2-16 膃肭臍オヤジ
グビッと紅茶を飲み干し、カップをソーサーにソッと戻す。それから『わんこイン』公式サイトでしか購入できない、数量限定『がま口財布』を開いた。
三つ折りされた五千円札を伸ばし、ニコリ。
「釣銭は結構です。受領証にサイン、お願いします。」
ニッコォ。
がま口財布は大・中・小の三種類あり、智の愛用品は中サイズの柴わんこ。幸子の愛用品も中サイズで、ゴールデンわんこ。
『わんこイン』の財布には紐の通し口が二つあり、首から提げられるようになっている。
小は小銭入れ。中は『がまインがま』で、パスケースが入る大きさ。大は札を折らずに入れられる長財布。
左下にワンコの刺繍が入っており、愛犬家のハートを鷲掴みにして大ヒット。
智は『インがま』に小銭、手前に二つ折りにした受領書など、奥に一枚づつ三つ折りにした札を入れていた。
幸子は『インがま』に三つ折りにした札、手前にパスケース、奥に小サイズの小銭入れを入れていた。
もちろん二つとも、『ゴールデンわんこ』である。
「受け取れないよ。」
「いいえ、勝さん。僕、自分で支払えます。」
キリッ。
「・・・・・・分かった。」
ヌンと乗り出したジョンに圧倒され、受領書にサインして戻す。
「確かに。」
スッと席を立ち、トコトコ退出。扉が静かに閉じた時、予鈴が鳴った。
「戻るか。」
「そうだね。」
豪と勝が呟く。
「あの財布、可愛い。」
「エッ。」
愛の一言に驚き、パチクリ。
『わんこイン』は佐藤優子、智が合同開発したキャラクター商品。
趣味の延長で製作したので、公式サイトでしか購入できない数量限定品にした。通し番号が入っているので複製不可。
刺繍は機械ではなく手作業、本革製なので高額だが長く使える。
花丸を失い、笑えなくなった智を元気づけようと合同開発を持ちかけたのが始まり。犬の種類はモチロン、入っている器も椀や風呂桶、乳母車など様様。
出資したのは智だが、協賛企業として佐藤商事が参加している。
「兄さん。前から気になってたんだけど、あの商品の権利者。『ダブルS』って誰だろう。」
「正月、酔った膃肭臍オヤジが『会長案件だ』って言ってたから、お爺さましか知らないんじゃナイか。」
「豪兄さま、ひっどぉい。」
「愛、その言い方は止めなさい。」
「勝兄さま、こっわぁい。」
「ハァ。」
溜息を吐く兄弟。
「何よっ。」
午後の授業を受け、帰宅した兄妹は鞄を落とす。
荏原学問所に寮は無く実家、若しくは親族宅からの通学しか認められてイナイ。因って、本気で海外留学を考え始めた。
現実逃避するのは当然だ。今朝も散らかっていたが、ココまで酷くはナカッタ。
『ゴミ屋敷』という単語が浮かび、二人は思わず頭を抱える。
「兄さま! 今すぐ何とかして。」
「いや、ムリ。」




