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都市と図書館と威圧感と

「ナガラの街が見えてきましたよ」

 野宿を終えて馬車に揺られること8時間くらいだろうか、どうやら前方にナガラの街並みが見えてきたようである。

「……良かった」

 ミカがそうつぶやき、俺もそれに同感する。たしかに害獣が少ない地域とはいえ、やはり何かに襲われる可能性は皆無ではないのだ。むしろ夜盗なども十分に考えられる。そんな中、何も問題なくナガラについたということは十分に幸運に値するだろう。

「ボアラさん、ありがとうございました」

「いえいえ、荷物と一緒に運んだだけですから」

「……ありがと」

 もじもじとしながらもミカもきちんと感謝を伝えられたようだ。


 ナガラの街並みはミヨーよりは立派だった。が、やはり前世の日本に比べるとのどかさを感じさせる街並みでもある。

 街の中で一番高い建物は教会である。この世界の教会はどこも大きいのか、ここもミヨーに負けず劣らずの大きさを誇っていた。

 また、その教会のすぐ隣には大きな建物群がある。それは日本の大学を思わせるかのようなアカデミックな雰囲気を持ち、様々な人が出入りしているようだ。

「あそこが学校ですか?」

「そうだよ、今見えているのは学校の図書館だね。学校の図書館は学生以外も使えるように開放されているんだ」

 図書館がある、というのは俺にとっては素晴らしい利点である。もともと大人だった俺は他の子どもよりははるかに理解力がある。また今は若い体、いや脳を持っているので吸収も早い。前世では少しくらい勉強しておけばと思ったことが少なくない数ある俺は、あたらしい知識にどん欲になっていた。異世界万歳。

「まぁ先に学生寮に行こう。荷物もあるしね」

と言って、進んだのは教会や学校の少し奥に言ったところにある、アパートみたいなところである。

「キーネさん、いらっしゃいますか?」

 馬車を止め、荷物を降ろした俺とミカを連れて、門をくぐるとボアラさんは「ちょっと待っててね」と言って奥の方へ消えていった。先の言葉は奥から聞こえたボアラさんの声である。


 しばらくするとボアラさんが威圧感を伴って戻ってきた。

「この子がジュンにミカだね」

「よ、よろしくおねがいしますッ」

 脊髄反射で声を返したものの、俺の足は震えていた。ここでの生活だけでなく、前世でもこんな経験はない。すさまじい威圧感を放たれているのだ。

「……よ、よろしく」

 ミカもどうやらギリギリ返事を返せたようだ……

「はい、よろしく。私はキーネ。この寮の寮母だよ。これからよろしくね」

 威圧感の名前はキーネというらしいが、あまりの威圧感に顔を上げることができず、顔も何も見ることができない。分かるのは腹囲が半端ない威圧感を放っていることだけである。

「ボアラもお疲れさん」

「いえいえ、ミヨーの神父様のお願いですし、あなたがいれば安全ですし」

 ボアラは笑顔で話している。今までボアラさんをただの人の良い商人だと思っていたが、この威圧感を前にして声色を変えずに話せるのだ。予想以上に肝が据わっている。ちょっと評価アップだ。


「じゃあ、部屋を案内しよう。カレン!、カレンはこの子を案内しな」

「は~い」

 威圧感は奥にいたカレンという女性にミカを案内させるようだ。

 ミカはシャイガールっぷりを存分に発揮しながらも可憐についていった。いつもならなかなか踏み出さないのだが、今回の場合は別。いそいそと威圧感から自分の荷物をもって離れていった。

「じゃあ、ジュン。お前は私が案内するから。ついておいで」

ですよね~。知ってた。

 俺は威圧感にちびりそうになりながら、自分の荷物を手汗で何回も落としそうになりながら、威圧感の後をついていく。

 威圧感はその威圧感ゆえか、前に歩いている人を端に押しのけながらずんずんと進む。

 進んだ時間は客観的には1分程度なのだろうが、主観的には1時間にも感じられるほど長く、喉が渇き、そして何よりも尿意がやばかった。威圧感のせいでまるで膀胱を圧迫されたかのようだ。

「ジュン、ここがお前の部屋だ。中にはルームメイトもいる。2人1部屋だから、中のルームメイトと仲良くしな。いいね」

「は、はいッ」

 またしても脊髄反射。

「じゃあ、私はさっきの場所をうろついているから、何かあったら遠慮なく声をかけとくれ」

 威圧感はもと来た道をずんずんと進む。威圧感が離れていくにしたがって、緊迫した空気が和らいでいく。たった一人の存在でここまで変えられるのだ。これはもはや神様レベル。転生前に会ったまな板の神様なんか比でもない。

 しかし、同時に襲ってくるこの感覚、そうそれは限界突破間近の尿意である。威圧感に案内された部屋のドアを開け、そして部屋の真ん中の椅子に座っていた金髪イケメンに向かって開口一番言った言葉は、

「トイレどこですか!! やばいんです!!」

 金髪イケメンの顔ははてなマークを浮かべていた。

ありがとうございました

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