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一方、日本では

「おかえりなさい」

「よお、ミランダ」


ミランダに迎えられ、俺は日本にたどり着いた。


「これが新しい登録証です。交換してください」

「わかった」


受け取ったが、既に言語理解は回収されている。文字は読めなかった。


「Dランクに変わっただけです」

「了解」

「次はいつです?」

「10日前後だけど、メールするよ」

「わかりました」


俺は金を換金してから冒険者ギルド 青木ヶ原樹海支店を出ると、まだ日が昇っていた。

車に乗り込みエンジンをかける。時計は15時を指していた。

車の充電器に刺さっているスマホの電源を入れると、


ブーーーーーーーー!!


大量の着信が一気にやってきた。

全部がメールだ。

しかも同じ人からの。


「たった1日でここまでメールするか普通……」


残念なことに彩花さんからは何の着信もなかった。

ため息を着いてからメールを開けていく。

10通ぐらいは全て英語のような文字で読めなかった。多分イタリア語だろう。

その次のメールは日本語で一言だけ書いてあった。


『お金ちょうだい』


「バカか?!」


あのガキ、何故俺が金をやると思ってるのか。第一どうやって渡せと。まさか振り込めと?確か海外には送金手続きがやたら面倒だったはずだ。やってられるか!


俺はその後のメールを読まずに全て削除した。





自宅へと車を走らせる。


ブー


またあいつからのメールかと思い、そのまま車を走らせると、どうやら電話だった。俺は路肩に車を止めてハザードを炊く。


「はい、何でも屋のジ──、斉藤です」


あぶねえ。


「仁ちゃん?今日はお暇?」

「あー、吉岡さん?どうしました?」

「トイレのドアの鍵が開かなくなっちゃったのよ、なんとか出来ない?」

「トイレですか。それは大変ですね、すぐ行きますよ」

「助かるわぁ~。待ってるわね」

「はい、15分ぐらいで行きます」


俺は自宅に帰り、軽トラに乗り換えて吉岡さんの家に向かう。


吉岡さんの家につき、玄関を少し開ける。


ガラガラガラガラ


「どもー、斉藤です」

「はぁ~い、仁ちゃん、久しぶりね」

「ええ、近藤さんの葬儀以来ですね。早速見れますか?」

「もちろんよ、上がって」

「お邪魔します」


トイレのドアまで案内された。


「中からボタンを押して鍵をかけるタイプなんだけどぉ~」

「なるほど」


それがなんらかの理由でかかってしまったということか。

鍵屋ならばピッキングで開けられる。だが、俺には鍵の免許はない。


「吉岡さん、これ、ドアノブ切っちゃいましょう。新しいドアノブを買ってきますので、それと交換しちゃいませんか?もしくは鍵屋さんに頼むか」


鍵屋までは車で1時間以上だ。出張でくるにも出張費は高いだろう。


「鍵屋さんはぁ、明後日しか無理って言うのぉ。それに三万円以上だってぇ」

「高いですね。ドアノブを切るなら、新しいドアノブ代が五千円、工賃で五千円で一万円でいいですよ。ドアノブは買ってこないといけないので、ドアはすぐに開きますが、明後日まではトイレに鍵なしになりますけどどうします?」

「さっすが仁ちゃんね、お願いするわ」

「わかりました」


俺は早速グラインダーでドアノブを切り、ドアノブを取り外した。ボタン型の鍵はバカになっていた。これは交換で正解だ。


「じゃ、明後日また来ますんで、それまではこのドアで我慢してください。お金は明後日貰います」

「ありがとぉ、助かったわぁ」

「いえ、ではまた」


俺は家に帰り、SUVに乗り換えて村の中心地へと走る。やはり金の問題ではなくこの村に俺は必要だ。こういうふうに物を頼まれることにやりがいを感じる。


「まずは支払いか」


彩花さんも気になる、だがやることを終わらせとかないと忘れてしまいそうだ。

銀行に金を必要分だけ入金する。


俺は1つ懸念材料がある。

今はまだごまかしが効いているが、収入をどこから得ているかということだ。

毎月支払いが払えてても収入がなければ普通は払えない。でも俺の#収入__日本の__#は微々たるもので、確定申告するときにおかしいのが目の当たりになる。

だから銀行に預金として預けずに、必要分だけを入金したのだ。


「これ、どうすりゃいいんだ?脱税ってことになるのか?」


『異世界で収入を得ました』


これに税金がかかるのかも怪しいし、かかることに納得もいかない。でも収入の説明も出来ない。

他の人はどうしているのか。

ミランダに今度相談してみよう。



俺は近くの牛丼チェーンで飯を食い、また自宅へと帰った。


「《千束》へも行きたいけどな」


ベティが無茶苦茶するようになった。多分向こうに戻ったらまた無茶苦茶にされるんだろう。そう思うと千束で無駄撃ちしてる余裕はない気がしてくる。


それに彩花さんだ。

このクソ田舎に一人きり、じいさんも居なくなって寂しい思いをしてるだろう。


「連絡が来てないのが気がかりだけど……」


まさかもうすでに男が出来たか?

それはそれで彩花さんが幸せならいいんだけど、それを考えるとなんか胸の奥がモヤモヤする。脚が貧乏ゆすりを勝手に始める。


「…………俺はじいさんに頼まれた!何を遠慮する必要がある!」


俺は彩花さんの家に向かった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




家でうだうだ考えていたら、もう夜になっていた。一瞬夜は失礼かと思ったけど、いつのまにか『じいさんから頼まれた』から『顔を見て確認したい』に俺の心は変わっていた。


「ストーカーかよ……」


なんか一歩手前のような気持ちになる。


彩花さんの家につくと、家の中に電気がついてる気配がない。


「あれ?留守?」


仕事を始めると言っていた。だがもう20時だ。流石にここまでおそくはならないだろう。


「残業か?……あっ」


違う。仕事をすれば人付き合いもできる。きっと同僚と飲みにでも行ってるのだろう。


「彩花さん可愛いから、そのついでにお持ち帰り……」


邪な想像が頭に浮かび、また心がモヤモヤする。


「帰ろ……」


車の鍵を開けようとした時、


「いや待てよ?まさか自殺?」


じいさんが居なくなって、失意のために自殺なんて……。

俺の心が焦燥感で埋め尽くされる。


「これは確認だ。ストーカーじゃない」


俺は彩花さんの家に向き直り、ゆっくりと玄関に向かって歩く。


ガラガラガラガラ


「彩花さーん」


戸を開けて声をかけるも、返事はない。

やはり留守か。この辺では鍵をかけずに留守にする人もいる。


「彩花さーん」


しかし、流石に上り込むのは失礼どころか犯罪だ。


「……まさか、すでに?」


でももし、もう自殺してたとしたらこのまま腐乱死体になるまで誰も気づかないかもしれない。


「彩花さーん!!」


俺は決意して靴を脱いだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ギシィ


暗闇の中をゆっくりと彩花さんの家の中を進む。流石に電気の場所までは覚えてない。


「彩花さーん」


俺は最悪のことを想定してしまっていて、徐々に恐怖感のような気持ちも湧き上がってきた。

スマホのライトのスイッチを入れ、あかりをつけて居間へと続く廊下を歩く。


ギシィ、ギシィ


この音がまた恐怖感を煽る。それに何か異臭がする。まさかもう腐ってる?


「あ、彩花さーん」


居間の襖をあける。スマホのライトを当てると部屋の上座にはまだじいさんの骨壷が置いてあった。線香の火も消えている。何日も線香をあげた痕跡がない。


「どこ行ったんだ?」


俺は居間の中を回れ右して、彩花さんの部屋の方に進もうとスマホのライトを後ろに向け────


「う、うわあああああああああああ!!!!!」


幽霊かと思った。貞◯かと思った。

居間の部屋の隅に、白いブラウスを着て頭をうなだれて、長い髪を前に垂らした女の人が正座してるのだ。

俺は腰が抜けるように座り込んでしまった。


「おかえりなさい」


銀鈴の声とは良く言ったものだ。

鈴の音のように綺麗な声で挨拶された。


「彩花さん!!」


俺は駆け寄ろうとしたが腰が抜けてるようだ。立ち上がれなかった。四つ足でハイハイしながら彩花さんのところまで歩く。

俺は彩花さんの両肩を強く握り、


「彩花さん!」


肩を大きく揺すった。暗くてよく見えないが、顔はまるでゾンビのように疲れ果てている。


「で、電気!」


なんとか立ち上がり、スマホのライトで電気のスイッチを探し当て、部屋の電気をつけた。


「彩花さん!何してるんですか!!」


一瞬、俺が来るのがわかって、ドッキリを仕掛けてきたのかと頭に浮かんだが、彩花さんの顔はそれを否定している。

それに、申し訳ないが臭う。まるで何日も風呂に入っていないようだ。それどころか多分トイレにも行ってない。ひどい匂いだ。


「彩花さん!彩花さん!」


肩を大きく揺する。ひどい顔だ。


「彩花さん!大丈夫ですか?!」


すると虚ろな目で彩花さんは俺を見た。


「仁さん、私、何のために生きてるんでしょうか……?」

「はい?!」

「生きてる意味…………あるのでしょうか」


綺麗な声だ、でも今にも消え入りそうな震えた声だ。


「バカヤロウ!!何言ってんだよ!!飯食ってんのか?!」


頬は痩せこけている。つうか水は?

飲んでるのか?3日飲まないと死ぬと言うぞ?!


「バカヤロウが!!」


俺は彩花さんを置き、台所に水を汲みに行く。


ジャー!


その辺にあるコップに水を汲み、急いで彩花さんの元へ戻る。

そして彩花さんの肩を抱き、水を彩花さんの唇につける。

……減ってない。飲んでない。まるで生きることを拒否してるかのようだ。


「っっっ!!くそったれが!!」


別に大便漏らしと言う意味ではない。

俺は水を口に含み、彩花さんの唇に重ねた。

彩花さんは少し目を見開いた。唇はカサカサだ。

俺は水を勢いよく流し込まないように、そーっと水を押し込む。彩花さんの唇から水が垂れる。飲んでない。

仕方なく俺は少し水を含み直して、彩花さんの口内に舌をねじ込んだ。


彩花さんの目がまた少し開く。だが今度は俺の舌にすがるように、彩花さんの舌は動いた。それにあわせて俺は水を流し込む。


コクっ


彩花さんの喉が動いたのを感じた。

俺は彩花さんから口を離す。彩花さんの舌は俺を追いかけるように動いた。

すぐ水を含み直して、もう一度唇を重ねる。


コクっ、コクっ


飲んでいる。

更に何度か唇を重ねる。


コップ半分ほど飲ませたところで俺は彩花さんを見る。


「あんた、あんた何やってんだ!!」


俺はいつのまにか涙声になっていた。


「……仁さん…………」

「ふざけんなよ!!ふざけんじゃねーよ!!…………簡単に、そんな簡単に死のうとするんじゃねえ!!!」

「仁さん……」


俺はいつのまにか号泣していた。

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