22. 離れる二人
少し短いです。
「お嬢様、そろそろ通りますかねぇ」
キエラが、小さな双眼鏡を覗きながらそう言いました。
ダント伯爵家から辺境伯の領地まで行くには、王都から大街道を進んで馬車でも1週間程かかるらしいです。
城下町の外れ、街道沿いにある少し開けた丘の上で私は馬車から降りていました。
「そうね……」
辺境伯の騎士団に入団する為、ジョイル様は今朝早くに旅立つらしいです。
らしいですと言うのは、昨日エレン殿下からジョイル様の今後を聞いてから、大急ぎでキエラと情報収集したのです。
キエラからの報告によると、ジョイル様は昨日ハインツ様とレイン様に連れられて、ダント伯爵家に帰られたそうです。かなり遅くなって帰って来たようですけど、多分王宮でエレン殿下も含めて色々話し合っていたのではないかしら?
だって、辺境伯の騎士団なんてちょっとやそっとじゃ入団できないでしょ?
我が国の辺境騎士団は、バルバローゼン辺境伯の指揮の元、国内最強と言われる程の騎士団なんですよ? 近衛、第一、第二、第三騎士団という陛下を頂点とする騎士団と、国境付近を護るバルバローゼン辺境伯を大将軍と仰ぐ辺境騎士団は、国防の双璧と言われているのです。
そんな騎士団に入団なんて、強固なコネでも無ければ絶対に無理だと思うのですけど。
多分、エレンツィード殿下の口添えがあったのだと思います。確か、バルバローゼン辺境伯の奥方様は、陛下の妹君、つまりはエレン殿下の叔母上様のはずですもの。義理の叔父上様にお願いしたのではないかしら?
ジョイル様の醜聞は隠しようも無い事実ですし、その相手が公爵令嬢である私と男爵令嬢ですもの。学生とは言え、スキャンダルとしたらいいネタですからね。
本来であれば、ダント伯爵家から勘当されてしまうところでしょうけど、変に市井に堕としても噂が引くまでには時間も掛かるし、何よりも私に一番影響が出るかもしれませんわ。
婚約がダメになった公爵令嬢……って。
そんなダメージを軽減するべく、エレン殿下の口添えでジョイル様が王都を遠く離れ、5年という期間を置くことにしたのでは無いかしら。
「ああっ! お嬢様、あの馬車ではないですか!?」
キエラの声に顔を上げると、ああ確かに2台の馬車がやって来ました。そして馬車の周りには、騎乗する人影が数人見えますわ。
「いらしたわね」
私は近づいて来た馬車を見降ろしながら、感慨深くその様子を見ていました。
走って来た2台の馬車は、よく見れば1台はダント伯爵家の紋章があり、もう1台は王家の紋章が付いていて、更にその紋章はエレン殿下の御印である柊の文様で囲まれていますわ。
つまり、エレン殿下も見送りに来ているという事。騎乗して馬車に随行しているのは、ハインツ様とレイン様、そして殿下をお守りする為の近衛騎士が数名。
多分私に気付いたハインツ様辺りが馬車を停めて下さったのでしょう。ジョイル様を乗せたであろう伯爵家の馬車は、私のいる丘の下で停まりました。
そして、扉が開いて出て来た人影は……二人。
「ジョイル様と、エレン殿下……」
丘の下に立つジョイル様は、暫く私を見上げていました。栗色の髪が風にたなびき只何も言わず、私に近寄る事も無く立ち竦んでいる様に見えました。そして、私達は少しの間お互いを見詰め合い、彼は何も言わずにその場で深々と頭を下げました。
「ジョイル様……」
まるでその場に私とジョイル様しかいない錯覚を感じました。
そして、二人の間の7年間の色んな出来事が、はらはらとカードの様に舞い踊りました。
婚約式で会った時。初めてエレン殿下の誕生会に二人で行った時。私の為に白薔薇を摘んでくれた時……
確かに私達は色々な時間と、色々な風景を、色々な感情を共有していたはずなのに。
顔を上げたジョイル様に向かって、私は腰を落として微笑むと、カーテシーでお見送りをしました。
「さようなら、お元気で」
そう呟いて。
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さあ、学院に行きましょう。
園遊会の準備を進めないと……
楽しんで頂けたら嬉しいです。




