表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今世では恋を諦めた伯爵令嬢ですが、前世の夫が今世で執着してきます  作者: 陽ノ下 咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

番外編・大切な護衛騎士の話③(フィオナ姫視点)

 エドガーなら、きっとセシリアを幸せにしてくれる。

 そう思えたのは、ほんの直感だったのかもしれない。

 けれどフィオナにとっては、それで十分だった。


 そう思ったからこそ、フィオナは迷いなくヴァルモンド伯爵へ、縁談の話を持ち込んだのだった。



 そして、


「フィオナ様っ!一体どういう事ですか!」


 伯爵からセシリアに話が伝わったその日のうちに、セシリアはフィオナのもとに訪れた。


(本当に真っ直ぐね)


 そういうところも気に入っているけれど、その勢いに少し笑えてしまった。

 どうせなら、この機会を最大限に活かそうと、フィオナは考えた。

 ちょうどこの後、兄レオナルドとエドガーとのお茶会が予定されている。


(せっかくなら、会わせてしまいましょう)


 そう思ったのは、半分は善意、そして半分は好奇心だった。


 そしてもう一つ。

 この機会に、以前からやってみたいと思っていたことも、実行することにした。


「じゃあ、ちょっと付き合いなさい」

「……へ?」


 セシリアがとても珍しく、間の抜けた声でぽかんとした表情を浮かべる。

 その姿があまりにも可愛く思えて、思わず笑ってしまいそうになった。


 その後は、もう嵐のようだった。

 メイドたちに連れ去られていくセシリアを見送りながら、フィオナは満足げに頷く。


(さて、どうなるかしら)


 しばらくして、再び姿を現したセシリアを見て、フィオナは思わず息を呑んだ。


 薄桃色のドレスに身を包み、丁寧に整えられた髪。

 控えめながらも品のある装飾が、その美しさをより引き立てている。


(いい仕事をしたわ)


 内心で満足しながら、にこりと微笑む。


「素敵ね、セシリア」


 そう言うと、どこか落ち着かない様子で戸惑う姿が、また愛らしい。


「あなた、綺麗なんだから、普段からそういう格好もすれば良いのに」

「……ありがとうございます、フィオナ様。ですが、この格好では……いざという時に姫をお守りできませんから」


 即座に返ってきたその言葉に、思わず苦笑し、言った。


「もう、真面目なんだから」


 だが、そんなところも含めて彼女なのだと思った。

 そのまま庭園へと向かい、ガゼボへと足を運ぶ。

 そこにはすでに、レオナルドとエドガーの姿があった。

 そしてセシリアの姿を見た瞬間の、エドガーの反応は、フィオナの予想の斜め上をいくものだった。


(あそこまでの執着は、予想外だったわね)


 普段の彼からは想像もできないほど、露骨に表情が動いた。

 視線はセシリアに釘付けになり、言葉もわずかに遅れる。

 それでいて、取り繕おうともせず、レオナルドや、女のフィオナにまで露骨に嫉妬してくる始末で。


 あそこまで分かりやすく感情を表に出すエドガーの姿など、初めて見た。


「……お兄様、あれは本当にエドガーなのですか?」

「ああ。丁度、私も同じことを思っていたところだ」


 エドガーとセシリアが庭園に向かった後、レオナルドと二人でそんなことを言い合い、笑いが漏れた。


(本気なのね)


 あの男が、あそこまで変わってしまうほどに。

 そう思うと、とても嬉しい気持ちになった。



 そして、変わったのは、エドガーだけではなかった。


 セシリアもまた、少しずつ変わっていった。

 エドガーに振り回されるたび、呆れつつも、ふとした時の表情がほんの少し柔らかくなり、言葉に余裕が生まれた様に感じた。


(……良い変化だわ)


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 あの、どこか張り詰めていた空気が、少しずつほどけていくのが分かった。

 だからフィオナは思った。


(これからも、ちゃんと後押ししてあげないと)


 大切な護衛騎士のために、できることなら何でもしてあげたいと、そう思った。




 そして、ある時、気が付いたのだ。


「……あれ?」


 セシリアと顔を合わせたその瞬間、その違和感に、思わず目を細める。


(……なくなってる)


 あの、危機迫るような必死さが、何かに追われるような、張り詰めた空気が、綺麗に消えていた。


 そこにあったのは、穏やかで、落ち着いた気配。

 まるで、長い間抱えていた何かを、ようやく手放せたかのような、そんな空気を纏っていた。


 そして、その変化の理由も、すぐに理解した。


「……そう、結婚することに決めたのね。おめでとう、セシリア」


 セシリアから、エドガーの求婚を正式に受けたと聞いた時、フィオナは静かに息を吐いた。


「良かった……」


 胸の奥に広がるのは、安堵と心からの、喜びだった。

 セシリアが、自ら選んだ未来が、幸せへと繋がっているのなら、これ以上のことはない。


 その時、フィオナの頭にふと何かが過った。


 それは遠い遠い、はるか昔。

 あの日も自分は、ただ一心に彼女の幸せを願っていた。

 けれど、結局彼女の幸せな姿を見ることは叶わなず、それが、とても心残りだった。


 何故か分からないけれど、ふと、そんな気がした。

 

 そしてフィオナは願う。


 私の大切な護衛騎士が、これから先の人生は、ずっと幸せでありますように、と。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ