕の婚約者は5歳も年下なんだ。まだ社交デヴューもしていないし、夜の園遊会には来れないだろう?」
ディレクはああ、と手を打った。さすがに12歳の少女を夜の園遊会には誘えないか。
「じゃあ、どうする? 誰か女子を誘うか? でもそれも色々と面倒だな」
二人は顔を見合わせると、涼しい顔でいるエレンをチラリと見た。決まった婚約者がいないのは、目の前にいるこの男なのだから。
「僕には、ヴィヴィがいるからイイんだよ。でも、ジョイルがいなくなった今、変な奴らが寄って来ないとも限らないからな。手を打っておくか? 念の為に」
にっこりと微笑みながら物騒な事をいう王子に、その場にいた者全員が溜息を吐いた。
今、この場にヴィヴィエットがいないことに、ハインツは少しだけ安堵した。
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