ちい物語
説明しよう。ちい、とは、ライの妹である。西之島に住んでいる。母親と二人で。父親は、小さい頃に死んでしまった。一緒にペットの犬のハチも死んでしまった。ちいには、父親やハチの記憶は、ほとんどない。
「お兄ちゃん・・・。」
ちいは、兄であるライを父親代わりに育ってきた。西之島にいた頃のライは、戦いばかりの日々だったので心は荒んでいたが、ちいだけは、ライを恐れず、ライに懐いていた。だから、あまり寂しいと感じたことはなかった。ライがいなくなるまでは・・・。
「お兄ちゃん・・・。」
ちいは、ただ海を眺めている。兄がいなくなったのは、自分が海で溺れたのを助けるために海に飛び込んだと、後から聞いた。
「お兄ちゃん・・・ん!?」
海から女の人が現れた。少しずつ、ちいに近づいてくる。なぜか女性は着ている着物は濡れていなかった。
「こんにちわ。」
女の人は、ちいの目の前まで来ると止まり、笑顔で声をかけてきた。
「おばさんだれ?」
子供のちいからすれば、成人の女の人は、おばさんに見える。
「お姉さんって言おうか? ライの妹。」
海から出てきた女は、おばさんと呼ばれたことにイライラしていた。
「お兄ちゃんを知ってるの!? おばさん!」
「ムキ! お姉さんって言わないと、ライのこと教えないよ?」
ちいは、兄のことを知っている、おばさん? お姉さんに食いついた。
ライの妹、ちいの前に、海からおばさん? お姉さんが現れた。行方不明の兄のことを知っているというのだ。
「お姉さん、お兄ちゃんのことを教えて!」
ちいは、兄のことなら、何でも知りたかった。
「よろしい! お姉さんが教えてあげよう!」
女は、お姉さんと呼ばれて、機嫌が良くなった。
「私は、女神竜のティアマト。ティアお姉さんって呼んでね。」
「え・・・。」
「なに、その態度は?」
小さなちいからすれば、女子高生でもおばさんなのだ。
「あなたが、ちいちゃんね?」
「うん。」
女は、人間の女の姿をしているが、女の竜の神らしい。
「ライは、生きてるわよ!」
「お兄ちゃんが生きてる!?」
ちいは、衝撃を受けた。死んだと思っていた、兄が生きているというのだ。
「本当に生きてるの!?」
「本当だよ。神と竜に頼まれて、日本の本土に悪者退治に行っているんだよ。」
「生きてるんだ! お兄ちゃんは、生きてるんだ!」
ちいは、まだ半信半疑だが、兄が生きていると聞いて、安心と共に、興奮した。
「ちい、お兄ちゃんに会いたい!」
「え!?」
「お兄ちゃんの所に連れて行って!」
ちいは、大好きな兄のライに会いたいのだ。
「ライは、悪者と戦っていて、ちいちゃんが行くと邪魔になっちゃうよ。」
「お兄ちゃんに会いたい!」
「ちいちゃんがいなくなっちゃうと、お母さんが一人ぼっちになっちゃうぞ。」
「お兄ちゃんに会いたい!」
ティアマトは、子供に泣きつかれて困ってしまう。
「わかった。じゃあ、こうしましょう。ちいちゃんが大きくなったら、お姉さんがライの所に連れて行ってあげよう! 駄々をこねていると、ライに会えなくなっちゃうぞ?」
ティアマトは、子供相手に脅しをかけた。子供のちいは、兄に会えないのは、困ると思った。
「・・・絶対?」
「絶対よ!」
「・・・わかった。」
子供を騙すのは、簡単だった。しかし、子供も簡単には引き下がらない。
「指切り。」
「ははは、いいわよ。指切りしましょう。」
「指切りげんまん、ウソついたら針千本、飲ます、指切った。」
ちいは、女の竜の神に指切りをさせ、兄に会わせると約束させた。子供というのは怖いもので、約束を破られたら、本当に針を千本、飲ませるつもりである。
海から現れた女は、女神竜のティアマト。ちいの兄、ライが生きているというのだった。ちいとティアお姉さんは、一度、ちいのお家に帰ることになった。
「あれが、ちいのお家。」
「大きいのね。」
「お兄ちゃんが建ててくれたの。」
ちいのお家が見えてきた。ライがコロシアムで稼いだお金で立派な家を建てた。
「キャア!?」
ちいの家の方から、母親の悲鳴が聞こえてきた。
「お母さん!?」
「あ!? ちいちゃん!?」
母親の悲鳴を聞いて、ちいは、家の方に駆けだした。
「お母さん!?」
そこでちいが見たものは、全身包帯を巻いた2メートルの大男が斧を持って、ちいの母親に迫ろうとしている。お金で雇った、警備侍の2人は、あっさりと殺されている。
「あのクソガキの妹か? おまえも母親と一緒に殺してやるぞ!」
男は、コロシアムでライに半殺しにされた大男だった。目が血走り、殺意に満ちていた。斧には、血がべったりと付着している。
「な!?」
ちいは、ブルブルと怯えるが、母親をなんとかして、助けなければ、お兄ちゃんが生きていることを伝えなければ、と思い勇気を振り絞る。
「お母さんから、離れろ!」
ちいは、精一杯の大声で大男に怒鳴りつける。しかし、足は震えている。
「ああん? お嬢ちゃん、震えているぜ!」
大男は微動だにしない。怖いけど、怖いけど、ちいは残っている勇気を振り絞る。
「おまえなんか! お兄ちゃんが倒してくれるもん!」
お兄ちゃんがいれば・・・。子供のちいが思う正直な心の声である。
「ハハハハハ! どこにいるんだ!? クソガキは行方不明なんだろう? だから、俺様は、ここに来たんだ! ハハハハハ!」
大男は、クソのような馬鹿笑いをする。
「う、う、ウエ~ン!」
どうすることもできない、小さなちいは、大きな声で泣いてしまった。
「ハハハハハ! 恨むんなら、お兄ちゃんを恨むんだな!」
大男は、最低野郎だった。
「小さいのに勇気があるな。」
「!?」
ちいの小さな頭を優しくなでる手がある。泣いているちいは、声が聞こえているのか定かではない。まだ泣き続けている。
「おまえみたいなクズは、生きるな。」
ティアマトが現れた。
ライにコロシアムで負けた大男が復讐に、ちいの家に現れた。勇気を振り絞り立ち向かう、ちいだが泣くことしかできない。そこに女神竜ティアマトのティアお姉さんが現れた。
「なんだ、てめえは!?」
大男は、いきなり現れた女が、生意気な口をきくので、頭にきた。
「通りすがりのお姉さんだよ。まず、場所を変えようか。」
「気に入らないな。なに、おまえが仕切っているんだ!」
ティアマトは、少し念じて、手を竜の顔に変化させる。
「なんだ!? その手は!? おまえ化け物だな!?」
竜の手を見た大男は、あまりの異様さにたじろぐ。
「おまえに選ぶ権利はない。」
そういうと、竜の手は蛇のように伸び、大男に絡んで巻き付いていく。
「ギャア!?」
「ふん!」
ティアマトは、恐怖する大男を力任せに、外に放り投げ捨てる。ドスン! っと、大男は外に引き釣り出された。
「あわわわわ!?」
威勢の良かった大男は、もうビビってしまって、腰が抜けている。
「おまえみたいのがいるから、ライの家族の様子を見に来てよかった。」
ティアマトは、蔑むように、大男を見下す。
「い、命だけはお助けを!」
大男は、今までと違い、両膝を着いた低姿勢でティアマトを拝む。
「さようなら。」
ティアマトは、竜の顔の手を伸ばし、手は急に大きくなり、大男を丸のみにした。そして、元の人間の手に戻った。
「あ~、まずい、まずい。」
おいしくないと言っているが、ティアマトの気持ちは、スッキリしていた。
「ん?」
その様子を、ちいに見られてしまった。ティアマトは、怖がらせてしまったかな? っと思う。普通は、手が竜になるだけだも、驚くだろうし、大男を食べる所も見られてしまったのだ。
「怖い?」
「うんうん。お兄ちゃんみたいで、かっこよかった!」
ちいは、笑顔を送る。ティアマトは、意外な反応だが、自分が嫌われていなくて良かったと思った。
「お姉さん、強いんだね!」
「え、まあね。」
「でも、お兄ちゃんの方が、もっと強いよ!」
「そ、そうね。ライは強いわ!」
「ハハハハハ!」
こうして、ちいとティアマトは打ち解けた。ティアマトは、ライが留守の間、ライの家族を守るために、優しくてカワイイ!? ティアお姉さんとして、ちいの家に住み込むのだった。
ライの家に用心棒として住み込んだ、ティアマトのティアお姉さん。しかし、女神竜が人間の姿をして、人として、生活していくことは、容易ではなかった。
「お姉さん、起きて! 起きて!」
ちいは、寝ているティアマトを起こそうとする。
「もう少し、寝かせてください・・・。」
竜には、朝になったら起きるなどという、生活習慣は無い。竜は、その強さから、好きな時間に起き、好きな時間に寝るのだ。
「朝だよ! 起きて! 起きて!」
ちいが、ティアお姉さんの体を無理やり揺すって起こそうとする。
「もう、くすぐったい・・・。」
ムクムクと、体が竜の姿に変化していく。寝ぼけているので、本人に認識はない。
「おもしろい!」
子供のちいには、竜が怖いというより、人が竜になるのが、おもしろかった。
「こちょこちょこちょ!」
ちいは、調子に乗って、ティアお姉さんの全身をこちょばした。
「キャハハハハ! やめろ! くすぐったい!」
寝ぼけたティアお姉さんは、くすぐられて、メキメキメキ! っと巨大な竜になってしまい、ちいの家を破壊した。
「あ、やっちまったな・・・。」
ティアお姉さんは、やっと目を覚ました。
「お姉さん、カッコイイ!」
子供のちいは、大喜び。
「どうしてくれるんですか!?」
大人のお母さんは、激怒した。
「すいません・・・。」
ティアマトは、竜から小さくなり、人間の姿に戻った。穴があったら入りたい状態であった。顔には、反省の色が窺える。
「分かりました! 私が責任を取って、家を建て直します!」
ティアお姉さんは、やる気満々だった。
「お姉さん、お家建てたことがあるの?」
「ない。」
女神竜が人間の家を建てたことがある訳がなかった。
「でも、大丈夫! 私には、11の仲間がいるのだ!」
ティアお姉さんの仲間とは!? 悪い予感しかしない・・・。
寝ぼけて家を破壊したティアお姉さん。家を建てるために、ティアマトは、11の仲間を呼ぶというのだが・・・。
「いでよ! ティアお姉さんの愉快な仲間たち!」
ティアマトは、仲間を呼んだ。ザーザーっと、海から愉快な仲間たちが砂浜に上がって来る。7つ頭の大蛇、凶暴な龍、聖なる龍、巨大な獅子、狂犬、嵐の魔物、海の魔物、蠍の魔物、有翼の牡牛、毒蛇、魚の魔物が現れた。
「おねえさん、すごい!」
「エッヘン! どんなもんだ!」
「ば、化け物!?」
勢ぞろいした仲間たちは、とても雄大に見えた。もちろん、お母さんだけは、怯えている。登場はさせたが、キャラクター化して、人間の言葉を話せてしまうと、話が人が広がり過ぎるので、仲間たちは、人間の言葉は喋れない。
「さあ、みんな! お家を建設してちょうだい!」
ティアマトは、仲間たちに号令をかけた。
「・・・。」
しかし、誰も動かない。それもそのはず、竜や魔物が家の建て方を知っているはずがなかった。しかし、ティアお姉さんは、諦めない。
「そうか! 竜や魔物の姿をしているから、家が建てれないのね!」
そういうと、ティアお姉さんは、念じる。
「みんな、人間になれ!」
11の仲間が人間の姿に変化していく。
「すごい!」
「あわわわわ!?」
ちいは、手品を見ているみたいで、おもしろかった。パチパチパチ! っと、感激の拍手をする。お母さんは、万国ビックリショーを見たように、驚いて口から泡を吹き出している。
「私の愉快な仲間たち! 家の建設をよろしく!」
11人のイケメンになった仲間たちは、ちいの家を作り始めた。
そして、ちいの新しいお家が完成した。
「まあ、立派。」
「わ~い! ちいの新しいお家」
「ティアマト建築の素敵なお家をご紹介します!」
ティアマトは、仲間に建てさした家を案内する。
「まず門番は、凶暴な龍を配備!」
「わ~い! 強そう!」
「え!?」
これで外敵の心配はしなくてよくなった。
「庭には、毒蛇と蠍を巻きました!」
「一緒に遊びたい!」
「げ!?」
お庭の警備も完璧。
「室内にはペットとして、狂犬ちゃん!」
「カワイイ!」
「そうかしら・・・。」
これでライがいなくても、寂しくない。
「家の火力は、7つ頭の大蛇を設置!」
「光熱費が無料になるのね! やった!」
「お母さん、喜び過ぎ!?」
キッチン、お風呂が使い放題になった。
「食料も牛と魚と海の幸を冷蔵庫に入れときました!」
「ギュウギュウだね!」
「グロテスク・・・。」
いつでも新鮮な食材が食べれます。
「洗濯物は、嵐の魔物が自然の風で乾かします!」
「やった!」
「助かるわ!」
お母さんも大喜び。
「ベットは、巨大な獅子の背中をお使いください!」
「ぐっすり眠れそう!」
「毛並みが良さそう!」
高級ベッドである。
「そして、1番の目玉! 聖なる龍のエステサロン!」
「わ~い! 気持ちいい!」
「シミとしわが取れていくわ!」
エステサロンは、女性の憧れである。
「どうですか? ご満足いただけましたか?」
「は~い! 楽しいです!」
「まあ、いいでしょう。」
「ありがとうございます!」
ティアマットは無事に、素敵な新しいお家を作ることができたのだ。
ティアマトの建てた新築で楽しい新生活が始まった。それでも、ちいとお母さんには、命を狙われる危険があるかもしれなかった。
「ちいちゃん、おかあさん。」
「なに?」
「なんですか?」
ティアお姉さんが、ちいとお母さんを呼ぶ。そして、ネックレスを2連取り出す。
「このネックレスは、私の愉快な仲間たちを呼び出すことのできるネックレスです。宝石は、私の涙でできています。願いを込めて念じてくれれば、呼び出すことができるでしょう。」
「わ~あ! きれい!」
「あなたを泣かせば、宝石がたくさん出るのね?」
「・・・。」
お母さんの目つきが悪いのは置いといて、ティアマトの涙は、きれいなだけでなく、愉快な仲間たちを呼ぶことができるのだ。
「いでよ! 海のイカさん!」
お母さんは、さっそく海の魔物を呼び出した。
「少し足をもらうわね。」
ブスっと、イカの足を切り落とし、油の中に入れた。
「ゲソの素揚げできました!」
「お母さん、料理上手!」
「いや、そういう使い方は・・・。」
ティアお姉さんは、遠くを見つめる。
「いでよ! 有翼の牡牛さん!」
ちいは、有翼の牡牛を呼び出す。そして、牛の背中に飛び乗る。
「本州のお兄ちゃんの所まで飛んで!」
ちいは、兄のライに会いたいのである。バタバタと牛は翼を羽ばたかせる。
「飛ばなくていい。」
ティアマトの殺気に満ちた眼差しに、牛は、羽根を動かすのを止めた。
「ちいちゃんは、まだ幼いんだからダメ!」
「ケチ!」
「それに、ライは悪者退治をしているんだから、危ないのよ!」
「おばさん!」
「ムキ! 誰がおばさんですって!? ティアお姉さんでしょ!?」
「知らない。」
ちいは、ティアマトにプイっと、背中を向けて拗ねる。
「エヘヘ。」
ちいは、諦めていなかった。強い力を手に入れた、ちいは、ティアお姉さんの目を盗んで、お兄ちゃんの元へ、飛んでいこうと画策していたのだった。
つづく。




