アヤカは何者?!
「もう、でけえしか言葉がねえな」
世界樹の木の麓に着くと、直径が何mあるかわからないくらい大きな木だった。
下手したら100mとかあるんじゃなかろうか、もっとか?
「これぞ異世界って感じですね」
「ああ」
「ねえ、ジン。早くやっつけちゃいましょうよ」
エリーが催促してくるが、
「…………あれ、やるの?」
「やるしかないでしょ」
「だってよ……」
水龍はいた。50mは優に超える大きさの龍が、世界樹の木の隣の湖には居た。
見た目は、なんか子供の時にやったゲームのリヴァイアサンとかってやつにそっくりだ。
居たが、水龍は何かを感じ取れるのか、俺たちに怯えて近づいてこないのだ。
湖に潜ったまま出てこない。
仕方なくアヤカは魔法を使って、湖の水を干からびさせていくと、恐れおののいた水龍は湖から飛び出してきて、襲ってくるのかと思いきや、アヤカの足元の地面に頭を付けてきた。
俺にはまるで、『勘弁してください。助けてください。参りました』と言ってるように思えた。
流石に一撃も交戦してないのに、無条件降伏をしてるやつを殺すのは忍びない。
だからアヤカに待ったをかけたのだ。
湖に逃げたらまた水を干上がらせられると思ってるのだろう、水龍は湖のほとりに頭を出し、地面に平伏して俺たちの動きを待っている。
俺は水龍まで歩いて行き、
「あー、お前、もしかして言葉がわかったりする?」
すると水龍は、
『我の名はティアマト。我は降伏する』
「…………しゃべれんの?」
水龍は頭を付けたまま、
『数千年も生きてるのだ、貴様らのような矮小な生き物とはちが────、ヒッ!!あ、あ、あいつを近づけさせないでくれ!!』
俺が後ろを振り向くとアヤカがこっちに歩いてきていた。
「アヤカ、待て」
「でも仁さん、水蛇風情が仁さんに向かってなんて口の利き方を」
「いいから、待てって」
アヤカを止めてブルブルと震え出してる水龍に話をする。
「…………止めたから……」
『…………あいつ怖い……、2000年前に会った魔王より怖い……』
「そんなわけないだろ……」
水龍がアヤカの力を感知したとしても、アヤカはレベル4しか入れてないはず。そんなにビビる必要もないと思うが。
『あやつ、とんでもない魔力をしているぞ?それに見事なほどの循環だ。まだ力を隠し持っているな……、バケモノだ……』
「いや、バケモノはお前だから」
このままでは情が移りそうだ。早く話を進めよう。
「あー、俺お前を討伐しにきたんだけど」
『っ!……、こ、殺すのか、我を……』
「その前になんでお前はここに来たの?」
『我はずっとこの湖にいる』
「あん?おかしいだろ?エルフは最近現れたみたいに言ってたぞ?」
『普段は湖の底の神殿から動かぬのでな。我が顔を出すようになった理由がある』
水龍の話を聞くと、どうやら世界樹の木には《アンブロシア》と言う30cmほどもある果実が成るらしい。
通常、それが湖に落ちてくるらしいのだが、10年ほど前から落ちて来なくなった。
だから、当然人間達が独り占めしてると思って、湖から顔を出し世界樹に近寄るものを追い払っていたのだが、全てを追い払ってもまだ果実は落ちてこない。
それで途方に暮れていたと言うのだ。
「じゃあ、俺たちが上を見てきてやるよ。何か原因があったら排除する。そしたらもう出てこないか?」
『っ!誠か?!』
「ああ」
すると遠巻きに見ているアヤカが、
「ダメです。私たちの依頼は討伐です」
「いやいや、討伐しなくてもいいって言ってたぞ?」
「それは失敗と言う意味です。初めての仕事で失敗するわけには行きません。やはり────」
水龍はクワッと目を見開き、
『待て!早まるな!わかった、証明を出そう!!』
水龍は冷や汗をかいてアヤカを止めた。
「証明って……、尻尾でも切るのか?」
『尾を5m、それに片目を出す。それで勘弁してくれ!!』
「待て待て待て、エグすぎんだろ……流石にもらえねえよ」
『馬鹿者!死ぬよりマシだ!っ!ヒッ!……、死ぬよりマシですから……』
「……」
不憫だ、不憫すぎる。魔物でも会話が出来てしまうとこんな気持ちになってしまうのか。
『それに、アンブロシアが食えるのなら、100年もすれば傷は癒える。我にとって100年などどうと言うことはない』
「……」
アヤカは、
「仁さん、それでは目と尻尾しか取れなかったと言われてしまいます、やはり────」
「待てっての!アヤカ!」
見ろ、この水龍のビビリようを。
ホント可哀想!
すると水龍は口からコロンと地面に何かを出した。
ガラス玉だ。
『それを差し上げる。スキル名を《水龍の加護》だ。水の魔法が使いやすくなるだろう…………、まあ、お主より弱い者の加護など必要ないだろうがな……』
俺はアヤカに振り返る。
「見ろアヤカ!スキルをくれてるのにこの姿を!可哀想だろうが!数千年も生きちゃってるのに、この卑屈さを!惨めすぎんだろ!」
『貴様の言い方も大概だがな……』
うるせえ!かばってやってるんじゃねえか!
俺はスキル玉を拾い、アヤカに投げて渡すと、
「スキルですか。《水龍の加護》と言うのはおじいちゃんが集めたものにもなかったです。……、この辺で手を打ちましょう」
「『……』」
俺と水龍は黙るしかなかった。
「……、んじゃ、行ってくるわ」
『…………頼んだ。我も身を削って待っていよう』
水龍の可哀想な言葉を背中に受け、俺たちはアヤカの魔法で世界樹の上へと上がって行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アヤカのスカイハイで、ゆっくりと探索しながら世界樹を登る。
幹が極太なので、一周回るのも一苦労だ。
するとエリーが、
「ジン、上に何かいる」
「……だな、アヤカ、ここから右30度に上に飛んでくれ」
「はい」
アヤカが速度を上げて世界樹を上へと飛ぶ。
10分ほど飛ぶと、1人の人族が見えてきた。
「ん?まさか……」
服装がおかしい。
向こうも気づいたようで、俺たちをじっと見だした。
「んー?誰だてめえ」
男だ。三十代ぐらいの男だ。
アヤカはそいつから10mほど離れた地点に魔法でホバリングする。
「俺たちは冒険者だ、ジンサイトって言う」
男は眉を顰めていたが、ハッと何かを思い出したように、
「ジンサイト?!おめえお尋ねもんじゃねえか!!」
「……」
「日本の冒険者のジンサイトだろ?俺は韓国のキム・ソジュンだ」
「どうも。こんなところで何してるんだ?」
ソジュンは亜空間バッグを俺に見せてきて、
「決まってんだろ?アンブロシアを集めてんだよ」
「あー、なるほど」
一気に理解した。こいつは空飛ぶ魔法のスキルをレンタルして、アンブロシアを独り占めしているのだ。その為、水龍が住む湖に落ちるものが無くなり、フェルズ共和国の奴も困ると。
俺はソジュンに一連の流れを説明すると、
「んー、ってことは俺がここでアンブロシアを独占してるのはお前らしか知らないと」
「ん?ああ、そうなる────」
キン!!
俺にも見えていた。だがエリーが動くのも見えたのでエリーに任せた。
ソジュンはいきなり手裏剣のようなものを投げつけてきて、エリーは短剣でそれを叩き落とした。
「……なんだよ、いきなり……」
ソジュンはニヤリと笑い、
「ほう、どうやらそこそこの金は払ってんのか。レベルいくつを借りたんだ?」
「…………教えるわけねえだろ。アンブロシアを独占するのはやめろ」
ソジュンは背中にリュックを背負い、両手を広げてニヤついた。
「嫌だね、せっかく見つけた大金の種だ。それよりもお前らさえ居なくなれば、俺の秘密の狩場がバレることもねえ」
「……それだけのために殺すのかよ」
ソジュンは片側の口角をあげ、
「どの道お尋ね者だろ?……、聞いて驚くなよ?俺はスキルに1800万ウォンも注ぎ込んでる!たった一回のためにだぞ?!、どうだ?すげえだろ!!お前ら全員ぶっ殺してやるからな!!」
「「「……」」」
1800万ウォンなら約180万だ。
亜空間バッグが50万で、レベル4が1つ100万だから、こいつは4が1つと後は3以下とワザワザ告白してきやがった。
アホだ…………。
「どうした?!ビビって声も出ねえか!!……、へへっ、空を飛べるのが自分たちだけと思ったか?!バカが!そこは安全地帯じゃねえ────」
シュッ!
エリーはクナイを投げた。
それはソジュンの喉に思いっきり突き刺さった。
ソジュンは目を見開き、首を押さえる。
俺はエリーを見て、
「お前な……」
エリーはワタワタと慌てて、
「だ、だって!あまりにもムカついたから!それにまさか反応も出来ないなんて!!」
「……」
たしかに。レベル3でも見えるくらいは出来そうなものだが……。
アヤカが言う。
「……回復しますか?」
俺は少し考えたが、
「いやいい、どのみち手遅れだ」
ソジュンはカヒュカヒュ息を漏らしながら、そのまま落下して行った。
エリーは俺を見て、
「……ごめんなさい」
「いやいい。俺も異世界に慣れたかな」
俺たちはもう一度高速で世界樹の周りの気配を探ってから地上へと降りた。




