2-15 『ゴメン』で済んだら
昼食にコレだけ美味しいモノを食べるなら、小遣いが月ウン万円でもオカシクナイね。
なんて事を考えながら、生まれて初めての。いや、新しい人生初の学食スイーツを食べ、この上ない満足感に浸っていた。
「頭を強打した事で記憶の一部が欠如した、という事にしてある。」
そうなんですか、大変ですね。モグモグ。
「本当に智か?」
豪の呟きを聞き、勝と愛がジィっと見つめた。
「荏原学問所中等部一年、佐藤智十三歳です。」
ニッコリ。
「一年、意識が戻らなかったからな。」
勝がポツリ。
「別人になってもオカシクないか。」
豪もポツリ。
「で、これからドウするの。」
愛がコテンと首を傾げた。
佐藤家 本屋は現在、大荒れに荒れている。住人全員、家事能力ゼロ。豪と愛が頑張っているが、思うように出来ずイライラ。
思い悩んだ末、兄妹は『週に三日ほどで良いから、智に家事を頼もう』と考えた。
勝が呼ばれたのは、智には手も口も出さなかったから。
花丸を助けようとした智を羽交い絞めにし、ズルズルと引き離したのだから勝も敵だ。
智の苦しみを知った幸子とジョンは、稔たち五人を許す気は無い。
「花丸の事、すまなかった。」
豪と勝が頭を下げる。
「虐めてゴメンなさぁい。」
愛がペコリと頭を下げた。
花丸は智くん、飼い主と共に虹の橋を渡り、地獄で裁判を受けている。そう、浦見サマが仰った。
寿命が残っているから戻るよう、一年も説得されたのに拒否した君の気持ち、とても良く解るよ。
新しい人生を歩む事になったケド、私たちを殺したヤツらの事、今でも許せないもん。
逮捕されて捜査が進んで、不正とか横領とか裏金とか、他にもイロイロ見つかってタイヘンらしいね。
「『ゴメン』で済んだら警察など要らん。」
本当その通りだよ、鈴木先生。
埼玉県春日部市『鈴木医院』院長、鈴木 旦。勤務医、鈴木 秀人。同じく春日部市『さくら小児科医院』院長、鈴木 英恵。勤務医、佐倉賢人。同じく春日部市『粕壁総合病院』勤務医、鈴木 優人。
五人の医者が鈴木家の問題児、和人に良く言っていた。
私いつも『あの狸親父、また何かしたのかな』って軽く流してたんだ。
でもアレ、何かを揉み消すための資金が足りず、愛犬と戯れる長女の姿を見せて和ませてから、借金を申し込んでいたんだね。
「エッ。」
まただ。智の横に犬が、大型犬が見える。
「ヒッ。」
花丸って柴だよね。耳、垂れてんだけど。
「なぜ。」
どう見ても別犬なんだが。
この三人も『謝ったんだから許せよ』って、そう思ってるんだ。
バカにしてんの? 許すワケないじゃん。狙いは何、望みは何。
智くんは同居家族から日常的に虐待を受けて、目の前で花丸を撲殺されて笑えなくなった。
本当、他人事だと思えない。
人生サヨナラした防音室、元はピアノ室だよね。智くんを折檻するためダケに、わざわざ他の部屋に移動させた。違う?
あぁっ、もう嫌。コイツらの顔なんて見たくない。どうせ私に家事させる気でしょう、フンッ。お断りよ!




