世界一の美女
「はぁ……まさかあたいがこんな気持ちになるなんて……」
グランダムを逃げ出してから7日。
寝るときだけは森に入り、追っ手の目から隠れている。
徐々に増える騎士でも、ジン坊やは誰一人殺さずに軽々と撃退する。
4人が8人、10人に増えて20人になっても、あたいを抱えたまま軽々と騎士を倒していく。
流石親父の目利きだよ、こいつは10年もしたら世界一の剣豪と言われるよ。
それにしても久しぶりに男に抱かれると火が着いちまう。
今じゃあたいのほうから求めちまってるよ。
あの火山のような噴火を、一度味を覚えたら夜になるとあたいの腹の奥が泣き出すんだ、もう一度味わいたいとね……
それにしても、なんでジン坊やはここまであたいに良くしてくれるんだい?
酔わせて弱みを握ったのは、ジン坊やだってわかってるはず。
それなのに、命がけで守ってくれて、飯も用意して、寝床も用意して、危険を侵して村まで水を買いに行って体を拭いてくれる。
全部、全部やってくれてる。まるであたいがお姫様にでもなったみたいだよ。
ふっ、ガラじゃあないね。
まさか…………、ジン坊やはあたいに惚れ…………、
「バカかい?!」
あたいはバカになっちまったのかい?!
情婦だらけの男がそんなわけないだろ!
歳も倍も離れてるのに!
…………。
これじゃあ、あたいのがメロメロみたいじゃないか。
いい歳してガキにやられたってか?ふざけんじゃないよ。
でも……、自分の気持ちに抗ってみても意味はない。
「あんた……、あんたの遺言、叶える日が来ちまったかもしれないよ……」
でもあたいとジン坊やはいづれ離れ離れになる運命。
フェルズについたらお別れなんだから……。
別れ……
仕方ないんだよ。あたいは行きがかりについてきただけのドワーフ。
期限付きのただの道連れ……。
「ふっ、可愛い顔して寝やがって……」
だから。
いいよね?
どうせあたいは今だけの、この旅だけの女。
シュルル……、
「今だけ、今だけだから……、あたいにも……」
今晩も自ら肌を重ねていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~~その頃、フェルズ共和国のはずれ~~
「探ってきたわ」
「どうでした、エリー?」
「冒険者ギルドはグランダム国軍まで動かして、ジンを疲れさせるつもりみたい」
「ですが、死人のが多くて非効率なのでは」
するとエリーは下唇を噛む。
「あいつ、一人も殺してないのよ!!バカじゃないの?!」
「……うそっ…………」
「何かっこつけてんのよ!」
「で、でも勝ってるのですね?」
「それは超余裕みたい。でも絶対殺されないとわかってるから、懸賞金目当てに冒険者が増えてるそうよ」
「…………」
アヤカは考える。どうするのが最良か。
「エリー、貴女、仁さんを守れる自信はありますか?」
するとエリーは半眼になり、睨むようにアヤカを見る。
「絶対、何が何でも守るわ」
「なら、エリーはスキルを換装し直して仁さんの元へ行ってください」
「……あんたは?」
「私は私に出来ることをします」
「バッグは持ってっていいの?」
「もちろんです。でもおじいちゃんのバッグは中の物は腐りはしませんが、精々大樽10個ほどしか入りません」
「充分でしょ。ならそれも持って行くわ」
エリーは転移門に乗り、アヤカはエリーをジンサイトベースへと送り帰す。
「仁さんはエリーに任せましょう。私は私に出来ることを……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
すでにグランダムを出てから20日が経っている。普通ならもうフェルズ共和国の国境に着いてもおかしくない日数だが、予定の半分にも到着していない。
追っ手の数は日毎に増え、また、グランダム方面からだけではなく、ここからだと北に当たるガルンドン王国からも、フェルズ方面からも追っ手が来ている。
流石に体力にも限界があり、全ての追っ手を相手してるわけには行かないので、当然森へと逃げ込む。だが、そこにも追っ手がくるし、方角もあやふやになる。
なんとか街道に戻っても追っ手が増えるばかりで、にっちもさっちも行かない。
「…………覚悟を決めるか」
「あたいを置いていきな。ジン坊や一人なら逃げ切れるだろ?」
「ざけんなババア、依頼は絶対に終わらせる」
ザラはニマリとして首を傾げて俺を見上げる。
「なこと言って、本当はあたいに惚れたんじゃないかい?」
「……かもな」
「っ!」
ザラは顔を真っ赤にして、
「バカ言うんじゃないよ!!あたいは63だよ!!」
「そんなにあからさまに動揺してると、お前のが俺に惚れたみたいだぞ?」
ドス!
ザラは渾身の力で俺のケツにパンチした。身体強化してても痛い。
「バッ、バカにするのはおよし!」
「俺のナニが忘れられなくなったか」
「っ!!こ、このガキゃぁ……、ぶっ飛ばしてやる!」
ザラは俺をポカポカ殴ってくる。
参ったな、冗談でからかってたのに、そんな真っ赤な顔で図星みたいな反応されると、こっちが困るんだが。
「っ!」
俺も気配探知が無くても、誰かが近づいてくることには随分敏感になった。スキルのゾクリとくるあの感覚ではなく、具体的には『音』だ。森の中を歩く音、足音、枝が折れたり枯葉を踏むような音、そう言うものにすごく敏感になった。
そして、森の中にいる今、誰かが近づいてくる。
「…………エルフか……」
なんだ突然、こんな森の中に小さな赤子を抱いたエルフが唐突に現れた。
見た目はすっごいそっくりな奴がいる。
メ◯テルだ。
金の髪を膝あたりまで伸ばし、長い睫毛、大きな目に特徴があり、細身で身長が高く、真っ白な肌をしている。
服だけはあの真っ黒なやつではなく、七色に輝く煌びやかなロングドレスを着ている。当然物凄い美人だ。
「貴方は誰ですか?」
すごい、透き通るような、体に染み渡るような声だ。まるでファンタジーの精霊のようで、ここに実際に居るとは思えない。
「お、おれはジンサイトって言う」
「っ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
急に赤子が泣き出し、俺を掴もうとするかのように赤子が俺に手を伸ばす。
「あらあら、ユーゾ?あの方と遊びたいの?」
「貴女は……」
子供をあやすように揺らしていたエルフは、俺に向き直り、
「私はアレクサンドラ。ちょっと長生きなエルフです」
「アレクサンドラ……」
どっかで聞いた、聞いたことがある。
アレクサンドラ?
エルフは俺ににこりと微笑みかけ、
「ユーゾは貴方と遊びたいようです。よろしければうちでお茶でもどうでしょうか?」
「うち……うちって……」
こんな森の奥で、街道に戻るのもあやふやなこんなところにうち?
「こちらです」
アレクサンドラが右手をあげると、10m先ぐらいに、いきなりこじんまりとした一軒家のログハウスが現れた。
俺が呆然としていると、
「ふふっ、いつもは魔法で隠してるだけです。楽しそうな声が聞こえたので、ついつい見に来ちゃいました」
そんな、ふらりと買い物に来たみたいに言われても。
「どうぞ、お入りください」
「あ、ああ……」
俺はアレクサンドラに付いて歩き出す。
「……あっ」
忘れてた。俺は後ろを振り返る。そこには口をあんぐりと開けて呆然としているザラがいた。
俺はザラを子供のように抱き抱え、アレクサンドラの家へと入っていく。




