大和撫子系ではなかったのか!
「……え、何?……へ?」
彩花さんは俺のスマホで動画を見せてきた。
その動画では、彩花さんはTバックのパンツを履き、尻丸出しな極短のセーラー服を着て何やらポーズを取っている。
くっそエロい格好だ。抜群のスタイルを誇る彩花さんの破壊力はハンパない。
そして、彩花さんを囲うようにして、いい年をした大人たちが、ものすごいカメラで懸命にシャッターを切っている。
だがまるで『お触りはしないでください!』と警備員がいるかのように、誰も彩花さんに指一本触れようとしない。
場末の娼婦よりエロい格好をしているのに。
「こういう風俗なんですか?」
「違いますっ!これはコスプレって言うんです」
「だからコスプレですよね?」
「んもうっ!!」
彩花さんはまた俺からスマホを取り上げ、次々と写真を見せていく。
どれもこれもエロい服を着て、男どもに写真を撮られている。
「私、一木アキラの名前でレイヤーしてるんです」
「レイヤー?」
ここから彩花さんのコスプレ談義が始まった。
2時間に渡る話をまとめるとこうだ。
誰もが変身願望、見られたい願望があり、それをこう言う形にしたのがコスプレイヤーだと言う。それは風俗ではなく、見て欲しい人と見たい人が集まり、それを披露、撮影する会場が年に二回あると言う。
それはそれは長い話だったが、半分理解出来なかったので割愛する。
要は風俗ではないと言うことみたいだ。
「恥ずかしくないんですか?」
「もちろん恥ずかしいですよ。でも私はコスプレを仕事としていないので、年二回のコミケ以外は基本自撮りですよ」
「はぁ」
オジさんには全く理解出来ない。むしろあのシャッターを切っている人たちにも、混ざりたくない。
エロい格好で挑発されてもお触りなしではムラムラするだけだからだ。
「ですから、風俗ではありません」
「はぁ」
「ですから!、……私の生まれたままの姿を見たことあるのは斉藤さんだけです……」
「はぁ」
「もちろん、指一本でも触ったことがあるのも斉藤さんだけです」
「はぁ」
「当然!……………………、処女です」
「……マジで?」
24だろ?それは当然ではない。
しかも男をあんなに挑発してるのに、今までやったことがないとかありえないんだが。
「はい、怖かったので……」
「全くそうはみえないんですが」
俺はスマホの写真を見ながら言う。
めちゃくちゃいい笑顔で写真を撮られている。
「まあ、どっちでも構いませんが」
「斉藤さん、いえこれからは仁さんとおよびしてもいいですか?」
「いいですよ」
ちょいちょい呼ばれている。昨日も呼んでいた。
「仁さんに2つお話があります」
「……どうぞ」
「1つ目は、あの話本気なんですか?」
「……はい、本気です」
「ですが、もし、昨日のことがあって、心配だからとか、同情とかでしたら、もう大丈夫ですから」
「あー……」
やっかいな流れになりそうだ。
でも、一度決めたんだ。俺は貫く。少し今は戸惑っているが、彩花さんが気になってたのも嘘ではない。俺は彩花さんのベッドのとなりの椅子から立ち上がり、窓の外を見ながら話す。
「はっきり言って彩花さんは素敵な女性です」
「仁さん……」
「ちょっと俺の知らない一面がありましたが、基本的に優しくて、思いやりがある方で、もちろん可愛くてスタイルもいい。とっても魅力的な女性です」
彩花さんは顔を赤らめる。
「それが俺なんかで、うだつの上がらない俺なんかでいいのかって気持ちがあります」
「……」
「昨日のことのような事がまたないか、正直心配はしてます……。でも、俺は今回のことがなくてもこの提案をするつもりでした」
俺は彩花さんに振り返る。
「多分、お互いのことはまだまだ知らないでしょう。でも、一緒に暮らしながら知っていくのもいいんじゃないかと思います。なので、とりあえず暮らしてみることから始めませんか?」
彩花さんと俺はまっすぐ見つめ合う。
「私はずっと仁さんが気になってました。……はじめは笑顔が可愛いなと思いました。でも、途中からは怒ってました」
「……へ?」
彩花さんは俯いた。
「だって……、全然私に興味なさそうなんだもん……」
「へ?、あ、いや……」
彩花さんはプイっとして、
「私、ちょっとは自信あったんです。レイヤーしてても、かなりの人気でしたし……」
「はぁ」
それは人気というよりエロいからでは?と思ったが言わないことにした。実際めちゃくちゃ可愛いってレベルだし。
「それなのに仁さんは、私のことに興味を示さないし」
「そんなことはないですよ」
「うそっ!」
「俺もずっと可愛いなと思ってましたよ」
彩花さんはこっちを向く。
「でもっ!2人きりになっても近づいてもこなかったし、お背中流しに行っても無反応でした!」
「…………我慢してたんですよ」
「嘘っぽいっ!」
また彩花さんはプイっとそっぽを向いた。
すると彩花さんは徐々にうつむき始める。
「でも……仁さんが帰ってしまった後、私の胸には大きな穴が開いてました。とても大きな穴が……」
「……思い出すのは一緒にいた7日間のことばかり。仁さんの笑顔、仁さんの悲しい顔、泣いた顔も見ました」
それは忘れて欲しい。
「おじいちゃんのお葬式を手伝ってくれて、私のそばにいてくれて……、そして、お母さんたちから私を守ってくれた。たった7日間なのに、私の中の仁さんはとても大きくなってました」
「…………」
「私気づいたんです。はじめはおじいちゃんの遺言は、仁さんを焚きつけるためだと思ってました」
実際そうだろう。
「でも違ったんです。おじいちゃんがくれた7日間は、私が仁さんの良さを知るためにあったんです。私が仁さんのことを好きだということを気づかせてくれるために、おじいちゃんは用意したんです」
「……」
彩花さんはまっすぐ俺を見つめる。
「仁さんが居なくなって、私には仁さんが必要なんだと確信しました。仁さんの居ないのはたった10日だったのに、…………、気付いた時には喪失感と虚無感でいっぱいで、いつのまにか…………」
だからって死の危険があるほど何もしないって。
彩花さんは意外と思い込みとかが強いタイプのようだ。
彩花さんはベッドの上に正座した。
「お願いします、仁さん。何でも勉強します。仁さんの好みに合うように努力します。だから……私を側にいさせてください。好きです、お願いします!」
彩花さんはベッドに頭をつけた。
「そんな硬くならないで。ゆっくりやっていきましょう」
彩花さんは頭をあげる。
「ホント?」
「はい、本当です」
「ホントに?」
「本当ですって」
「仁さん!」
彩花さんは俺に飛びついてきた。点滴が抜け、ブザーが鳴る。
「痛っ!!」
「あーもう、何やってるんですか!本当にもう……。彩花さんは意外と抜けてると言うか、おてんばと言うか……」
俺は彩花さんをベッドに寝かせて、ナースコールを押す。
彩花さんに対するイメージが『意外と』ばっかりだ。
(まあ当然か。見た目以外は何も知らないに近い)
彩花さんは横になってから、
「そうです、もう私には秘密がありません!裸も見られたし、触られたし、秘密も知られましたからね。もう、怖いものなしです!」
「はいはい、わかったから落ち着いてください」
グッ
彩花さんは左手で俺の腕をギュッと掴んだ。
「だから…………、今度は仁さんの番です。…………お話の2つ目です。秘密って、なんですか?」
「っ!はい?!」
彩花さんはニコォと微笑む。
怖い。これは女の怖い面の顔だ。
「私、ちゃんと聞いてました。秘密、あるんですよね?教えてくれるまで離しませんよ」
彩花さんの表情は片側の口角だけ上がっている。
俺の知ってる彩花さんはどこに行ってしまったのか。
俺は自分の顔が引きつっているのがわかった。




