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12. 二人はどうなる?

「殿下。とにかくジョイルを探しましょう。万が一の事があったら大変です」


 ハインツ様が、エレン殿下に詰め寄られます。普段は冷静なハインツ様もさすがに慌てている様ですわね。


「……」


 エレン殿下は、こめかみに指を当てて目を瞑っています。この方の考え事をする時の癖でしょうか?


「殿下?」


 レインベルト様が呼び掛けると、エレン殿下はそのエメラルドの瞳を開きました。


「ヴィヴィ、君の情報に感謝する。ジョイルを探そう。ブランドル殿とアリアーヌ嬢が一緒なら、馬車で昨夜の内に屋敷を出ているだろう? 第一騎士団の市中警備隊に確認してくれ。夜中に王都から出て行った馬車が無いかどうか。朝方にジョイルらしき人間の目撃者がいるかどうかもな。伯爵家が動いているかもしれないが、大っぴらには動けないはずだからお前達の方が動けるだろう」


 そう言って、直ぐにバレン様をお呼びになりました。


「バレン。ジョイルを探してくれ。ハインツとレインに第一騎士団から5名ほど付けて捜索する様にしよう。直ぐに連絡してくれ」


 バレン様が頷くと、ハインツ様とレイン様が立ち上がりました。一刻も無駄にしたくないという事でしょう。


「それでは殿下。私達はジョイルを探します。情報が判り次第ご連絡はしますので、大人しくココにいて下さい。ヴィヴィエット嬢、殿下をお願いします。決して、自分で探そうなどと思われない様に。見張って下さい」


 ハインツ様は私にそう言い残すと、深々と礼を執って殿下の前から退席して行きましたわ。何でしょう。最後の一言は? 見張って下さいとはどういうことですの?


「殿下。信用されていませんのね?」


 ハインツ様の一言に、殿下の性格が垣間見れた感じですわ。この方、自分で動いてしまう人なのね?


「まあね。でも、今日は皆に任せるよ。僕が動けば人数も大掛かりになるし、それはジョイルの為にも本意じゃないからね」


 両手を膝の上で組んでにこやかにそう言う殿下に、胡散臭さが漂いますわ。この笑顔が本当に胡散臭いのですわ。


「殿下、因みにブランドル様とアリアーヌ様が、どこに行ったかお心当たりはございますの?」


 ジョイル様を探すのも、まずはお二人の行方が判らなければ見当の付けようも無いでしょう。


「君こそ見当が付いているんじゃないの? 僕はブランドル殿とアリアーヌ嬢が懇意だったのは知らなかったよ。女は怖いね? 一体彼女は何人の男と付き合っていたんだい? ヴィヴィなら調べているんでしょ? 教えてよ」


 全く。本当かしら? 無邪気な微笑みはMAX胡散臭いですわ。もしかして、私は試されているのかしら。でも、仮にも第二王子様に喧嘩を売っても、嘘をついても良い事は無いですわね。


「そうですわね。アリアーヌ様がお付き合いされていたのは、直近ではジョイル様とブランドル様、その他にも男爵のご子息とか、子爵家のご子息とか、第一騎士団の騎士見習いの方と、昨年まで学院にお勤めだった独身の先生と、それから---」


「もういいよ」


 エレン殿下は、またこめかみ辺りに指を添えると、私の言葉に被せる様にそう言いました。まだ最後まで言っていませんのにね。


「つまり、彼女はジョイルに本気では無かったって事か? しかし凄いな。たかが16歳くらいで」


 溜息と共に呟くと、今度は真面目な表情で私の顔を見詰めました。


「で、ヴィヴィ。君は二人がどこに向かったか判っているの? ジョイルがどこに向かうかも」


 アリアーヌ様が一筋縄でいかないとようやく判った殿下です。


「そうですね。王都住まいの裕福なブランドル様と、上昇志向の高いアリアーヌ様ですからね。手に手を取って寂れた田舎に隠れ住むなんて出来ませんでしょうね。かと言って、宿屋何て使っていたら直ぐに足が付きますわ。追手にも見つかる可能性は高いです」


 ここまで言えば、エレン殿下にはお判りになるのではなくって? 商会の息のかかっていない隠れ家なんて、簡単にブランドル様に用意できるかしら? 生粋のお坊ちゃまでしょ? 昨夜の今日で?


「つまり、ブランドル殿がアリアーヌ嬢を連れているのであれば、ブランドル殿に縁の有る場所しか無いか。そう言えばブランドル殿のご生母は子爵家出身だったな。確か、キーレン子爵家。キーレン子爵家は王都から少し離れた所に小さな領を持っていたな。随分昔に手柄を立てた折に褒美として渡したはずだが……」


 ほほう。そんな場所がありましたか。さすがに他家の小さな領の事までは判りませんでしたわ。てっきり、王都から随分離れた子爵領まで向かったと思いましたけど。そこそこ王都から離れたぐらいなら丁度良いかもしれませんわ。


「バレン。キーレン子爵家の領に、ブランドル殿のご生母が相続した所があるか調べてくれ。もしあるのなら、そこに屋敷があるかもだ。あればそこを目指した可能性が高いな。ご生母が相続したのなら、次の相続者はブランドル殿だろう」


 バレン様が一礼して部屋を出て行くと、エレン殿下は私に視線を寄越しました。


「ヴィヴィ。君の意見はどうかな?」


 そこで聞きますか? 


「殿下のご推察の通りかと。キーレン子爵家の飛び地の領の事は、私には判りませんもの。でも、確かに取り急ぎ向かうのならば、良い案件ですわね。遠すぎず、近すぎず。数代前に拝領した領の事など、所有者でなければ判りませんわね? まして他家に嫁いだ娘が相続して、その娘が亡くなって次の代に替わったら……婚家では知られていないかも知れませんわね。まあ、意図的に知らせないという手もありますものね」


 エレン殿下は私の答えを聞くと、これまたにっこりと微笑まれましたわ。多分、欲しかった答えだったようです。


 それから暫くして、バレン様が分厚い書籍を携えてお部屋に戻って来ました。


「殿下。キーレン子爵家の飛び地の領は、亡くなったブランドル殿のお母上が相続していました。ダンデル氏と結婚する前に相続していますので、子爵家の血を継ぐブランドル殿が相続者となります。領には元王家の所有であった別荘と鴨猟が出来る湿地があります」


 元王家の別荘とな。それは結構立派なのではなくって? まあ、随分昔の物だったとしても。鴨猟が出来る湿地帯っていったら、結構由緒ある場所でないかしら。そんな処をお持ちだったら、母君は絶対言わないわね? 折角の名誉の証が理不尽な扱いを受けそうですもの。


「そうか。そこが臭いな。ハインツとレインに伝えてくれ。もしかしたらジョイルがそこに向かうかもしれないからな」


「ブランドル殿と男爵令嬢は、如何致しますか?」


 殿下はチラリと目線を上げましたわ。


「別に。二人の事はどうでも良い。ジョイルを確保する。アイツが馬鹿な事をして、これ以上傷付かなければ良い。それだけだ」


 はっきりとそう言った殿下は、私にもそれで良いな。と暗に確認したみたいですわね。別に私としては、アリアーヌ様とブランドル様をどうにかしたいなんて()()()()考えていませんから。

 

 私と私の元婚約者に随分とやらかしてくれたことは、絶対忘れませんわ。ええ、一生。


「それじゃあ、後はジョイルの気持ちだな。それが一番厄介だけど」


 殿下は、ほんの少し眉を顰め、ほんの少し辛そうに口元を歪めました。


「……そう、ですわね……」


 私だって、そう思いますわ。









「そうだ。ヴィヴィ、もう一つ話があったんだよね? ええっと、昨日の返事って言ってたよね?」


 姿勢を正して、殿下が私を真っ直ぐ見詰めます。そうでした。肝心な事を言わないと。



「ええ。昨日のお返事ですけど、エレンツィード殿下は、私と婚約したい。と、おっしゃいましたわね?」




『ヴィヴィ、僕の婚約者になってくれるよね? 5歳の時からやり直そう』


 確かそう言いました。あの5歳の誕生日会からやり直そうという事でしたわね。

 一瞬流れのままに、私も返事をしそうになりましたけど、ちゃんとしたお返事はしていません。

 だって、


『ああ、でもとんだ悪役令嬢になっていたね?』


 なんて、失礼な事を笑顔で言い放っていましたから。








「エレンツィード殿下。私、お受けするとは言っていませんわよね?」


「はっ? ヴィヴィ?」


「ですから、婚約する。とはお返事していませんわよね?」


「いや、でもヴィヴィ? 了承したからキスさせてくれたんじゃないの?」


 それは違いますわ。


「あの時、5歳のあの時、殿下は何とおっしゃいました?」


「あっ。えーとっ……」


 殿下の顔が赤くなって、視線がきょろきょろとしていますわ。何て挙動不審。ちゃんと覚えているのですね。

 恥ずかしいのでしょ? でも、言って貰いますわよ?


「何て、おっしゃったのでしたっけ?」


「……チューして良い?……って、言った」


 ほっ! 言いましたわ。耳まで真っ赤ですわ!


「はい。()()は了承しました」


「う、そ! それっ!?」


「本当です」


「どうして!?」


 殿下がいきなり立ち上がると、私の隣に腰掛けました。綺麗なグリーンの瞳が間近に見えますわ。


「殿下。私、()()なんです。ですから、少し時間が欲しいのですわ。7年も婚約していて、結婚を1年後に控えていたのに、心変わりを理由に婚約破棄になったのですよ? 心を癒す時間が欲しいですわ。そう思って頂けません?」


 ()()。そう、傷心なんですの。ワ・タ・ク・シ。



「ヴィヴィが、傷心……?」







 ちっ! 殿下? ちょっと? 何か言いたい事があるのですか?



 


ブックマーク、誤字脱字報告、感想も

ありがとうございます。


はい。漸くヴィヴィとエレンの二人の

お話しになりました。


エレンは婚約迄いけるのか?

いけないのか?


楽しんで頂けたら嬉しいです。


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