第29話 永遠の乙女
とりあえずの自己紹介が終わった。
この馬車には、エーリスたち三人と、荷物が積み込まれているだけで、トウマも、ゼルディックたちも乗っていなかった。
けれどガタゴトと馬車は進んでいる。
まぁゼルディックたちがいないのは別にいいが、トウマがいないのはエーリスとしては大問題だ。
「トウマくんたちは、どこにいるんですか?」
いまだに抱きついてるサツキに素直に聞けば、
「およ、気になる? もしかしてエーリスはあーいうタイプが好みな感じなの?」
「いえ全然。ただ、トウマくんがいないと、私が真面目に働かなきゃなんで、凄く困るんですよね」
「……」
サツキは目を開いて驚くが、またギュッと力を込めて頬を寄せてくる。
「やっぱり面白いね。それってサボリますって事でしょ。普通は言わないよ。なんだ、ルーナと同じかと思ったのに、それは残念」
「ちょ、サツキさん、やめてくださいよ! 私は別に……」
「え? ルーナさんは、あんな目隠れ陰キャが好みなんですか?」
まさかの反応に、驚いてエーリスがルーナを見るが、よくわからないと首を傾げていた。
「メカクレインキャってなんですか?」
そこにサツキが二人にフォローを入れた。
「違う違う。ルーナが気にしてるのは別の人だよ。それとエーリスの言葉は、向こうの世界の物ね、まぁ意味は属性みたいなもんよ」
「属性? ですか? それでスケアクロウさんはそのメカクレインキャになるんですね」
なるほどな、と頷いてるルーナを横に、エーリスはサツキに「で?」と話を戻した。
「あぁ、馬車は二つ借りたんだよ。今回は人数が多いからね。それで男女に分けて移動してるの。ちなみに、ルーナが気にしてる人は私たちのリーダー、シンドレットくんだから、取っちゃダメだよ」
「な! なに言ってるんですか、サツキさん! ち、ちちち、違いますよ、ノクターナルさん! 私は別にですからね。絶対に絶対に、勘違いしないでください!」
サツキの軽口に、ルーナが慌てて突っ込んでくる。
ガッチリ拘束されてるエーリスは身動き出来ずに、真に迫る言い訳をコクコクと頷く事しか出来なかった。
「わかってくれればいいんです。でも、くれぐれも変な事を広めたりはしないでくださいね」
張り付いたような笑みを残して、ルーナはまた仔猫の相手に戻った。
ここで変な事を言えば、命がない、そんな事を思わせる程にルーナの迫力は怖かった。
「こ、怖いよ、サツキ」
エーリス自らサツキに抱きつけば、
「ごめんね、エーリス。でもこれは、通過儀礼みたいな物なのよ。うちのパーティーで踏んじゃいけない地雷を知る為のね」
「えー、あの態度なんですよ、バレバレじゃないですか」
サツキは神妙な顔をして、首を横に振った。
「それがシンドレットくん、ラノベの主人公みたいに設定もりもりなんだけど、良くも悪くもラノベの主人公なんだよね」
そんな説明に、エーリスは納得してしまった。
「それは、大変ですね」
ただ出てきた感想は完全な他人事だけど。
「そうだよ、大変なんだからね。もう、口を出したくてウズウズするんだから」
(あー、二人の関係を茶化す系ですか……でも、ラノベ主人公とか言うくらいって事は……)
「えっと、もしかしてハーレム系です? っていう事はもしかしてサツキも――」
そこでいきなり口を塞がれた。
「にゃ、にゃにを言ってるのかな、エーリス。そんな事ないよ?」
エーリスが黙って疑いの眼差しで見れば、サツキはあからさまに話を変える。
「そ、それよりも、この馬車の目的地の話をしようじゃないか、ね? なんか、エーリスは知らないって、ゼルディックが疲れた顔して『この娘は予想の斜め上をいく娘だ』みたいな事を言ってたよ」
「……前から思ってたんですけど、それって褒めてるんですかね?」
「褒めてると言えば、そうなんじゃないかな……予想の上にいってるんだから……?」
二人で頭を傾げれば、
「……回復魔法が必要ですか? 流石にそれを褒める言葉と取るのは、ちょっと頭が残念になってると思いますから」
ルーナから辛辣な言葉が飛んできた。
「ふふ、冗談ですよ」
言葉とは裏腹に目は笑ってなかった。
「ほ、ほら、エーリスが余計な事を言うから〜」
「うぅ、ごめんなさい、サツキ」
エーリスたちは身を震わせて抱き合った。
「まさかサツキさんまでとは……良いんですよ、別に。確かにシンさまは魅力的な人です。他にもいっぱい素敵な女性が狙ってるんですもの。でも、まさかこんな身近にライバルがいるなんて……」
なんてルーナは一人でブツブツと言いながら仔猫の腹を撫でる。サツキはサツキで、黙ってルーナの独り言に何度も首を縦に振っていた。
(……まぁ、冒険者は命がかかってるからね。そりゃ子孫を残そうと性欲魔神にもなるか)
なんとなく見当違いな事を考えるエーリス。
「苦労してるんだね」
そんな何気ない言葉に、「うん」「はい」と二人は同時に頷いた。
なんか可哀想になってきて、エーリスは意を決して真顔になる。
「わかった。なら、今日はとことんそのシンドレットさんについて語ろう! 大丈夫、私は絶対にシンドレットさんを好きにならないから!」
バッとサツキに抱きつきながら、自分の左腕、その銀の腕輪を天に掲げる。
「だって私はエトランジュだから! それも永遠の乙女たる吸血鬼! 私は人に恋をしないわ」
「エーリス!」
サツキが強く抱きついてくる。
「ノクターナルさん……」
躊躇うルーナに、エーリスは片方の腕を広げて見せる。
「エーリスさん!」
ルーナがエーリスの腕に飛び込み、三人で抱き合った。
三人の心は今、一つになったのだ。
「ニャー」
仔猫がバカやってないで話を進めろと鳴いた。




