弁天堂美咲と幻獣《ミスティカルビースト》 06
「それは、二角獣だな」
「二角獣? 何ですかそれは?」
困った時は迷斎さん――とばかりに、今日見た怪物について尋ねると、間髪入れずに迷斎さんは教えてくれました。
「ライオンの尾に、馬の顔。二本角と言えば、間違いなく二角獣しかいない。それにしても、二角獣とは珍しいものを見たな」
「その――、二角獣ってどんな怪物なんですか?」
「そうだな――。一角獣が清純を好むように、二角獣は不純を好む。つまりは、身も心も不純に満ちた人間の前に現れると言われている」
「不純? 西園寺さんが不純だってことですか?」
西園寺さんのことは良く知らないですが、不純と呼ばれるほど悪い人には私は思えない。
しかし、そんな私が無知で愚かな人間だと言うことを、迷斎さんは突き付けてきました。
西園寺さんが中学生だった頃、林田さんだった時のことです。
『荒馬のリンダ』の異名は伊達ではなく、夜遊びに男遊び、大抵の悪いことはすべてこなしてきたそうで、家庭内暴力も絶えなかったようです。
「まあ、それは過去に対する反動なのだかな」
「反動? どういうことですか?」
「彼女の父親は、中学一年生の時に亡くなっているのだが、生前は家庭内暴力がひどかったようで、何度も病院に通っていたようだ」
しかし、問題はそれだけではなかったのです。彼女が小学校三学生になった頃、事件は起きました。
当時から発育の良かったようで、父親はそんな彼女の貞操を奪ってそうです。それも、母親の見ている前で――。
しかし、父親の暴力を恐れて、母親はとめることも守ることもしてくれなかったようで、ついには小学五年生の時、父親の子供を妊娠してしまいました。
もちろん、望んで授かった命ではなかったため、中絶しか道はありませんでした。
そして、父親と死別してからは、それまで守ってくれなかった母親への反発から非行へと走ったのでした。
「近親相姦――。中絶――。キリスト教では、大罪とされるタブーのオンパレード」
「西園寺さんに、そんな過去があったなんて……」
「本人が望む、望まずに関わらず、純粋でいることは難しい。人の世とは、それほどまでに汚れ切っていると言っても過言ではない」
迷斎さんの独自の解釈からすると、この世界は不純で出来ている――つまりは、西園寺さんが被害者であると言っているようで、私はどこか違和感を感じます。
だってそうでしょう。例えこの世界が汚れていようとも、自分が不純にならないように、律することができる心――、つまりは理性が人間には備わっています。
だから、私には西園寺さんが被害者とは、どうしても思えないのです。
「弁天堂。お前の考えていることが、間違っているとは言わない。しかし、人間はお前の思っているほど、強くはない。弱い生き物だ。見た目が強そうな者ほど、内面の弱さを隠すための鎧であったりする。その西園寺も、例外なくその類いであろう」
「私の心が読めるのですか?」
「顔に、はっきりと書いてある」
咄嗟に、顔を拭く動作をしてしまいました。
「それにしても、不思議なのですが――」
「西園寺が、中学時代と今とでは、性格が違うことに対してか?」
「ええ、そうです。過去のことがあって、暴力的だったことは解りましたが、高校に入ると同時に目立ない性格に変わったのはなぜでしょうか?」
迷斎さんは、三日月の様に口角を上げ、薄気味笑みを浮かべこう言いました。
「それはそうだろう? 二角獣に、なぜ二本の角が生えていると思う? それは、二面性を表しているからだよ」




