翁と魔法とまな板と
「目の前に白い天井が見える、もしやここが天界……」
「何言ってるのかしら、ジュン・グリーンウェルズ」
しっかりとネタつぶやきを聞かれたらしい。俺はベッドの上に横たわっている。
たしか魔力切れで筋肉マッチョの足元にリバースした記憶はあるんだけれど……
「君は魔力切れで僕の足元にリバースした後、倒れたから僕が運んだんだぞ」
どうやらこの場には先のマリー先生以外に筋肉マッチョ、威圧感のキーネさんなどがいるらしい。
「ここは…… 医務室ですか?」
「それに準ずるところだと思ってくれればいいよ」
俺の問いに答えたのは僕の知らない人だ。
「あなたは……」
「あんた知らないのかい、ジュン」
威圧感さんに呆れられているが知らないものは知らないのだ。会った記憶すらないのだが……
「いいのじゃ、会ったこともないからのう、それに本当は会う予定もなかったはずなのじゃが……」
どうやら本当に初対面らしい。
「あなたは……」
「そうじゃったのう、わしはハンス・ゴレト。この学校の校長先生じゃ」
「校長?」
そういえば入学式とか無かったので校長とかの存在を忘れていた。確かここの創設者は食堂に全力を賭していた人だった気がするけど、その人の末柄なのだろうか。
「たしかにわしもその人の末柄じゃよ」
「えっと、僕何も言ってないんですけど……」
「校長先生は偉大な魔法使いで、相手の心を読む術に優れておられる」
筋肉マッチョが僕の疑問に答えてくれるようだ。
「別段、魔法で相手の心を読んでいるわけじゃないんじゃがの」
校長先生も否定こそすれ、別段気分を害しているわけでもない。
いま、疑問なのはどうして俺の周りにこんなに人がいるのか。しかも大人。
大人に囲まれる経験って前世ではあの就活の時くらいだったのだが、俺のチキンハートじゃ対応できないぜ……
「で、どういう用件で…… ただの魔力切れした生徒に対する対応にしては異常過ぎませんか?」
「そうじゃのう。とりあえず皆さん、私とこの子の二人きりにしてくれんかの? 少々内密のお話をしておきたいしの」
「でも校長……」
「キーネ、大丈夫じゃ。君らは生徒間で変な噂話が出ないように対応してほしいの」
「は、分かりました」
校長に促され、大人たちが部屋の外に出る。
この場には俺と校長の二人。先生が出てからしばらくたっているはずなのに、校長はそれでも話し始めないようだ。
さすがにこの空気はきまずい。たぶんチキンハートでなくても厳しいだろう。
「あの…… 校長先生?」
「ジュンくん、じゃったな」
「あ、名前ですか? はい、そうですけど……」
「君は前世の記憶を持っているかね」
「えっ……」
なぜ急にそんな話を始めるのだろうか……
「安心するといい、外には誰もいないし、私の魔法で防音にしてある。音は必ず漏れんよ」
「あの……」
「ああ、質問の意味かね? 気にすることはないよ。君に神の力の一端を感じたからじゃよ」
「神の力の一端?」
「そうじゃ。神の力。それは神聖不可侵じゃ」
「神聖不可侵」
俺にとってはあれはまな板でありそれ以上でもない。この世界の人にとって神様の扱いは恭しいものかもしれないが、正直俺はあまりまな板を敬っていない。それゆえの神聖不可侵という言葉とのミスマッチに頬を緩めてしまう。
「どうやら、神様と会ったことがあるようじゃな」
「ええ……」
どうせもう隠すことなどできないだろうし、この校長先生なら何とかなるだろう。あんまり嫌な感じがしない。昔からこの手の直感は外したことが無いのだ。こいつオタクっぽい。こいつ隠れリア充だ…… うっ頭が……
「気にする出ない。わしもあったことがある」
「えっ、そうなんですか?」
「そうじゃよ、だからと言って前世の記憶があるわけではないがの。会ったのも最近じゃしな」
「最近?」
「まぁ最近と言っても7年ほど前じゃな。お主が生まれる数日前じゃよ」
あの神様がこんなおじいちゃんと会話ねぇ。校長は確か70歳くらいだったはずだ。あくまでおぼろげなエルとの会話の記憶の上でだが。
「神はこう言っておった『この世界に前世の記憶を抱いて生まれる男の子が生まれるよ~。その子は素晴らしい力を持つと思うから、頑張ればおじいちゃんの人生の最期を彩ってくれるかもね☆』とな。なのでそのお告げを聴いた日から後1週間のうちに生まれた男の子を調べたのじゃよ。そしたら不思議なことに君以外おらんかった。普通は毎日のように生まれる赤ん坊なのに、その1週間では一人しか生まれなかった。ゆえにその町の神父に伝えて、ここに通わせるようにしたのじゃ。授業料は格安にしておるから安心しても良いぞ」
「そういうことでしたか。校長とまない…神様との関係はいったい……」
「ああ、なるほど。君はまな板とあの神様を呼んでおるのか。なるほどのぉ」
校長はどうやらあの神様を見てもまな板とは認識してなかったようだ。これから神様はまな板であることを布教していかないとな。
「ああ、申し訳ないが、私と神様との関係は秘密じゃ」
「そうですか……」
「まぁその辺はきにするでない。代わりにいいことをしよう」
え、校長との良いことって何ですかね…… 私にそんな性癖はないんですが…… 同性愛者でもないし年上、しかも自分より70も上の人との関係は持ちたくないっす。
「そのいいこととは……」
とりあえず聞いてから考えよう…… 無難な返しを今のうちに考えとかきゃなきゃ……
ウホッ、オデ、ノンケ……
だめだ正常な思考ができない。
「わしじきじきに魔法をおしえてあげよう」
「ファッ!!」
「だからこれからわしと二人きりの時は師匠と呼ぶのじゃ」
「え?」
「いやかの?」
「いえ…… 光栄ですけども……」
ちょっと予想が外れすぎたので脳内に適切に言葉が響かなかった。落ち着け俺……
「つまり、校長先生が私に魔法を直接教授すると」
「そうじゃ。君の魔力は非常に多いし、質も高い。だがこれからまだまだ延ばすことができよう。だが、この学校の教員レベルじゃ、悲しいかな、これ以上の発達は無理じゃろうし、貴族からの反発も大きかろう。ゆえ、極秘と言う形で私に師事する形で門下に入ってほしいのじゃ」
普通に考えれば校長の教授、しかも見た感じ偉大そうなオーラも出している。もしかしたらこの世界を魔法で無双するレベルに達するかもしれない。しかし、その引き金があのまな板神様だと考えるだけで ちょっとうさんくさい。
「返事は今じゃなきゃダメですか?」
「ダメじゃ」
ああ、逃げられないらしい。たいてい、こういう場ではゆっくり考えてねとか言うんだけどなぁ。
ここで拒否した時にどういう状況に陥るだろうか。
「拒否したからといって君に危害を加えることはない、と保証しよう。言葉でしかないがの」
校長はそういうと不気味に笑う。
正直、超怖い。さっきまで人の良いおじいちゃんって雰囲気だったのに。
「あ、じゃあ…… よろしくお願いします」
「決まりじゃな」
ふう…… 急に威圧感が消えた…… これがおじいちゃんの力…… 年の功ってやつか……
「それにしても君はすごいんじゃの。わしがちょっと本気出して魔力で威圧感を形成したのに…… 少し自信を無くしてしまうの」
はいっ確信犯宣言来ました。相当怖かったよ。キーネさんの威圧感並だったよ。
「では外に出ようかの。エルくんだったかな、君のルームメイトも心配しておろう」
これからどうなるんだろうなぁ、ああ、お腹空いたなぁ 俺は校長のおじいちゃんスマイルに送られながら部屋を出た。
ありがとうございます




