パーティ結成
結局、彩花さんは徹夜で異世界の説明をミランダから聞いていた。俺は途中でソファで寝てしまったが……。
朝ミランダに聞いたのだが、ミランダも2時には寝たらしい。2時に彩花さんに依頼の束とスキル価格表を渡して寝たみたいだ。彩花さんはそこからこの時間までイメトレをしていたようだ。
もうミレイとも話がついてしまい、ベティを盾にされたんじゃ抗いようがないから彩花さんを異世界には連れて行くけど、彩花さんに対する淡い恋心のようなものは吹き飛んでしまった。
厄介者が1人増えたような感覚だ。
(じいさん、あんたの孫は想像と違った性格だったぞ……)
彩花さんも必死だったと理解してる。一生の夢が叶いそうだったからとも理解している。
でも、仮にそうだとしても夢のためなら我を忘れて、なりふり構わないってのはいただけない。もしこれが、異世界で依頼に関することとかで発生したらどうするつもりなんだ。
(はぁ……、やってけんのか、これ……)
彩花さんはまだ価格表と何か分厚い本を見ている。
「彩花さん、一度帰りますがどうしますか?」
彩花さんは価格表から俺に視線を向けてきた。
「仁さん、もう敬語は使わないでください」
「いやいや、お互い良い大人────」
俺が話そうとすると、彩花さんは右手を俺の前に出し、言葉を止めてきた。
「私はもう仁さんの管轄に入ったのです。私は私個人として異世界に認められたわけではありません。あくまでも仁さんのお付きとして認められたのです。逆にもう今は日本でさえ自由にさせてもらえないのかもしれません」
「いやいや、そこまででは」
「今はです。私ももちろん信用を勝ち取るように頑張りますが、今は仁さんあっての私と言うことになったのです」
「……はぁ」
まあ、間違ってはいないだろう。俺も今は彩花さんをあまり信頼出来ない。
「ですから、敬語はやめてください。それと日本でもどこにでもついていくことになります。申し訳ありません」
「それはしなくていいでしょ」
ミランダが目をこすりながら、裏から出てくる。
「こっちでは好きにしてかまいませんよ。どっちみちアヤカコンドさんから情報が漏れればジンサイトさんの責任ってことになってますから」
「…………」
彩花さんが言う。
「仁さん、仁さんの私への信用は失墜したのもわかります。むしろ、もう私のことを疎ましく思ってることもわかってます」
「彩花さん……」
彩花さんは悲しそうに苦笑いをする。
「私だってそのくらいの空気は読めますよ?」
「…………」
「でも」
彩花さんは俺を見つめる。
「私は仁さんが好きです。もっと好きになりました」
彩花さんは少し顔を赤くして、ソファの上に正座する。
「仁さん。ご迷惑をおかけします。不束者ですが、どうかお側に居させてください。結婚してくれとは言いません。どうか、お側に……お願い致します」
彩花さんはソファに頭をつける。
最近どっかでこんなの聞いた気がするわ…………。
「あー、わかりましたから。……わかったから頭をあげて」
俺はため息をつく。
「こんなガチガチに気を使い合ってたら、異世界じゃ死んじゃいますよ、っと、死んじまうよ。もうわかったから。俺ももうむし返さないから。普通にしてくだ────、普通にしてくれ」
「仁さん……」
俺は彩花さんに右手を差し出す。
「色々あったけど、これからはパートナーだ。彩花さんも敬語をやめてく、れよ」
彩花さんは俺の右手を両手で握った。
そして、少しぎこちないながらも笑顔になる。
「ふふふ、はい、仁さん。よろしくお願いします」
「敬語じゃん」
「私は良いんです!、あっ、あと彩花さんも禁止ですよ?アヤカコンドって名前になったんですから。アヤカって呼んでください」
俺は否定しようとしたが、もうこのくだりも面倒になったので、
「あー、わかったよ、アヤカ」
アヤカはニコッと笑う。
「はい、仁さん!」
ミランダが、眠そうな目で頭をポリポリ掻きながら、
「あのぉ、そういうの家に帰ってからしてもらえますか?」
「お前もそれを言うか…………、やっぱ姉妹だな……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミランダに3日後にくると言い、冒険者ギルド青木ヶ原支店を後にした。
「俺は彩花さ、アヤカを送ってから、吉岡さんの家に行ってくる。アヤカはどうする?」
「私も家に帰ったら車で買い出しに行ってきます。部屋を片付けてご飯を作って待ってます」
「あ、畳がないぞ?」
アヤカが汚したので居間の畳は剥がしてしまっている。
「なら、仁さんの家にお邪魔してもいいですか?」
「っ、」
『いやそれは』と言いたかった。でももう面倒だった。
(まあ、部屋はあるし布団もあるか)
「良いですよ。じゃあまた迎えにいきますか?」
「敬語」
「あっ、あー。迎えにいこうか?」
アヤカはにっこりと笑う。
「いえ、私も車がありますから、お家の片付けをして仁さんの家に自分で向かいます。お金を下ろしたりもしたいですし」
「そっか。じゃあ、俺は吉岡さんの仕事を片付けたら家で待ってるよ」
「はい、そうしてください」
少なくとも日本では24時間べったりじゃなくていいだろう。動きにくくて仕方ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「仁ちゃん、ありがとねえ!」
「お時間かけてすいませんでした」
吉岡さんに連絡を取り、ちょちょいと新品のドアノブを取り付けて、吉岡さんの家を後にした。
流石に腹が減り、マックでハンバーガーをドライブスルーして運転しながら2つ食った。アヤカは片付けをすると言っていた、うちに来るのは夜だろう。
とりあえず様々な問題は片付いた。
紆余曲折あったが、まあ、異世界の秘密を守る、近藤のじいさんとの約束を守るという最低ラインはクリア出来たので、良しとすることにした。いつまでも考えてると疲れちまう。
あと俺が日本ですることは、キャンプ道具を買うことくらいだが、それは明日でいいだろう。ここ数日の疲れがあり、今日はあまり何もしたくない。
久々の我が家だ。
時計を見ると12時を指していた。
俺はリビングにごろんと横になると、いつのまにか寝てしまった。




