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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第零話:プロローグ

書くべきことは多分あらすじで書いた気がする。



 あなたは何か望むものはありますか?

 富?名声?才能?それとも自分に都合のいい世界への転移とか?

 俺はそのどれも望まない、或いは望めない。

 自己紹介がまだだった、俺の名前は伊勢 優(いせ ゆう )ただの()()()()()()だ。

 俺は何も望まない。もっとも人生で一度も何かを望んだことが無い訳じゃない。子どもの頃は望みはあった。それは将来の夢だったりといったものだ。

 しかし俺はいつしか何かを望むということを自分ができなくなっていることに気づいたのだ。

 これを聞いてこう思う人もいるだろう「何も望まずに生きていけるのか?」と、結論は言わずもがな俺が生きていけているのだから、もちろん生きていける。




 家が貧乏ではなかった。家族仲は良かった。いじめを受けたことも無かった。学校の授業についていけないことも無かった。法を犯して捕まることも無かった。これまでに大きなけがや病気も無かった。

 どこかの誰かから見たら俺は十分恵まれているのだろう。そんなことはわかっていた。しかし、俺はこれまで約16年間生きてきて自分の人生が幸せだと思えたことは一度もなかった。

 別にわくわくするような冒険や、どきどきするような恋愛や、誰かに尊敬されるような特別な才能がなかったからではない、もっともそんなことがある奴ならこんなことは考えないのだろうが。

 それでも子どもの頃は俺も夢というものを持っていて、その実現を欲していた。今となってはもちろん夢など持っているはずはない、望まない人間は将来こうなりたいと望むことは無い。だから望まない人間は将来の夢などあるわけが無いのだ。

 ありがたいことに俺の人生は平凡で、上り坂も下り坂も無い平坦な道を進むようなものになった。恐らくそのせいで俺は望むことができなくなったのだと思う。

 世の中には自分の人生を努力すればより良く変えられると考えている人間もいる。

 だが、努力というのは何かを望む人間しか持たないことだ。だから望まない人間は努力というものが本当の意味ではありはしないのだ。

 本当に望みがない人間は食事を望まないから飢え死にする。そう思う人もいるだろう。

 確かにそうかもしれない。

 なら、今だ生きている俺はまだ望みのある人間だろうか?

 それはどうだろうか、動物が食事をすることは人間が望むことと同じだろうか?それは違う。食事とは人間含めて動物の本能であって、俺の言う望みではないからだ。

 もちろんより珍しいとかより高価な食べ物を人が欲することは望むことだろう。だが俺はそんなことは無い、食欲を満たせてそこそこの栄養があってまずまずの味さえあればいいのだ。

 食欲と同様に睡眠欲だとかもそうだ。

 より正確に言うと、俺は人間に生まれながら人間らしい望みというものが無かった。

 きっと死ぬまで俺はそうなのだろうと思う。

 よく人生というものを物語で例える人が居る。

 そんな風に例えると、望まない人間の人生は悲劇的なこともなければ喜劇的なこともない物語だろう。

 ただ、恐らくその物語自体は悲劇なのだろう。

 



 そんな俺が今何をしているのかって?

 本当に望みの無い人間は何かをすることを望まないから、何かをしているのはおかしい?さあ、ひょっとしたらそうなのかもしれないな。実際に俺は深夜に家の近所をふらふらしているのだから。

 これでも最初はコンビニで何か買うつもりで家を出たはずだったのだ、だがそれを買った後不意に懐かしさが湧いてきて近所の公園まで歩いてきたんだ。

 懐かしい公園、小学生の時は同じく小学生の友人とここでよく遊んだものだ。その友人の名前すら今となってははっきりしないが。

 ブランコに座って、コンビニで買った清涼飲料水とお菓子を確認する。見たところで何も変わらないのだが少し食べてみることにする。

「どうして、俺は望みが無いんだろう?」

 コンビニで買ったお菓子をつまみながらブランコに座って呟いた。

 暗い空で雷雲がゴロゴロと音を立てている。たしか家を出た時に確認した天気予報は雨、所々で雷雨。

 けれども家を出てから今まで雨が降りそうな気配は無かったし実際雨は降っていない。

「そろそろ、帰ろうかな。あんまり気が進まないけど」  

 俺が外に行った原因、それは家族とちょっとした言い争いになって居心地が悪くなったからだ。

「別にここにいてもやることないしな。それにもう眠くなってきたし」

 望まない人間は夢中になれる趣味というものは無い。休日の夜などやることが無いのでいつも日付が変わる前には寝る。

 俺は目を閉じ大きく伸びをしてブランコから立ち上がる。

 この時の俺は知ることは無かった、()()()()()()が本当は()()()()()()だったということに。 




 閉じた目を開く、その一瞬で視界が大きく変わった。暗闇、どこまでも続く暗闇があたりを包んでいた

 「あれ、さっきまで公園にいたはずなのに」

 そこはおかしな場所だった。一言で言うと暗闇なのだが夜の闇とは全く違う。

 どっちが上でどっちが下だという感覚が無い、それどころか俺は横になっているのか立っているのかすら定かではなかった。

「ここは?」

 あまりの出来事に逆に冷静になってしまう。明らかにさっきまでいた公園とは違う場所、それどころかこの世のものとは思えないような感覚。寒くも暑くもない、それどころか体がおかしくなっていたのか体が何かに触れているという感覚がしない。

「なんだ、これ」

 体が押しつぶされるような圧迫感、そしてそれと同時に内側から体が引き裂かれるような痛みが目を開くことに少し遅れて襲ってきた。

 これまでの、といっても16年程度の人生の中でまるで感じたことのない苦痛から、頭が死というものを意識してしまう。

 異様な不快感に意識を失ってしまうのではないかと思ったが、不思議なことに意識はしっかりしていた。

「お目覚めかな、気分は最悪だろう」

 幻聴、死を意識した時に見るという走馬灯のようなものの一種で、このあまりに異常な状態に体の機能が誤作動を起こしてしまったのかと最初はそう思った。

 しかし意識は鮮明であったのだ。確かな意識で声のしたほうを見上げた。

 少女、第一印象はまさにそれだけだった。しかし普通の子ども、というよりまるで人間でないかのような存在感を持っていた。

 七色に光り輝くような髪、澄んだ秋の空気の夜が見せる星空のような瞳、それだけで圧倒的な存在感と美しさ、そして得体のしれない恐ろしさを放っていた。

「やあ、わたしの名はアドミニー、君のいた世界を管理しているものだ。さて、そんなことより君にはこの世界は辛いだろう」

 そう言って、この上も下もわからない暗闇に()()少女はその小さな手から光を放つ球体をこちらに向けて放った。

 その球体はまるで蛍のように不思議な暗闇の世界を照らしながらゆらゆらと不規則な軌道を描きながらゆっくりとこちらに飛んできた。

 意味の分からない状況だったが。激痛を受け悶えている人間にはどうすることもできず、その光の球体をもろに背中に受けた。

 その光は背中を貫通して消えた、痛みはなかった、むしろこれまで体を支配してきた痛みが瞬く間に取り払われていく。

「さて、気分はどうかな?」

 光の無い暗闇の世界で一人たたずむ少女は呟く。疑問形であったが、その言葉は俺に向けられたものというよりは、一つの作業工程が終わったというような淡々とした様子だった。

「ここは一体どこなんだ?俺はさっきまで近所の公園のブランコに座っていたはずだよな」

 言葉を考えるより先に口が動いていた。しかし、その問いの返答がすぐに帰ってくることはなかった。

「お前は一体何なんだ?」

 状況が非現実的すぎて理解が追い付かない、頭の中の疑問符が氾濫していたがそれが口元で詰まり、上手く吐き出せない。

 その言葉の詰まりが意図せず重い静寂を作り出した。

 俺がその少女の返答を期待してみて、反対に少女の方からもこちらを見ている。

 数十秒の静寂の後七色の髪の少女が話始める。

「落ち着いたようだね」

 そう言うと少女はその小さい手を小さく上げた。 

 するとその瞬間に暗闇の世界に巨大な光輝く椅子が出現する。 

 一瞬の出来事に目を擦りたくなるが、驚くべきことはそれだけではなかった。その椅子にはついさっきまでごく近くで立っていたはずの少女が座していたのだ。

「ようこそ。ここはわたしの世界、君は君たちの世界でいうところの死というものを経てここに来た。つまり君は死んだってことだ」

 衝撃的な発言が耳に飛び込んできた。俺が死んだとはどういうことだろうか、ここが死後の世界だとでもいうのだろうか。

「面白い夢だな。ここまで鮮明な夢は初めて見た」

 普通に考えてこんなことはあるはずが無い。さっきまで公園にいた記憶は確かだが、あの後寝てしまってそれで今夢を見ているんだろうか。

 やけに痛みの感覚がリアルでやけに鮮明に見えるがこんなことはあるはずないのだから。

「夢か。そう思ってもらってもわたしは構わないよ。すぐに理解できるほど君たち人間の理解力は高くないしね」

「変な言い方だな。まるで自分が人間じゃないみたいだ。いったいあんた何者なんだ?」

「わたしは君たちの世界でいうところの神だよ」

「面白い冗談だ。神様が俺の夢に出てくるのか、これまで見たことない夢だな」

 半信半疑だった、そもそも夢というものはその日の記憶を整理している時に見ると聞いたことがある。つまり一度も見たことが無いものは夢に現れないはずだ。

 俺は目の前の少女を一度でも見たという覚えは無かった。それとも記憶のかけらを集めて目の前の少女をパッチワークのように俺は作り上げたのだろうか。

「君が気になっていることを教えてやろう。君は今までわたしに会ったことは一度もない、より正確に言うと君の人生で一度も会うことは無い」

「人生で一度も?それはおかしいな今会ってるじゃないか」

「鈍いな、人生で一度も会えないのに今会っている。それはどういうことだと思う?」

 《人生で一度も会えない〉ということはその対偶《会っているということは人生ではない》ということだろうか。

「俺の人生が終わったからとでも言いたげだな。信じられると思うかそんなこと」

 根拠はあった、今こうして話をしているのに死んでいるなんてことがあるはずはない。

 だが、もしここが死後の世界で目の前の少女が神だというのであればこの状況にも説明がつく気がする。

「信じなくてもいい、その時は君が見ず知らずの少女が神を名乗るなんていう夢をみる人間というだけだ」

 目の前の少女が言うことが夢であろうが現実であろうが誰が信じるだろうか、到底無理な話である。

 しかし、こんなにもあり得ないことが起こっている現状を考慮すると信じざるを得ないのかもしれない。

 少なくとも自分の頭がおかしくなったと思うよりはその方が良い気がする。

「信じる気になったかな」

「信じなくてもいいんじゃなかったのか」

「そうだね。さて、あまり無駄に時間を使うのは趣味ではないんだ。悪いが本題に移らせてもらうよ。一度死んだ君をここに蘇らせた理由についての話だ」

「理由?」

 もし仮に目の前の存在が神であるなら死んだ人間の命を蘇らせることができてもおかしくはないのだろう。だが、わざわざ蘇らせたというのならそれはどんな理由なのだろう。

 そう疑問を抱いた矢先に七色の髪の少女は言葉を続けた。

「君には君のいた世界とは別の世界に行ってもらいたい。そこで二度目の人生を送るんだ」

「別の世界。仏教の輪廻転生みたいなものか?」

 死んだ人間は現世での行いによって別の命に生まれ変わるということだろうか。

「そう思ってもらっていいが少し違う。君は生まれ変わるわけじゃない。若くして死んだ君の人生は短いものだった。だから、君は死んだ瞬間のその姿と記憶を引き継いで人生をやり直すのさ」

「やり直す、別の世界で」 

 本当に突拍子のないことを言うと思った。だが、その少女だか神だかの話に興味を引かれている自分がいた。だが、疑問もあった。

「俺以外にも若くして死んでいくやつなんて大勢いるだろ、そいつら全員その世界に送られているのか?」

 当然の疑問だった。しかし、答えはあっけなくすぐ帰ってきた。

「そんなことはないさ、君が選ばれたのはただの運だよ。いや、運というよりわたしが君を気に入ったからかな」

「気に入った?なんで俺を、あんたが神だって言うなら。俺は神を崇めるようなことはしていないのに」

「そうだな、望まない人間は自分が死んだあと良くなろうと望むこともない。だから、神が居ようといまいと崇めることは無い。そうだろ?」

「すごいな、何でもお見通しってわけか、神を名乗るだけはある。それでそれが何だっていうんだ?」

「わたしは憐れんでいるのさ、何も望むことができない君をね」

「意外だな、神を名乗る割に人を憐れむなんて」

「君たちにわたし達の事は図れんよ。ところで、受け入れられたかな、自分が死んで生き返ったことを?」

「そうだな、結局これが夢だろうが夢じゃなかろうが関係ないしな。ところでその別の世界ってのはどんな場所なんだ?」

「望まない君がそんなことを聞くとは意外だな、したいことでも思い浮かんだのかな?」

「別に思い浮かばないさ。ただ、別の世界ってのがどんなものか少し興味があるだけだ」

「心配するな、君の元居た世界と少し違うだけだ」

「そうか」

「もう聞くことは無いか?今からその世界に君を送る扉を開けようと思うのだが」

「別に聞けなくてもいいかな。俺は説明書は読まないタイプだからな」

「そういうと思ったよ、望まない君はたとえ世界が変わったとしてもそこで何かをすることは望んでないだろ?」

「そうかもな、だが俺だって別の世界なんて言ったことは無いからな、ひょっとすると昔みたいに俺も望めるようになるかもしれないぜ」

 俺の中で何かが変わるような予感がした、この予感は子どもの頃の自分が抱いたような未来に対する根拠のない期待を彷彿とさせる。

「確かにな、少なくとも元居た世界と違って君を望むものがここに居る」

「その言い方だと俺が元居た世界で望まれてないみたいじゃないか」

「違うのか」

 図星だった。望むことのできない人間は誰かに望まれることなど考えたりはしない。

「俺についてよく知ってる。さすが神様」

 冗談めかして言う、本当に俺の事なら何でも知っているようだ。

「それもあるがそれだけじゃない。言っただろ、わたしは君を気に入っているんだ」

「それはありがたいことだな。誰かに気に入られるなんて言われるのは悪い気がしない。それにそれが神だというならなおさら」

「さあそろそろ開けるぞユウ、世界が君を望んでいるぞ」

 神を名乗る少女が手をかざし、暗闇の世界の地面に穴が開いていく。

 思わず何かを掴もうとするが何もない暗闇には掴める物は何もなく。滑り落ちるようにその穴に落ちいった。








頑張るぞい


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