譲れない場所
「何よこれ……」
スキルを駆使して、やっとジンの居場所にたどり着いたエリーが見たのは、とてつもない地獄だった。
むせ返るほどの血の匂い、そこら中に転がる肉塊、人だったと思われるものたちが夕日に染まる大地に無数に転がっている。
その中に、立った一人だけ、ハリネズミのような男が呆然と立ち尽くしている。
間違いない。スキルでも確認した。
「ジン!!!」
エリーが叫ぶとゆっくりとハリネズミの首だけが動いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何なのよこれは…………」
「言っとくが俺の方がムカついてるからな?」
焚き火に薪をくべながら、ザラを睨む。
「なんだよ、まるであたいが悪いみたいじゃないか?もっかい死ぬか?」
「……それは一回死んでから言え……」
俺の目つきが変わらないのを見ると、ザラは胸をさらけ出し、
「小さい男だねぇ、仕方ない、ほら、あたいを抱いていいからよ、機嫌直せよ」
「ちょっと黙ってろ……」
~~遡ること数時間前~~
俺は何をしてたかわからないが、気づいたら死体の山の中に立っていて、目の前にエリーがいた。
エリーは震える手で俺から矢を抜いては、傷口にポーションをかけながらワンワンと泣いている。
エリーをなだめるようにエリーの頭に手を乗せると、ありえない光景が目に飛び込んでくる。
エリーより更に小さいドワーフが、まるでテレビでも見ているように、片手で頬杖をついて地面に寝そべり、こっちを見ながらヒラヒラと手を振っている。
それを見た瞬間、現実に戻されるように全部を理解した。
俺はザラを抱えて森から逃げて、ここでザラが死んだと思って、追っ手を皆殺しにしたのだ。
逃げた奴も居たが、何人斬ったか覚えていない。
俺はエリーを置き去りにし、ザラへと走り、
「ザラ!ザラ!」
俺はザラを抱きしめる。
「い、痛いよジン坊や!矢が当たるよ!せめて全部抜いてから来な!」
ザラをベアーハッグから解放して、
「け、けがは?!」
「あんたがあたいの矢を抜いてバカ高いポーションぶっかけたじゃないか」
「あ、あれで治ったのか?」
「治るだろそりゃ」
「だ、だって、死んだように……」
「気を失っただけだろ?」
「…………」
なんだろう。
嬉しいけど、なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
少しイラっともする。
あのドラマのような感動シーンは何だったのか?
これがドラマなら苦情レベルだ。
「なんだい?そんなにあたいが大好きなのか?仕方ないね、ほらっ、抱いてやるからおいでよ。思いっきり突いていいよ」
「…………て、てめえはああああ!!」
~~~~~~~~~~~
と、言う喜劇があり、今はエリーが持ってきた樽の水で、3人とも体をザブザブ洗い、一キロほど森の中へ移動してからテントを張って一休みだ。
何故3人か?血だらけの俺に、みんな抱擁したから全員血だらけだったからだ。
「エリーは分かるわ。もうジンと何度も寝てるし、見られても恥ずかしくないもの。でも何であんたも脱いでるのよ」
「何度もは盛りすぎだ」
今は全員下着だ。服を乾かすのだから仕方ないだろう。でも2人ともパンツとブラは着けてるからギリギリセーフだ。
あっ、俺の傷は全身傷だらけだったが、どれも浅かったのでポーションで治った。
「服が濡れたからじゃないか。……ジン坊や、こんなガキを情婦にしてるのかい?趣味悪いよ」
「お前には言われたくねえ」
「あんたに言われたくないわよ!」
なんだろう、異世界で子供2人とおっさん1人。見ようによっては微笑ましいお父さんと娘の語らいに見えるはずなのだが、何故なのかわからないが犯罪臭しかしない。
この状況のどこにツッコミを入れていいかもわからない。
まぁ、どっちにも突っ込んでるわけなのだが。
「てゆうかジン、こいつと寝たの?」
嘘をついても仕方ない。いづれバレるのだから。
「まあ、そうなるな」
するとエリーはサーっと顔を青くする。
「なんだエリー、こんな子供とか言いたいのか?」
「あー、それは鑑定でわかってるから平気よ。私が言いたいのは」
「なんだよ」
「良くあの年増が怖くなかったなって。散々待たされて、拉致監禁容疑までつけられて、探しにきてみればエリーより幼くみえるドワーフとヤリまくり旅?…………ジン、生きてられるのかしら」
サーっ
悪いことはしてない、してないが、あの冷ややかに怒りを貯めた修羅の顔がみえる。
「ベティには冒険者をあつらえて?、知らない女はフェルズまでジンが直接連れてく。……ベティのメイドの仮面が剥がれそう」
「…………やめろ、胃が痛くなってきた……」
氷のように冷たい笑顔で「私は構いません」とか言うベティが、腕を顔の前を通すと、般若の面のように変わる。
そんな動画のようなイメージが鮮明に脳裏に流れる。
「エリー、頼みがある」
エリーは両手を腰に手を当てる。
「そのバッグ貸してくれ。俺は旅に出る。ザラをフェルズに送ってくれ」
「ジンの頼みなら聞いてあげなくもないけど、あんた、確実に年増に殺されるわよ?今度はあいつが直接来るわよ?」
「……」
やめろ、俺はまだ秘孔破りのスキルは持ってない。
するとザラは、この状況に更に面倒を被せてくるようなことを言う。
「ジン坊やが行かないならあたいも行かないよ。あたいはジン坊やに付いて行く」
俺とエリーはギュンとザラを見た。
「……お前の目的はフェルズに行く事だろうが」
するとザラはちょっと顔を赤くしてプイと横を向いた。
「気が変わったのさ」
それを見たエリーは、あちゃーって顔をして何かを悟った。
「エリー、知ーらないっ」
と持ってきたおにぎりをかじり出した。
「………………、つうか、旅に出るのは冗談だ。ちゃんと送るから安心しろ。それにフェルズに行けばお別れなんだから、あまり変なこと言うな」
「…………」
ザラは俺の言葉に明らかに顔を曇らせた。
だが、すぐにパッと顔を上げ、
「うっ!」
急に口を手で押さえ出した。
「どうした、ザラ」
「うっ、つわりが……、妊娠したかも」
「ミエミエの嘘をつくな!」
見ろ、そんなあからさまに「今思いつきました!」って煽りじゃ、エリーなんて反応もしやがらない。
「ホントさ……」
「日数的にありえないから。つわりが来るのはまだ10日以上あるはずだ」
「でも妊娠してるかもしれないじゃないか」
「ババア……、いい加減にしろ。63で子供なんて出来るか」
「あたいはドワーフだよ?100までなら普通さ」
エリーが半眼で俺を睨んでくる。
「ちょっと待ってジン、まさか……、生でシタの?」
「あ?あー……、ほら、異世界にゴムないし」
エリーはバッと立ち上がり、
「信じられないっ、エリーには着けたくせに」
「バカ、妊娠したら困るだろ?」
「エリーは構わないもん。…………さすがにそれは次元が違う話よ?年増もメイドも絶対怒り狂うわよ?」
「ぐっ……」
確かにここに到着するまで、ザラと生でヤリ過ぎて感覚が麻痺していたが、いくらドワーフとは出来にくいと言っても、万が一出来たらどうするつもりだったのか。
俺が脳内でアヤカとのバトルをシミュレーションしてると、
「そう言うことだから、妊娠してないとはっきりするまではあたいはジン坊やと一緒にいるよ」
「ババア……」
「もしあたいを捨てたら、やり捨てられたって親父にチクるから」
「っ!!!」
あのドワーフか。無口で頑固親父みたいなあのドワーフ……。
なんだろ、戦っても絶対負けないはずなのにめちゃくちゃ怖いんだが。
「そ、それだけはやめてくれ……」
するとザラは勝ち誇ったように、
「なら、あたいが妊娠してないとはっきりするまでは、あたいはジン坊やとずっと一緒に居るよ。いいね?」
「…………ああ……」
また嵌められた。いや、ハメたのは俺か。
……、今はそんなことはどうでもいい。とにかく厄介事がまた増えたってことだ。
先が思いやられる。
本当に逃げたくなってきた。
いきなりエリーは俺の頬に手を当て、ギュンとエリーの方に向かせてきた。
「なんか今日の話は終わりみたいな雰囲気醸し出してるけど、まだエリーは納得してないから」
「…………」
今のがタイミングだろうが!!
「な、なんだよ……」
エリーは両手を腰に当て、座ってる俺を仁王立ちで見下ろす。
「エリーとも生でして。フェルズに着くまでずっとよ。そしたらこいつとエリーに生でしたこと、年増たちには黙っててあげる」
「っ!ふざけんな!逆に取り返しつかなくなるっつうの!ドワーフは俺とじゃ妊娠しにくいんだよ!お前とは話が違う!」
エリーは仁王立ちを崩さない。
「なら天に祈るのね。エリーには関係ないわ。とにかくこれは絶対。しなかったらジンはエリーよりも年増たちよりも、こいつのことを愛してると認識するわ」
「そう言うことじゃねーだろ!」
エリーは折れない。そして溢れてはいないが、目に涙を貯めている。
「やったやらないはどうでもいいわ。元々年増たちも居るし、このパターンも想定してたわ。…………、でも、ここだけは譲れない。許せない……、エリーはゴム越しにしかジンを知らないのに、こいつが知ってるなんて、絶対に許せない」
エリーの目は本気だ。ここまで本気の目を見たのは初めてかもしれないってほど本気だ。
たった0.02mmに命をかけている。
「…………、わぁーったよ!ほんっと、どいつもこいつも言いたい放題言いやがって!!、いいよ……、どうせさっき俺は死んでたかもしれねえんだ……、知るかっ!どうなっても知らんぞ!?もうなんでもやってやらぁ!」
エリーがニンマリと勝ち誇り、ザラは「あっじゃあついでにあたいもな」と言ってきた。
「クソロリどもが……、俺を舐めるのもいい加減にしろよ?てめえら、横隔膜をぶち抜いてやるから覚悟しろ!!」
俺は2人の子供を両脇に抱え、テントへと入り込んだ。




