アルベルト
「お前さ」
「なんですか?お兄ちゃん」
「お兄────、……、お前さ、俺がお前を殺したらどうするつもりだったんだ?」
今はだだっ広い食堂で飯を食っている。じじい、アルベルト、その母親と俺、広間からアヤカとエリーも迎えに行って、ミレイとじじいも連れてきた。
はっきり言って全員で話したらカオスなので、俺はアヤカたちとミレイたちには黙ってろと伝えてある。
アルベルトはナプキンで口を拭ってから、
「それが目的でした」
「は?」
意味がわからない。アルベルトは俺に殺されるために決闘したと言っているのだ。
「何言ってんだ?」
アルベルトは子供のくせにワインのような飲み物に口をつける。
「あっ、これお酒じゃありませんよ?」
「どうでもいいよ」
「なんの話でしたっけ」
「酔ってんのか?」
俺に啖呵を切った女騎士がアルベルトにワインを注ぐ。
おい、本当に酒じゃねえだろうな?
「そうそう、決闘でしたね、お兄ちゃん」
「……」
「父は…………、あまり良い王とは言えませんでした……。今回のこともギルド経由に世界に知れ渡れば、『グランダムは《アレクサンドラの契り》を破る国だ』と、世界から非難を浴び、もう立ち直れなかったでしょう」
「《アレクサンドラの契り》?」
「はい。今から約50年前に冒険者ギルド、各国の王族、それと古のハイエルフ、アレクサンドラとの契約です」
アルベルトは子供に似合わない真面目な顔で話す。
「《アレクサンドラの契り》に関してはあとで文献をお貸ししますのでそれを読んでください」
そうだ。その契約がどんなものかはどうでもいい。何故アルベルトが決闘で死ぬことがグランダムを救うことになるのか。
アルベルトは続ける。
「はっきり言ってお兄ちゃんのしたことは許されることではありません」
まあ、それはわかる。
たしかにアルベルトの言う通りだ。
グランダムの軍はどこの国にも被害を与えて居ないのに、グランダム国内で俺に殺された。
そして俺は更に王城に乗り込んで現王を殺したのだ。絶対に許されないだろう。それがまかり通るなら王権自体が危うくなる。
「でも、父の方が許されざることをしていました。ギルドからの情報を聞いて、私利私欲の為にお兄ちゃんを求めました。更にそれが叶わぬとわかると、グランダム国軍をあたかも自分の軍のように扱いました」
「自分のものだろう?」
「違います。グランダム国軍は、グランダム王国のものです。王の私物ではありません」
まるで民主主義みたいなことを言う。王国と言うのは、もっと独裁者みたいなのを思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「お兄ちゃん、何故父はお兄ちゃんをあそこまで求めたかわかりますか?」
「あー、俺がギルドと王族が秘密にしていることをバラすからとかだと思ってたけど、違うみたいだな」
「ええ、違います。父が求めたものはユーゾコンドの遺産です」
「…………なんだって?」
「ユーゾコンドの遺産です。お持ちなんですよね?」
「……」
俺は黙り込んだ。
ユーゾコンド、友蔵・近藤だとアヤカから聞いてはいる。じいさんの遺したものの何を指しているのかはわからないが、《ジンサイトベース》にあるもの全てと考えて良いだろう。
「何故そう思うんだ?」
「簡単です。それ以外ありえないからです。今冒険者ギルドが使っている転移門は、元々ハイエルフ、アレクサンドラとユーゾコンドが作ったものです。ご存知ですよね?」
「……ああ」
じいさんの置き手紙にそう書いてあった。
「お兄ちゃんはマスタリースフィアを求めた。不要なものを高値でふっかけもした。あれがなんだか知っていると予想出来ます。そしてお兄ちゃんはドラゴンに変化して兵士を殺しました。それが何よりの証拠です」
「でもよ、それが証拠ならそこまでは分からなかったはずだ。それなのに50000人を送って来たのか?」
「それは、父の嗅覚としか言えません。父は物事に敏感でしたから」
「……」
たったそれだけで……。
「ユーゾコンドの遺産には、危険な力がたくさんあります。龍に変化するのも恐ろしいですが、世界を破滅させるほどの力を秘めたものもあります。それに転移門ももちろんユーゾコンドの遺産です」
「それを手に入れてどうするつもりなんだ?」
「わかりません。父はもう居ませんから……」
確かに。
「ただ、売れば国が潤うほどの値がつくでしょうし、それを用いて戦争でもすれば、世界を統一するのも可能だと思われます」
「なるほど……」
まだ二回しかユニークスキルを使って居ないが、とんでもない性能だった。
確かに世界制覇は出来そうな力だった。
「話がそれました。僕が死ぬことが何故目的だったかでしたね」
「……ああ……」
「それは今のままでしたら、《アレクサンドラの契り》を脅かした国と、周りの国々から認識されてしまいますが、僕が死ぬことにより、お兄ちゃんは国を崩壊される簒奪者と言い訳する事も出来ます。僕が死ななくても言い訳出来ますが、説得力が薄いですからね。11の子供の皇太子まで殺されたとなると、周りの国々からは同情を買えます。そうすれば、グランダム王国に対する心証が良くなります。僕には、いえ、グランダムには僕が死ぬかお兄ちゃんを味方につけるしか生きる道がありませんでした」
「お前、本当に11かよ……」
いくら帝王学を学んでいたとは言え、11の子供がここまで考え、ここまで覚悟出来るものなのか。
「それに、アルベルト。親父を殺されて俺を恨んでないのか?」
アルベルトは少し俯いて、母親とじじいの顔を見た。
「何とも思っていないと言うのは嘘になります。でも恨んではいません。母と祖父も同様のようです。この世界の言葉にこんなのがあります」
アルベルトは真剣な眼差しで、
「『龍の尾は道端にこそ落ちている』。これは踏んではならない龍の尾は、どこにでもある。常に慢心せずに備えをせよ。と言う格言です。…………父は龍の尾が見えなかったのでしょう。仕方ありません……」
「…………」
この世界で言う交通事故みたいなものか?だが、俺はその配役だと、身勝手な運転をする車ってことになるのだが…………。
「ほっほっ、粗方終わったかの?。ここからはワシが引き継ごう」
どっちが本命かはわからないが、先々代の国王、ミカエル=フォン=グランダムも動き出した。




