山積み問題
俺はムラムラしている。俺を誘うようにケツをプリプリさせたり、何度も破壊力抜群の体で抱きついてきたりするので、もうやりたくて仕方がなくなっている。
一度納屋の転移部屋から外に出て、アヤカの家で飯の支度をしているのだが、飯を作ってる後ろ姿が、俺を誘ってるようにしか見えない。今日もしコスプレで薄着をされたら襲ってしまうかもしれない。
ブー
そんなことを考えていたら、スマホのバイブが鳴り出した。
メールだったので中身を確認すると、
『明日成田12時。寂しい』
と、片言の日本語でエリーからメールが来た。
「……アヤカ、エリーが明日日本に来るらしいぞ?」
飯を作ってるアヤカの背中に声をかける。アヤカは首だけ振り返り、
「あっ、本当ですか?でも言葉が……。私もイタリア語はちょっと……」
「俺もだ」
「あの、ポケト◯クというのがあるらしく、かなり日常会話が出来る翻訳機があるらしいですよ?」
「ドラ◯もんかよ」
時代は変わったものだ。そのうちタイムマシンで猫がやってくる時代になるのだろうか。
「ならそれをあとで買いに行くとして、あー、その、……言いにくいんだが」
「何ですか?」
アヤカは振り返った。
「エリーが来る前にアヤカを抱きたい。…………ダメか?」
カラーン!
するとアヤカは持っていたお玉を手から落とし、大きく目を見開き、唇を噛み締めた。
「え?、ご、ごめん。そんなに嫌だったか…………、ははっ、調子に乗っちゃったな…………。一度抱いたくらいで、ごめん、本当にごめん!!」
俺は手を合わせて頭を下げた。
するとアヤカは、
「(恨みますよ、エリー……)」
「へ?」
アヤカは下唇を噛みすぎて、ちょっと血が出ている。
「っ!お前、血が!大丈夫だ、別に犯したりはしない!……悪かったな」
アヤカはそそくさと俺のところに走ってきて、俺の膝に手を置く。
「仁さん、私は今とても嬉しく、とても感動しています。今すぐ仁さんを丸呑みしたい気持ちでいっぱいですが、……ごめんなさい、今は出来ないのです」
「いや、丸呑みは…………、あっ、そういうこと?」
月の物かな?ならば仕方ない。
「いえ、……いや、そうです。ごめんなさい……」
「はははっ、いやそれなら仕方ないよ。ちょっと断られたのかとショックだった」
するとアヤカはひしっと俺に抱きついてきて、耳元で
「そんなこと言わないで。私は身も心も全て仁さんのものです。これは絶対ですから……」
「ああ、わかったよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気を取り直して、テレビをつけて飯を待つ。
『今日未明、大型のクマがダンプに激突し、ダンプはあわや崖底へと言う事故がありました。幸いにも運転者は命に別状はなく、クマは死亡いたしました』
『いやー、怖いですね。最近動物との接触事故が増えてるって言うじゃないですか』
『北海道では去年、2834件の鹿との接触事故がありましたが、今年は倍の見込みだそうです』
『倍?!それは多すぎますね』
『はい、交通安全と動物保護の観点から、国土交通省が動いているようです』
『また大量の税金が投入されますね』
『予算委員会でも、今回の────』
「はぁ~、ここも田舎だから気をつけないとな。ここならなんだ?イノシシか?」
「仁さん、出来ました」
「あっ、ありがとう」
テレビを見てるとアヤカが料理を運んできた。
「作り置きを冷凍しといたものでごめんなさい」
「いや、充分だよ」
俺はキンピラをつまむ。美味い。ビールが飲みたくなる。
「美味いよ」
「ありがとうございます。それで仁さん」
「ん?」
俺はパクパクと料理をつまみながら、アヤカに答える。
「おじいちゃんの転移門に関して、重大な問題があります」
「ん?まだ転移してないのに、問題?スキルの上限のことか?」
「違います。仁さん、私が仁さんを転移させるとして、私はどうやって転移いたしましょう?」
俺の箸が止まる。
アヤカに目線を合わせ、
「……あっ」
盲点だった。いつもはミランダがいるし、向こうにもミレイが居るから気にしてなかった。でも間違いなく行き帰りの転移門操作者が必要だ。
「そりゃ…………、参ったな…………」
俺がお茶を一気飲みすると、アヤカが急須からお茶を俺に注ぎながら、
「私考えたんです。向こうのフェルズ共和国の転移門はまだ確認してませんが、向こうはベティさんに覚えてもらうのはどうでしょうか?」
「なるほど」
エリーが覚えられたんだし、俺たちも感覚で操作出来た。パソコンに慣れてないベティが馴染めるかはわからないが、頭のいいベティなら大丈夫だろう。
「なら、俺たちの拠点はフェルズに移動だな」
「そうなります。仕事もフェルズで受けることになるでしょう。ですがどの道ギルドを抜きにして行き来していれば、ギルドとの対立は避けられません。状況が落ち着くまでは、次は長期滞在になると思います」
「…………」
もしギルドと対立してしまったら、いくら魔物を倒しても依頼料が貰えない。それに魔物を買い取ってくれるかさえ微妙だ。
「きっと武力対立もあり得ます」
「…………無理、か」
「いえ、先日のミレイとの話ではありませんが、私たちと敵対するなら十個師団を用意させるくらいで派手にやりましょう」
「……まじかよ」
じいさんのスキルを使って全力で戦えば、ワンチャン勝てる気がしないでもない。
どこまで強い奴らが来るかはわからないが、Bランクのランスロットであの程度だ、こっちが殺す覚悟があるならやれるかもしれない。
「いやでもよ、それしても金には出来なくないか?結局ギルドに頭を下げることになるんじゃ」
「そこで私は考えました。向こうで《何でも屋》を開きましょう。依頼はこっちから貰いに行くのではなく、向こうから持ってきて貰って受注するのです」
「……」
そんなうまく行くのだろうか。
「困ってる人は沢山います、停滞依頼もたくさんあります。強い力があれば仕事はあるのです。…………ただ、やはりギルドは私たちの秘密を嗅ぎまわりますし、必ず脅しもかけてくるでしょう。暗殺もあり得ます。それはことごとく潰していき、向こうに諦めさせるしかありません」
「…………壮大な計画だな」
「はい、ゆくゆくはギルド全部を下請けにして、ギルドの連絡網を使い、世界中の依頼を受けれたらとおもいます」
「…………」
本当アヤカは何者なのだろうか。異世界を牛耳るつもりなのだろうか。
どうしてここまで野望が持てるのか。
「その為には人手はもっと必要です。向こうにも、こっちにも」
「…………」
「手始めにこっち側にオペレーターが必要ですが、それを私の知り合いに頼もうと思います」
「大丈夫なのか?その、信用とかもあるけど、その人のまともな暮らしを奪わないか?」
「間違いなく奪いますね。ですが多分喜んでこの村に来るでしょう」
「平気なのか?」
「一言で言ったら私と同じ人種だと思ってください」
「あー………………」
何よりも説得力のある言葉だった。異世界に盲信的に夢見てるタイプか。
「口の硬さも保証出来ますが、ただ…………」
「ただ?」
「ちょっと厨二を拗らせてまして、それにある程度付き合わなきゃいけないって言うか……」
「中二?」
「…………会えばわかります……」
「ふむ」
「どうでしょうか?」
「いや、絶対にこっちに1人は必要だけど、俺にツテはないし、アヤカが信用出来て、その人が本当にやってくれるならその人にお願いしよう」
「ありがとうございます」
アヤカはお茶をすすってから、
「ですので今日から別行動を取ります。私はその子を東京まで迎えに行ってきますので、帰りは明後日になります。仁さんはエリーを空港まで迎えに行ってくれますか?」
「わかった」
たしかに問題は山積みだ。
人のこと。
ギルドとの関係。
金銭的なこと。
全てを考えると頭が痛くなるが、やってみなけりゃどうなるかはわからない。
だけどアヤカがここまで具体的に乗り気なら、やってみてもいいかなと思う。




